経験と科学の融合で指導も“最適化”に 侍ジャパンU-12代表 桑田真澄監督が描く日本野球育成の未来

「第12回 BFA U12アジア選手権」で侍ジャパンU-12代表を指揮した桑田真澄監督の特別インタビュー。

代表での活動期間を通じて、選手たちの成長の軌跡をたどってきた。そして本編では桑田監督の指導論にフォーカスする。

かねてから指導のアップデートを提唱し、自らも学びを重ねてきた桑田監督。経験や研鑽から培ってきた理論を紐解き、日本野球の未来に向けた指導のあり方を探る。※全3回のうち最終回

(取材 / 文:白石怜平、写真提供:全日本軟式野球連盟)

失敗から学び、挑戦することが成長のプロセスに

本インタビューで、桑田監督は侍ジャパンU-12代表を率いた中で行ってきた数々の指導方針を共有してくれた。

「自分で考えて行動できるようになること」

「言葉がチームをつくる」

「語りかけて選手に答えてもらう」

これらをグラウンド内外で実践し、約1ヶ月という短期間で選手たちの成長を支えた。こうした指導の根底にある想いを語った。

「何より大切なのは、子どもたち一人ひとりが持つ可能性を信じてあげることだと思います。僕は、スポーツは本来楽しむものだと考えていますので、今回の代表活動でも、選手たちが楽しく、前向きに挑戦できる雰囲気づくりを心がけました」

選手たちには名前やあだ名で呼び、ミーティングでも「君たちは」という主語で統一するなど、言葉遣いにも気を配った。一人ひとりを尊重する姿勢は、選手たちとの接し方にも表れていた。

選手たちの持つ可能性を最大限に引き出してきた(提供:全日本軟式野球連盟)

桑田監督はかねてから、古くから残る一部の指導法に一石を投じ続けてきた。改めて、なぜその指導法が成長を阻害するかを以下のように説く。

「これまでの野球界には、失敗したら交代させられる、失敗したら負けるという風潮がありましたよね。怒鳴られたり、僕たちの時代には殴られることもありました。

そうなると、選手は失敗しないことを最優先に考えるようになります。失敗を恐れて消極的になり、挑戦しなくなる。つまり、成長する機会を失ってしまうんですよね」

今回の代表活動でも「チャレンジしよう」「BCRのC(Challenge)だよ」などと呼びかけた。守備でも「ゴロは迷ったら前へ」と声をかけ、恐れずに挑戦する姿勢を育んできた。

挑戦を促す言葉と失敗を受け止める姿勢という両輪があってこそ、選手は次の一歩を踏み出せる。桑田監督は失敗と成長の関係を語った。

「僕は失敗から学び、改善してもう一度挑戦する。その繰り返しこそが成長のプロセスだと考えています。だからこそ、指導者が失敗を許容し、選手が安心して挑戦できる環境をつくることが、とても大切だと思いますね」

失敗し、そこから学ぶことも成長の過程に必要と述べた(筆者撮影)

未来へのキーワードは“最適化”

桑田監督は現役時代から指導におけるアップデートを提唱している。引退後は早大大学院で学び、東大硬式野球部の特別コーチやBCリーグ・信濃グランセローズでの臨時コーチなどを担当。

21年からは巨人でコーチそして二軍監督などを歴任し、さまざまな年代やカテゴリーの選手と向き合いながら、指導者として研鑽を積んできた。

ただ指導のアップデートは、過去を全て否定することではない。桑田監督が重視するのは、時代の変化や選手一人ひとりなど広い視野に目を向けたものだった。

「昔の指導法がすべて間違っていたとは思いません。その時代には、その時代なりの合理性があったのだと思います。ただ、社会も科学技術も大きく進歩しているのですから、指導法も進化していく必要があります。

野球の道具や戦術、トレーニング方法は大きく進化していますよね。それなのに、なぜ指導法だけが昔のままでいいのでしょうか。時代に合った指導へとアップデートしていくことが大切だと思います。

野球をする子どもたちが減っている今だからこそ、一人ひとりをより大切に育てていく必要があります。ただ、大切に育てることを甘やかすことだと捉える人もいますが、決してそうではありません。

今回のU-12代表でも、同じ小学6年生でありながら、身長や体格、体力、技術、成長の度合いはそれぞれ違います。だからこそ、一人ひとりの特徴や成長段階に合わせた指導が、とても重要だと考えています」

桑田監督はこれらの姿勢を表す言葉として、一つのキーワードを挙げた。

「一般的には“最大化”という言葉が好まれますが、僕はこれからの育成や指導に本当に必要なのは、“最適化”ではないかと考えています」

これからの野球界は“最適化”が必要と説く(筆者撮影)

