野球選手の食事に「万人の正解」はない 管理栄養士が説く「まず自分を知る」こと

今季のNPBで最も高いパフォーマンスを発揮した投手の一人が、西武の平良海馬だ。

「シーズンが経るにつれて、よくなってくると思います」

夏前からそう“予言”していたとおり、後半戦に状態を上げてパ・リーグ最高の防御率1.36をマークした。

平良が上記のように話したのは、体重増加に取り組んでいたことが根拠の一つにある。

身長173cmの平良は先発転向した今季、約92kgで開幕を迎えた(※体重は通常時で、ユニフォームを着て食事をした後は約94kg)。

だが、試合で投げるなかで球速アップの必要性を感じ、増量に取り組んだ。毎日インボディ(体組成計)で計測しながら食事量を調整し、シーズン後半になると通常時は96〜97kg、試合時は98〜99kgに。「力=質量(体重)×加速度」と表されるが、ストレートの球速もアップしていった。

「有名な選手がやっているから」ではなく……

平良は管理栄養士と個人契約し、日々必要な栄養を計算してもらい摂取している。プロ野球選手は文字どおり「体が資本」で、その道のプロと二人三脚で取り組んでいるのだ。

野球選手がパフォーマンスを高めていく上で、「食事」は極めて大事な要素である。学童野球の選手からプロ野球のトップレベルまで、その重要性は広く知られているだろう。

では、プロ野球選手のような資金力を持つわけではないアマチュアの選手は、日々の栄養をどのように摂取すればいいのか。

「よく聞かれますけど、『普段の食事や練習・トレーニングの内容を確認しないと、簡単にはアドバイスができません』と伝えています」

管理栄養士で全日本野球協会医科学部会員の廣松千愛さんは、率直に答えた。それくらい必要な栄養には個人差があり、それぞれ体質も異なるので、万人に共通する”正解”は挙げにくいということだ。

だからこそ廣松さんは、野球選手たちにまず取り組んでほしいことをアドバイスする。「自分で自分をきちんと知ること」だ。

「例えば、有名な選手が取り組んでいるから自分もやろうと考える選手もいると思います。そうではなく、自分に合う食事、合わない食事を知ってください。それぞれ体格も違えば、好みも違うし、置かれている環境も違います。自分のことを知って、何ができるか、何をすべきかを考えることをまずは行ってほしいです」

同じ野球をする選手でも、年齢や体の大きさ、運動量などにより、必要な食事量や内容は変わってくる。自分は何を目指し、そのためにはどれくらいの体重にしたほうがいいのか。

平良のように増量して球速アップを目指すのがいいケースもあれば、体重を減らしたほうがパフォーマンスアップにつながる場合もあるだろう。

選手それぞれの目的により、食事のとり方は変わってくる。だからこそ、まずは「自分をちゃんと知ること」が大事になるのだ。 

大切なのは「優先順位」

廣松さんは今年6月、『食べて強くなる! 野球選手の栄養と食事』を出版した。同書を読むと、「何を」「いつ」「どのように」食べるかの重要性がよく伝わってくる。

また、同じものを食べる場合でも、摂取するタイミングで効果は変わる。

例えば筋肉量を増やすためには、たんぱく質の摂取も重要になる。ではプロテインを補給するとして、いつ行うのが効果的か。同書では、論文を根拠にこう説明されている。

「運動後に食事をとるタイミングが遅れる場合は、補食やプロテイン飲料を活用してたんぱく質を補給しましょう。ただし、運動を行うことで骨格筋への血流が増え、胃腸などの消化器官への血流が制限されます。そのため、運動中や運動直後のタイミングは消化機能が低下し、消化吸収に時間を要します。運動終了5分後のような運動直後よりも、運動30分後を摂取タイミングの目安としましょう」

なかにはウエイトトレーニングの合間や直後にプロテインを飲んでいる人もいるだろうが、吸収を考えると、運動30分後を目安とするほうがいい。

ただし、それはあくまで”理想論”だ。廣松さんが説明する。

「食事と食事の間が長く空くようであれば、飲まないよりは、飲んだほうがいいです。優先順位だと思います。次の練習まで15分しかないなら、練習と練習の間に飲むほうがよいです。ただし、時間にもっと余裕があるなら、30分後くらいを目安に飲んだほうがいい。いろんな根拠があるなかから、『この選手に合った、ベターな選択肢を提案する』ことが管理栄養士には求められます。『絶対にこうしてください』ではなく、今できるなかで最善の策を提案しています」

まずは「彩りのいい食事」&毎日の体重測定

万人の日常にある食事だが、栄養学の世界は深遠だ。廣松さんの著書を読むと、その奥深さが感じられる。

「そうですね。自分に合ったものがわかっていないと、うまくいかないことが多いのではと思います」

だからこそ野球選手は「自分自身を知ること」とともに、栄養に関して一定以上の知識を身につけることが望ましい。

本書では栄養学の知識が基礎から解説され、選手や保護者が実践しやすい方法も紹介されている。すぐに始められるのは、食卓にひとつ色を加えること。廣松さんは「彩りのいい食事」と表現している。

理想は必要な栄養素を計算して食べることだろうが、そのハードルは低くない。そこで食卓の彩りがよくなるように、足りない色の食材をひとつ追加する。例えば、赤色の食材が食卓に並ばないことが多ければ、トマト、赤パプリカ、かぼちゃ、にんじん、グレープフルーツなどをどれかひとつ加えてみる。そうすると、不足しやすい栄養素が補えるようになることがあります。「彩りのいい食事」をとるようにする。それなら、多くの家庭で実践可能だろう。

「まずはそこからだと思います。それと、今まで体重や身体組成の変化に意識をして取り組んだ経験のない選手は、毎日体重を量ることですね。自分の体を知ることから始めるのは本当に大事だと思います」

毎日体重を計ることも同様だ。体重の増減を確認することは、必要なエネルギー量を摂取できているかどうかの目安になる。どんな練習やトレーニングをしている時期は体重が減りやすくなるかなど、自身の変化に敏感になれば、さまざまな気づきもあるだろう。

食事は習慣であり、意識によるところが大きい。子どもの頃から食事を大切に取っていけば、大人になっていく過程で、その効果が積み上がっていく。

*後編へ続きます。

(文:中島大輔)

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