コーチを務め運営を行う菅澤遼氏は、コンサルタントとしての経験と野球への情熱を融合させ、「普通の子でも成長できる環境」を形にした。
GATE1FIELDが育んでいるのは、野球の技術だけではない。考える力、伝える力、そして人生を歩み抜く力である。
後編では、その独自の育成哲学と、未来へ向けた挑戦に迫る。
(写真 / 文:白石怜平)

未来ある野球人を救った少年との話
ドアを開けると全面人工芝のフィールドが広がり、大谷翔平選手とラーズ・ヌートバー選手のユニフォームが目に飛び込んでくる。
壁面はレンガ調で網は緑ではなくシルバーで施されており、MLBのボールパークを想起させる装飾となっている。これは菅澤氏のある想いが表現されていた。
「ここを子どもたちにとって“近所の公園”にしたいんです。今公園でボールを投げられる場所が減っていますよね。
なので、『ここに来たらバットが振れる・ボールを投げられる』と思えるように敷居低くして気軽に来れるような場所がいいなと。それで、ボールパークのようなイメージを考えました」

子どもたちにとっての心の拠り所にしたい。開業時からそう考えていた菅澤氏は今も通っている少年とのエピソードを明かしてくれた。
「体も強くて速い球も投げられるポテンシャルはあるんだけども、チームにいると気持ちの面などで本来の力が出せずに野球を辞めようと考えていた子が生徒でいました。
今もですがここに通い続けてくれて、さらに成長してきてチームを青葉区優勝に導くほどの力を発揮しています。5年生から6年生の春には『菅澤コーチとの歩みが支えになって、誰に言われようとも気にしなくなりました』と。
最初から中心選手ではなかった子たちが地道に1年・ 2年と積み重ねて、せっかくいいものを持っているのに野球を辞めてしまったかもしれない子を一人でも救えたことが何より嬉しいです」
野球を通じて育む、社会で通用する力
GATE1FIELDが目指しているのは、野球が上手な選手を育てることだけではない。考えを言語化することや、周囲と協力できる人間の育成を実践している。
その考え方の根底には、コンサルタントとして長年企業で働いてきた菅澤氏自身の経験がある。
「仕事をしていてすごく感じたのは、頭が良いとか知識があるだけでは足りないということでした。相手の言っていることを理解して、その意図をくみ取り、自分の言葉でアウトプットできるかどうか。それってどんな仕事でも必要な力だと思っています」
だからこそ、野球というスポーツをきっかけに、その力を子どもの頃から身につけてほしいと考えている。
「野球を通じて、ちゃんとコミュニケーションが取れる子どもになってほしい。自分と関わったことで、子どものうちからそういった力を身につけて社会でも活躍する大人になってほしいんです」

そのため、レッスンでは一方的に技術を教え込むことはしない。当然ながら打つ・投げる・守るといった練習は反復して行うが、同様に大切にしているのが「考える時間」と「話す時間」であった。
「僕が説明するだけではなくて、子どもたちにも話してもらいます。先週教えたことをもう一回聞いたり、『今日はこういう練習をするけど、なんでこれをやると思う?』って質問したり。クイズみたいな感じで進めることも多いですね」
答えをすぐに与えるのではなく、自分で考え、自分の言葉で説明する。その積み重ねが理解を深めていく。長く通う選手になると、その変化は顕著に表れるという。
「五、六年生になると、『肩甲骨がこっちに動くからです』とか、『外旋がこうなって』とか普通に話し始めるんですよ。小学校三、四年生でも賢い子は答えます。骨や筋肉、関節の名前まで説明できるので、外から見たら驚かれると思います」
もちろん、専門用語を暗記することが目的ではない。なぜその動きをするのかを理解し、それを人へ説明できる状態になること。その過程を何より重視している。
また、その姿勢は子ども同士の関わり方にも表れている。体験に新しく来た子どもがいれば、長く通っている選手が自然と準備運動を教え、荷物を置く場所を案内する。
「僕が『サポートしてあげてね』と言うこともありますけど、もう長くいる子は何も言わなくても動きます。逆に体験の子がいるのに、自分たちだけで練習を始めてたとしたら注意します」
今はホワイトボードに体験の子がいることを記すだけで、自ら確認し声を掛けに行くカルチャーが醸成されている。
「僕から指示はしていないです。でも自然と見るようになるんです。『荷物はこっちだよ』『一緒にやろう』って。そういう目配りや気配りは野球だけじゃなく、大人になってからも必ず必要な力です」

