国境を越え、人と未来をつなぐ 「野球界のプラットフォーム」が沖縄で築く新たな価値 〜ジャパンウィンターリーグの軌跡【後編】〜

日本初のトライアウトリーグとしてスタートした「ジャパンウィンターリーグ(JWL)」は、開催を重ねる中でその役割を大きく広げてきた。

沖縄で生まれた出会いは国境を越えて今もつながり続け、球界だけでなく地域経済や国際交流にも新たな価値をもたらしている。

後編では、JWLがこの5年間で築いてきた新たな価値と、沖縄から世界へと広がる未来の構想に迫る。

(取材 / 文:白石怜平、写真提供:ジャパンウィンターリーグ)

選手だけではない 指導者にも広がる新たなキャリア

ジャパンウィンターリーグ(JWL)が生み出しているのは、選手の新たな挑戦だけではない。その舞台は、指導者やコーチにとっても次のキャリアへ踏み出すきっかけとなっている。

現在、香川オリーブガイナーズで指揮を執る小川龍馬監督もその一人。

もともと教師として働いていた小川氏は「もう一度プレーヤーとして挑戦したい」という思いから第1回大会では選手として参加し、ヨーロッパのクラブと契約を結ぶと選手としてリスタートを切った。

その後は再び指導者の道を志し、JWLでコーディネーターを務めた経験をきっかけに香川とのつながりを築き目標を実現させた。

「選手として挑戦した後に、今度は指導者として羽ばたいていきました。JWLがその転機になったと思います」(鷲﨑氏)

JWLではコーディネーターを務めた小川龍馬(提供:ジャパンウィンターリーグ)

こうした”人と人をつなぐ”役割は、国境を越えてさらに広がっている。

第3回後には社会人野球の名門・トヨタ自動車と、24年台湾プロ野球の覇者・中信兄弟を結ぶ交流が実現した。きっかけは、それぞれが抱えていた課題だった。

中信兄弟からは「捕手コーチを探している」という相談が寄せられ、一方のトヨタ自動車は、アメリカ発の育成メソッド「ドライブライン」の知見を取り入れたいと考えていた。

「その話を聞いた時に、『細山田(武史)さんしかいない』と思いました。同時にトヨタさんもドライブラインの指導を受けたいと言っていたので、この2チームをつないだら、お互いにメリットがあると考えたんです」

中信兄弟には、第2回JWLへの参加をきっかけに同球団の打撃コーチへ就任したダニエル・カタラン氏が在籍している。JWLで生まれた縁が、新たな国際交流を生み出した格好だ。

中信兄弟の打撃コーチを務めるダニエル・カタラン氏(提供:ジャパンウィンターリーグ)

鷲﨑氏は競技面だけでなく、企業としての将来性にも目を向けていた。

「トヨタさんは世界を代表する企業です。選手たちも将来は社業に携わることになります。だからこそ、海外で指導する経験は野球だけでなく視野を広げる意味でも大きな財産になると思い提案しました」

この構想は実現し、トヨタ自動車からは細山田武史コーチと辰巳智大コーチが台湾へ派遣され、中信兄弟からはカタランコーチが来日。互いの知識や指導法を学び合う”交換留学”が実現したのだった。

野球がつないだ国境を越える絆 JWLで生まれる”もう一つの財産”

JWLがハブとしての役割を果たしているのは、野球での契約や成長の機会だけではなかった。4年間の積み重ねの中で鷲﨑氏が強く実感しているのが、国籍や所属を越えた“仲間”の存在である。

「横のつながりが年々形になってきていると感じています。同じチームでプレーした選手同士が、大会が終わった後もずっと交流を続けているんです」

JWLではプロ、社会人、独立リーグ、海外選手が同じユニフォームを着て約1か月をともに過ごす。そこで得られた絆は大会に限定されるものではなかった。

当時同じチームだった選手たちは、数年が経った今でもSNSで「Team Strings」などと投稿し、再会を喜び合っている。

さらに日本の社会人選手が休暇を利用して台湾を訪れ、JWLで出会った中信兄弟の選手たちと試合後に食事を楽しむなど、その絆は今も続く。

「言葉は完璧には通じなくても、『会いに来たよ』と伝え合って、一緒にご飯の時間を過ごしているんです。そういう関係が続いているのを見るとうれしいですね」

同じチームで共にした者同士の絆は終わっても固いものになっている(提供:ジャパンウィンターリーグ)

また、沖縄ならではの交流も生まれている。JWLには米軍嘉手納基地でプレーする若い選手たちも参加しているが、大会後にはアメリカ本土から来日した20代前半の選手たちと親交を深めるようになった。

大会後には互いの家を行き来し、感謝祭では家族ぐるみでターキーを囲むなど、野球をきっかけに生まれた友情は家族へと広がっていった。

「基地の中という限られた環境で野球をしている子どもたちが、本土の選手たちと交流できたことを親御さんも本当に喜んでくれました」

保護者から招かれた鷲﨑氏は嘉手納基地内でJWLやサマーリーグについて説明する機会を得た。そこから新たな参加希望者が生まれ、交流の輪は少しずつ広がり続けているという。

