
「第12回 BFA U12アジア選手権」に臨んだ侍ジャパンU-12代表は全勝で、3大会ぶり2回目の優勝という快挙を成し遂げた。
侍戦士を率いた桑田真澄監督は、勝利のみならず選手たちの人間的成長も促すため、行動指針を示して自ら考える力を育んだ。
約1ヶ月という短い代表活動の中で、選手たちの意識や行動はどのように変わったのか。第2回ではチームの転機となった出来事や、ミーティングでのやり取りからその成長の過程をたどる。※全3回のうち2回目
(取材 / 文:白石怜平、写真提供:全日本軟式野球連盟)
指揮官の厳しい投げかけが選手の意識を変える
桑田監督がチームのターニングポイントとして挙げたのは、8月8日の出来事だった。7日に中国入りし、9日の初戦に備えて行った前日練習。その時の選手たちの様子に、危機感を覚えたという。
「集中力を欠き、緊張感のない練習になってしまったんですね。その日の夜のミーティングで、『今日は監督宣言をするよ』と言ったんです」
ここで選手たちに言ったのは「今日の練習見たけど、この状態では優勝はできない」。選手そして指導者として何千試合と経験してきた百戦錬磨の桑田監督。目標を達成するために、今のままでいいのかを問いかけた。
「『このような練習をしていては、優勝なんてできない。本当に残念だ。みんなはそれでいいのか?もう一度、自分たちでよく考えてほしい』と伝えて、ミーティングを終えたんです」
その問いかけを、選手たちは自分たちの行動を見つめ直すきっかけにした。
第1回で紹介した“BCR”を通じて、自ら考える姿勢を育んできた選手たちは、ミーティング後にすぐにアクションを起こす。その行動が桑田監督の不安を「これなら優勝できるのでは」という希望へと変えた。
「その夜選手たちは自分たちだけで集まり、もう一度原点に立ち返って全員で頑張ろうと話し合ったようなんです。
僕は翌朝まで知らなかったのですが、これからどう立て直そうかと考えていた時に、キャプテンの伊藤龍成くんと副キャプテンの堤三蔵くん・大野凑助くんが『監督、少しお話ししたいことがあります』と来たんです。
そして、『昨夜、選手全員で話し合って決めたことがあるので、発表してもいいですか?』と言ってくれたんですね。その言葉を聞いた時に、選手たちの主体性と成長を感じ、優勝への希望が見えてきたんです」

選手たちは大会が始まると力を発揮し、オープニングラウンドから勝利を重ねていく。自分たちで話し合った経験は、チームの結束にもつながっていた。
初戦のフィリピン戦後、堤選手は「選手間でミーティングをして良かったです。より団結しましたし、みんなで決めた約束事もできました」と語った。
大和田与喜選手も2戦目のパキスタン戦後に「団結もどんどん強まっている」と述べるなど、選手たち自身もその変化を感じていた。

学びと成長の場となった毎日のミーティング
侍ジャパンU-12代表では、合宿から大会期間中まで毎日全体ミーティングを行っていた。知識の習得や自ら考える力を養うとともに、試合で見えた課題を次のプレーにつなげる場でもあった。
振り返りではできなかったことを責めるのではなく、次に何へ挑戦するかを共有する。桑田監督は、前日の試合映像を全員で見直した際のやり取りを紹介した。
「朝食後に全員で前日の試合映像を見ながら、プレーを“グッド”と“チャレンジ”に分けて振り返りました。
これはコーチが『バッドではなく、チャレンジにしましょう』と提案してくれたんです。この考え方はとても大切だと思いました。
例えば、合宿の時から『ボールがバットに当たったら、守備側は全員が動くんだよ』と繰り返し伝えていました。ところが映像を見ると、みんなが動いている中で、一人だけ守備位置から動いていない選手が映っていたんです。
本人も『あっ、自分だ……』と気づくわけです。そこで責めるのではなく、『次はしっかり動けるように挑戦しよう』と伝える。本人の気づきにもなりますし、チーム全体で学びを共有することができましたね」