昨今、野球界では競技人口の減少が課題と言われている。これについても、人数の増減だけでなく、一人ひとりに十分な練習や出場の機会があるかという視点から捉えていた。

「僕たちの時代は野球部員が多すぎて、3年間一度も試合に出られなかったり、十分な練習機会さえ与えられなかった選手もいました。それでは、何のための部活動なのかと思いますよね。

もちろん競技人口が減ることは課題ですが、単に人数を増やせばいいわけではありません。一人ひとりに成長する機会がある、適切な人数や環境を考えることも大切です。これも一つの“最適化”だと思います」

今回のアジア選手権では15名の選手を全員起用した。緊迫した試合をグラウンドで経験することで自分の課題に気づき、これからも真剣に野球へ取り組む動機を得る機会になった。

「僕は、スポーツは楽しくなければいけないと思っています。試合に一度も出られなければ、野球の本当の楽しさを感じることも難しいですよね。

試合に出てうまくいかなかった時に、『自分にはここが足りないんだ。よし、もっと練習して上手くなろう』と思えることが大切なんです。

そうすれば、誰かにやらされる練習ではなく、自分で考え、目的を持って練習するようになります。その主体性が、さらなる成長につながっていくんですよね」

U-12では全員が出場し、野球への情熱をさらに高める機会になった(提供:全日本軟式野球連盟)

ここで挙げた“最適化”というのは、指導にも当てはまると考えている。

桑田監督は競技人口が減少する背景を自ら調べ続けている。少子化やスポーツの多様化に加えて長時間の練習、家庭の経済的負担、指導者による叱責や威圧など、複数の要因が関わっていると分析してきた。

その上で桑田監督は、各所で提唱してきた“効率的な指導”の意図を詳細に語った。これまでテクノロジーやデータの活用について述べてきたが、決してそれだけを指導に活用するという意味ではない。

「僕はスポーツ医科学の活用を提唱していますが、決して昔からの経験や感覚を否定しているわけではありません。

長年の経験から培われた知識や感覚には、大きな価値があります。そこに科学的な根拠やデータを組み合わせることで、より質の高い指導ができると考えています。

僕はデータや科学ばかりを重視していると思われることもありますが、経験や感覚、感性も同じように大切にしています。その両方を融合させることが、最適な指導につながると思うんです。

また、子どもたちの集中力には限界があります。長時間練習すれば上達するわけではありません。2〜3時間でも、目的を明確にして集中して取り組めば、質の高い練習はできます。

人数も、練習時間も、指導方法も、一人ひとりの成長に合わせて最適化していくことが、これからの野球界には必要だと思います」

科学と感性を組み合わせ、最適な指導につなげている(提供:全日本軟式野球連盟)

大きな希望を持つ野球人が抱く目標

桑田監督が説く指導のアップデートは、日本野球の良き伝統を受け継ぐことと両立している。150年以上の歴史の中でこれからも大切にしていきたいものは何か。そう問うと、U-12代表で実践した取り組みを語ってくれた。

「これからも大切にしていきたいのは、挨拶や礼儀、そして相手を尊重する心です。これらは野球界だけでなく、日本の素晴らしい文化でもありますから、次の世代にも継承していきたいですね。

それから、道具を大切にすることです。U-12代表でも、試合が終わると必ずグローブやスパイクを手入れしました。ナイターの後でも、ホテルの廊下に新聞紙を敷いて、全員で磨いたんです。

『この道具は、お父さんやお母さんが一生懸命働いて買ってくれたものだから、感謝の気持ちを持って大切に使おうな』と伝えました。選手たちも、その意味を理解して取り組んでくれましたね」

代表活動を通じて日本野球の良き伝統も継承した(筆者撮影)

子どもたちに言葉と成功体験など、さまざま残した今回の代表活動の先に、どのような未来を見据えているのか。最後に訊ねると、桑田監督は自身の想いを最後に語った。

「日本野球界のさらなる発展に貢献することが、僕の人生における大きな目標であり、使命だと考えています。

まずは、長年の課題であるプロとアマチュアの垣根をなくしていきたい。そして、世代や地域、組織の枠を越えて、日本の野球界が一つになり、子どもたちを育てていける環境をつくりたいと思っています。

プロ野球がさらに発展し、素晴らしいプレーや試合を通じて、多くの国民の皆さんに夢や感動を届ける。そして、その発展が学生野球や学童野球、女子野球、ソフトボールなど、野球界全体の発展にもつながっていく。

そんな未来を実現するために、これからも学び、挑戦し続けていきたいと思っています。僕は日本野球の未来に大きな希望を持っている、一人の野球人です」

未来に大きな希望を持ち、野球発展に力を注ぐ(提供:全日本軟式野球連盟)

侍ジャパンU-12代表で、選手たちの挑戦と成長を支えた桑田監督。一人ひとりの可能性を信じ、自ら考えて行動できる環境をつくる。その実践には、野球界全体で育み、日本野球の未来につなげたいという思いが込められていた。

(了)

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