【日本ハム・大渕スカウトインタビュー④】野球選手の“個人アスリート化”が進む今、プロ野球で活躍する選手の共通点

(※第1~3回インタビューは以下からご覧ください)

日本ハム・大渕スカウトインタビュー①
日本ハム・大渕スカウトインタビュー②
日本ハム・大渕スカウトインタビュー③

あなたのコーチは誰ですか?

大川慈英やエドポロ・クリストファ・ケイン・セカンド、大塚瑠晏、半田南十、藤森海斗、さらに常谷拓輝や横山永遠という、2025年のドラフト会議で北海道日本ハムファイターズに入団した7人の新人選手に、大渕隆GM補佐兼スカウト部長は入団時にそう投げかけた。

この言葉には、現在の球界で活躍するために大事なヒントが隠されている。

野球選手の個人アスリート化

昭和→平成→令和と時代が移りゆくなか、大きく変わったのが「指導者と選手の関係」だ。大渕スカウトが説明する。

「昭和の選手はコーチの“指示待ち”でした。平成になって”コーチング”というものが出てきて、選手とコーチが対等に会話する能力が必要になりました。令和は自走力。今は自分で情報をとる時代です。自分で目標設定をして、自分を高めるためにアプローチしていく。それをうまくできるのが北山亘基(日本ハム)であり、活躍している選手はだいたいそうやっていますね」

スマホやSNS、YouTubeやAIなどを駆使し、あらゆる情報を検索できるのが今の時代だ。

そうして自分自身を高めていく上で、野球選手にとって絶対値が判明するトラッキングデータは大きな助けになる。現在地を知り、目標到達点を設定できるからだ。たとえチームが強くなくても、以前より個人でのし上がりやすくなった。大渕スカウトが続ける。

「今はトラッキングデータという絶対値で比較できる時代です。甲子園に出るとか、強豪校のレギュラーにならないと、達成できないというものではありません。つまり自走していく能力と、自分で情報を取っていく能力が必要になる。野球選手がより個人化し、個人アスリート化しているわけです」

プロ野球で活躍する選手の共通点

チームスポーツの野球で「選手=個人アスリート」という側面が強くなるなか、プロ野球で活躍する選手には共通点がある。

(1)野球中心の生活ができる

(2)自立、独立している

(3)継続できる

一軍のレギュラーや球界のスターを目指し、さまざまな誘惑に負けず、質の高い努力をいかに続けていけるか。「コーチに指示されたから」「周囲が取り組むから」という理由ではなく、「自分で必要と思うから」練習する。その質を高め、継続していくのがセルフマネジメント力だ。

教育や人材育成では「自律学習」と言われるが、「自ら目標を立て、遂行するための力」が重要とされる時代である。

とりわけ競争の厳しいプロ野球では、自走力やセルフマネジメント力は不可欠な能力だ。大渕スカウトが続ける。

「セルフマネジメントをするには、自分を俯瞰して見なければいけません。自分が今こういう位置にいて、何ができていて、何ができていないか。それを把握するためには、“もう一人の自分”がいなければいけません」

自分自身を客観的に見て、成長の道筋を立てて歩んでいく。そのために必要なのが“もう一人の自分”――つまり自分のコーチは自分である、ということだ。

育成から登り詰めた左腕のメッセージ

上記で紹介した「活躍する選手の共通点」をまさに実践し、育成選手から球界最高峰に登り詰めたのがソフトバンクの左腕投手リバン・モイネロだ。

21歳でキューバから来日する際、発掘した萩原健太スカウトが首都ハバナの空港で待ち合わせると、モイネロはカバン一つで現れた。

「必要なのはグローブとスパイク、Tシャツ、短パンだけだ。あとはくれるんだろ? 俺は日本にお金を稼ぎに行くんだから、これだけで十分だ」

ハバナ→パリ→東京→福岡という空路では、一睡もしなかったという。萩原スカウトが「寝ないの?」と聞くと、モイネロは「すぐに活躍するために、今から日本の時間に合わせていく」と答えた。

来日1年目の6月に支配下登録されると、34試合で4勝3敗1セーブ、15ホールド。ブルペンに不可欠な戦力となり、2024年から先発転向してエースの活躍を見せている。

ソフトバンクには中南米から多くの若手選手が加入しているが、モイネロは後輩たちにこんなアドバイスを送っている。

「早寝早起きして、早く一軍に上がれるように練習しろ。俺らは日本にカネを稼ぎに来ている。SNSで遊びや食事、洋服を投稿する必要なんてない。野球に集中しろ!」

野球は逆転可能な競技

プロ野球選手の“寿命”は短い。NPBによると、2025年の平均在籍年数は6.3年。2016年は8.5年、2020年の7.7年と、どんどん短くなっている。

一方、30歳を超えてポテンシャルを開花させる選手や、40歳近くまで活躍する選手も少なからずいる。他競技に比べ、勝敗やパフォーマンスにフィジカルの占める割合が少なく、技術や経験が求められることが一因だろう。つまり競技年数を重ねれば重ねるほど、上達できるのが野球の特徴だ。

言い換えれば、高校時代はチームで控えや“中位”だった選手が、大学以降で逆転可能な競技でもある。

そのために必要なのが、自分を成長させていく力だ。

特にプロ野球では登録枠が決められており、周囲との競争に勝ち続けなければ生き残れない。そうした世界で長らく活躍を続けるためには、セルフマネジメント力が不可欠になる。

だからこそ、大渕スカウトは新人選手にこう伝えている。

「これからは、“もう一人の自分”というコーチが必要です。なぜなら、君たちは個人事業主だからです。自分という選手にどうやってお金を稼がせるか。そのためのコーチに、自分自身がならないといけない」

あなたのコーチは誰ですか?

プロ野球選手に限らず、あらゆる人にとってヒントの詰まったメッセージだ。

(文・中島大輔)

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