桑田監督の“言葉”がチームをつくる
ここまで行動指針や考える力を養うことで、技術向上と人間的成長の両立を図ってきた桑田監督。その他にも選手たちを指導するにあたり、あることを大切にしていた。
「僕は『言葉がチームをつくる』と考えているので、選手たちには心に残る言葉をたくさん伝えました。そして僕の指導の特徴は、一方的に教えるのではなく“語りかける”ことなんです。
例えば、『準備の積み重ねが勝利に近づく』という言葉です。準備を怠れば勝利は遠ざかり、準備を積み重ねることで勝利に近づいていくと伝えました。
翌日からは『準備の積み重ねは?』と問いかけ、選手たちに続きを答えてもらう。先ほどの守備の話でも、『ボールがバットに当たったら?』と聞くと、『全員が動く!』と返ってくる。
最後の方は、僕が『じゅ』と言っただけで、『準備の積み重ねが勝利に近づく!』と、全部答えてくれるようになりました(笑)」
桑田監督が代表活動で掲げた目標は「アジアチャンピオンを勝ち獲る」ことと、「自分で考えて行動できる人」になることだった。
全勝優勝でアジアチャンピオンを成し遂げながら、もう一つの目標に向けても確かな手応えがあった。約1ヶ月の活動を終える頃には、選手たちの受け答えや日々の行動にも大きな変化が表れていたという。
「選手たちはあらゆる面で成長してくれましたが、特に大きかったのは人間的な成長ですね。
主体性が芽生えて、何でも答えを求めるのではなく、まず自分で考え、自分なりの意見を持って質問や提案ができるようになりました。
それがグラウンドの中だけでなく、日常生活でも自然にできるようになったことがとても嬉しかったですね」

チームをつくり上げていった“言葉”は、グラウンド外で起きた出来事に応じても増えていく。食事や睡眠といった生活面の大切さも、覚えやすい言葉にして蓄積されていた。
ここで「まだ小学生なので可愛らしいんだけれども」と、笑みを交えながら宿泊時のエピソードを披露した。
「ある夜、僕の部屋をノックして、数人の選手が『監督、僕たちと一緒に寝てもらえませんか?』と来たんです(笑)。
『ちゃんと自分たちの部屋で寝なさい』と伝えたら、翌日はまた別の選手たちが来たんですね。
これは睡眠の大切さも教えなければと思い、新しい言葉を伝えました。食事の大切さは“Eat to Win”、そして今度は“Sleep to Win”。勝つためには、しっかり食べて、しっかり寝ることも大切なんだよと。
そうやって一つひとつ言葉を覚え、実践しながら成長してくれましたね」

小学生でもプロ野球選手と同じ準備を実践
わかりやすい言葉でボキャブラリーを増やしながら、教える内容は「小学生だから」と限定しなかった。桑田監督はプロ野球選手にも伝えている状況判断や準備の考え方を、選手たちと共有していた。
「僕は小学生だからといって教える内容を制限せず、プロ野球選手にも伝えていることを、彼らにも教えました。
もちろん言葉はわかりやすくしましたが、例えば野球には12通りのボールカウントがあり、カウントによって打者も投手も考え方や準備が変わるという話もしました。
また、さまざまな状況を想定したミーティングも行いました。ノーアウト2塁ではどんな準備が必要なのか。1アウト2塁になったら何が変わるのか。そうしたことを一緒に考えました。
最初は知らなくて当然です。でも、選手たちは少しずつ理解を深め、『1アウト2塁ではハーフウェイですね』『ノーアウト2塁ではタッチアップ優先です』と、質問するとすぐに答えられるようになりました」

なぜ小学生であっても高度な話をしていたのか。それは野球界の未来を担う選手たちが、共に過ごした経験を将来に活かせる種を蒔いていたからだった。
「今、すべてを理解できなくても、まったく問題ありません。大切なのは、プロ野球選手がどんなことを考え、どんな準備をしているのかを、小学生のうちから知っておくことです。それは中学、高校とステージが上がった時に、必ず役立つと思うんです。
将来、彼らが中学、高校、大学、社会人、そしてプロへと進んだ時に、『あの時、桑田監督が言っていたのは、こういうことだったんだ』と気づく瞬間がきっと来ると思います。
その時に少しでも役立つように、今できることを伝え、将来につながる学びの種を蒔いておきたいと考えていました」
代表活動を通じて成長を見せた選手たち。その姿を支えたのは、一人ひとりの可能性を信じ、挑戦を促す桑田監督の指導だった。最終回ではその指導論とともに、日本野球の未来への思いに迫る。
(つづく)