「これはまさに国際交流だと思っています。沖縄には米軍基地があり、さまざまな文化が共存しています。その環境だからこそ野球を通じて新しいつながりが生まれ、また次の参加者へとつながっていく。それもJWLの大きな価値だと感じています」

26年、「美ら島沖縄大使」の任命を受けるなど社会的な評価も

ジャパンウィンターリーグ(JWL)は野球界だけでなく、沖縄にも大きな価値を生み出してきた。

25年の経済効果はサマーリーグを含めると約6億3,200万円に達し、スポーツイベントの枠を超えて地域経済や産業にも波及効果をもたらしている。

鷲﨑氏はここまでを振り返り、競技面と経営面の双方で確かな手応えを感じているという。

「経営としては80社以上もの企業に協賛いただき、安定した運営ができています。野球面でもプロ球団やアドバンスリーグに参加してくださるチームが増え、その後に活躍する選手も確実に増えてきました」

参加する選手それぞれが飛躍する舞台となっている(提供:ジャパンウィンターリーグ)

その歩みは球界だけでなく、社会からも評価を受けるようになった。

今年の4月、各界で活躍する著名人が名を連ねる「美ら島沖縄大使」に任命。JWLの代表という肩書で表彰されたことは、これまで積み重ねてきた活動が社会的にも認められた証となった。

「肩書があるかないかでは大きく違います。4年間積み重ねてきた実績を評価していただけたことが、本当にうれしかったですね」

一方で、鷲﨑氏は現状に満足しているわけではない。「正直、もっとできたとも思っています」と、率直な言葉を口にした。

当初はアマチュア選手を中心に「陽の目を見ない場所に光を当てる」ことを目的にスタートしたJWLだが、継続する過程でNPB選手や海外代表選手、一流指導者まで集まる場へと発展した。

「これは正直、予想していませんでした。想像以上にこのリーグを必要としてくれる人たちがいたと改めて実感します」

一方で、会社としての成長にはまだ大きな伸びしろがあるとも考えている。

「売り上げも今年で2億円規模まできましたが、自分の中ではもっと成長できると思っています。事業としても、まだまだ可能性があると考えていますね」

ベースボールEXPO構想が今年から本格始動

2026年、5回目を迎えるJWLは新たなステージへ踏み出す。

鷲﨑一誠代表が数年来掲げてきた「ベースボールEXPO構想」が本格始動し、選手だけでなく野球に関わるあらゆる人材が挑戦できる場づくりを加速させる。

JWLでは『陽の目を見ない場所に光を』という理念を選手以外にも照らしたいと取り組んできた。

トレーナー・場内アナウンス・実況・アナリスト・スポーツテック企業を対象に、インターンや実証実験の場を設けてきた。そして今年、新たに通訳育成プログラムを加え、6つの柱を並行で構築していく。

「これまで積み重ねてきた取り組みを、今年から『ベースボールEXPO』としてしっかり打ち出します。それぞれのプログラムがウィンターリーグ期間中に並行して進み、それぞれの分野で挑戦が生まれる場にしたいと考えています」

26年も新たな挑戦で注目を集めている(提供:ジャパンウィンターリーグ)

中でも新設される通訳プログラムには、すでに多くの応募が集まっているという。

講師の指導のもと、参加者は実際の現場で通訳を経験しながらスキルを磨き、その働きぶりが球団や関係者の目に留まれば、その場で次の仕事や採用につながる可能性もある。

「実戦を経験して成長できるだけでなく、現地でオファーがかかることもある。それがJWLならではの魅力です。キャリアへの入口までつなげていきたい、そう思っています」

鷲﨑氏が目指すのは、“選手だけが主役の大会”ではなかった。続けてこのように明かしてくれた。

「今はどうしても選手を中心に関係者が集まる大会に見えるかもしれません。でも、このコンセプトは野球に関わるすべての人に当てはまると思っています。それぞれのプログラムに主人公がいて、それぞれが挑戦できる場にしたいんです」

さらに2026年は、アクセラレータプログラムも新たな段階へ進む。昨年は国内のスポーツテック企業を対象としていたが、今年はさらに広げた構想を描いている。

「アクセラレーターは今年、台湾も巻き込みながら進めていこうと思っています。スポーツテック企業を世界中から集めて実施する予定なので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね」

昨年、スポーツテック企業を招いてアクセラレータプログラムを展開した(提供:ジャパンウィンターリーグ)

沖縄というアジアの結節点を舞台に、選手だけでなく、企業や技術、人材までもが国境を越えて交わる環境を築くこと。それこそが鷲﨑氏の描く「ベースボールEXPO」の姿である。

鷲﨑氏が描く未来は、もはや「ウィンターリーグ」の枠には収まらない。

5年前、一人の野球人生の再挑戦から誕生した国内初のウィンターリーグは、いま多くの人の未来をつなぐプラットフォームへと成長した。

ただ、その歩みはまだ通過点に過ぎない。

『沖縄から世界へ』

ジャパンウィンターリーグは野球界のハブをさらに強固にするべく、6年目のシーズンも歩みを進めていく。

(了)

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