データは“参考”と“共有”に活用
菅澤氏は生徒のデータ計測も取り入れ、指導へと活かしている。主にスイングの計測を行っており、機器はBLASTを用いている。その活用方法については「独自のデータの見方をしています」とし、以下のように明かしてくれた。
「僕はそれぞれの“スイングを作る”ことが特に育成年代の子たちに対しては大事だと考えています。なので数字や用語を伝えてもまだ理解は先なので、映像を見ながら『こういう形になってきているから良くなっているね』と、上達した実感や成功体験を掴んでほしいと思って活用しています」
取得したデータは菅澤氏の方で全員分を管理し、それを踏まえて生徒に合わせたドリルを組んでいる。育成年代におけるデータの活用方法についてはこう考えている。
「我々がどういった練習・トレーニングを子どもたちに課したら、数字が良くなるのかを正確に把握する材料ではないかと。大切なのは、技術者や指導者同士で共有した方がいいです。
『こういう練習したら数字がこれだけ上がりましたよ』といった話をお互いして、であればドリルに入れてみようかというのも、僕も日々工夫をしています。
それでまたお互い進化していければいいと思うので、それを判断する材料だと考えています」

「育成の循環」をつくる。GATE1FIELDが描く未来
開設から3年が経過し、当初考えていた事業構想の約3倍のスピードで進化を遂げていると語る菅澤氏。現在構築された3本の柱について整理した。
「一つは野球のスキルを高めること。もう一つは体を自由に動かせるようにする操作性やムーブメント。そして最後がフィジカルです」
その一環として、センター北にあるボディストレッチマシンを備えたジムと技術提携を開始。野球技術を教えるのではなく、理想とする野球動作を引き出すための専門的なトレーニングが受けられる環境を整えた。
さらに施設内にはスミスマシンを導入し、中学生以上を対象としたウェイトトレーニングもスタートしている。
「昔は『中学生でウェイトをすると身長が伸びなくなる』と言われていました。でも今は医学的にもそうではないことが分かっています。高校へ進学した時、中学時代から体づくりをしている子との差が大きくなるんです」

そしてここから、GATE1FIELDは新たなステージへ歩み始めている。菅澤氏は、一人の選手をより多角的に支えられる環境を整え、その育成が次の世代へと循環していく仕組みをつくる構想を持っている。
「本当はこの先に栄養とメンタルも入れたいんです。スキル・操作性・フィジカル、そして栄養とメンタル。この五つがいい形でつながった時に、自分が思い描く育成環境が完成すると思っています」
菅澤氏が何より楽しみにしているのが、卒業生たちの未来である。開設当初に中学2年生だった子どもたちは、今では高校2年生。これから高校野球でレギュラー争いを経験し、大学や社会人へ進む選手も増えていく。
「もし大学へ行って指導者になりたいという子がいたら、ここで研修もできます。卒業生なら考え方も理解してくれているので、将来スタッフになってくれるかもしれない。本当にそうなったらうれしいですね」

教えられる側だった子どもが、やがて教える側となり、次の世代を育てる。その循環こそが、GATE1FIELDの描く未来である。さらに、その関係は野球を卒業して終わるものではない。
「僕はいつまで経っても“みんなのコーチ”でいたいんです。カテゴリーが変わっても、大人になってもずっと関わっていける存在でありたいと思っています。
一番は社会で活躍できる人になってほしい。『やりたかった仕事に就けました』『行きたい会社に入れました』って報告してくれる日が来るのを楽しみにしていますし、きっと相談にも来るのではないでしょうか(笑)」
野球で身につけた考える力・伝える力そして挑戦し続ける姿勢は、社会へ出ても必ず生きる。
その歩みをいつまでも見守り続ける“みんなのコーチ”であり続けることで、「GATE1FIELD BASEBALL LABO」から可能性に満ちた人材が輩出されていく。
(了)
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