リアルとデジタルが交わる新たな野球 2人の日本代表が挑んだ「WBSCバーチャルカップ2026」

8月15日・16日の2日間、韓国ソウルの奨忠(チャンチュン)体育館で「WBSCバーチャルカップ2026 ワールドファイナル」が開催された。

巨大なスクリーンの前にバッターボックスと専用機材が設置され、各国の選手たちは実際に飛んでくるボールをバットで打ち、その結果が画面上のフィールドへ反映される「バーチャル野球」で世界一を争う。

日本代表として参加したのが、独立リーグでのプレーを重ねてきた土屋剛さんと、全日本野球協会(BFJ)の一員として野球普及に力を入れる四方田隆聖さんの2人。

このバーチャル野球とはどのような競技で、国際大会でもあった本大会はどう盛り上がったのか。四方田さんに紐解いてもらう過程のなかで、野球とテクノロジーが交わった新しい競技の姿が少しずつ見えてきた。※全2回のうち1回目

(取材 / 文:白石怜平、Photo credit: morpheus0416)

WBSCが主催する“バーチャル野球”の国際大会

「WBSCバーチャルカップ2026」は、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が主催する国際大会の一つ。

モーションで再現された投手の投球が画面から実際に飛んでくるものを、金属バットで打ち返す。打球の行方はセンサーで判定され、結果は画面上に表示される仕組みである。

韓国発の技術「Strikezon(ストライクゾーン)」を用いたこの大会は、2022年に韓国で第1回大会が開催され、4年ぶりに第2回大会が同じく韓国で行われた。

WBSCは、従来の野球だけではない新たな競技にも取り組んできた。

例を挙げると男女混合で行われ、ゴムボール一つがあれば狭いスペースでも楽しめる「Baseball5」がその一つであり、eスポーツも野球との新しい接点として広がりつつある。

本大会も参加国を拡大させるなど普及に力を入れており、四方田さんはBFJの立場から以下のように見解を口にした。

「野球の競技人口拡大を視野に入れて、新しいものにチャレンジしていきたいという考えがWBSCにあります。

オンラインゲームのように画面の中だけで完結するのではなく、実際に体を動かして体験してもらえるところが新しい取り組みです」

4年ぶりに開催されたバーチャル野球の国際大会(Photo credit: morpheus0416)

Baseball5と同様に、野球の枠を超えた競技人口の裾野を広げるWBSCの姿勢が、この大会拡大の根底にある。

前回大会から参加国を大きく広げ、日本・アメリカ・韓国・メキシコに加え、イタリア、サウジアラビア、台湾、タイの8カ国・地域、計12チームが出場した。(前回大会は4カ国)

選手たちの特徴としては、独立リーグなどプロとして野球を経験している選手や高校生など年代も幅広い。

アメリカ代表の一人には、レッズやホワイトソックスでもプレーし、23年には西武でもプレーしたマーク・ペイトンさんが参加していた。

ルールは1チーム2人制。3アウトで交代し、決勝以外は3イニング制とテンポよく打順が回ってくる。映像上の投手と打席との距離は10m程と近いため、球速表示は110km/h前後だが、四方田さんによれば体感速度は130km/hを超えるという。

バーチャル上の投手から放たれるボールを打つ(Photo credit: morpheus0416)

使用するバットは金属製で、ボールも一般的な硬式球とは少し異なり、「感触としては硬式に近いですが、日本でいう準硬式のような素材でした」と使用球について述べた。

バーチャル野球はただ打つだけの競技でなく、守備でも工夫が凝らされている。投球には速いストレート・遅いストレート、チェンジアップの3種類が設定されており、3イニングの中で守備側は球種を5回まで変更が可能。

チャンスで打者のタイミングを外すためにチェンジアップを使うのか、それとも終盤まで残しておくのかといった、野球にも通ずる駆け引きが存在する。

加えてポジショニングも変更できるため、相手の打球の傾向を瞬時に判断すれば守備体系で失点を防ぐ戦術も。

このように実際に体を使いながらデジタル空間で一つの試合を作り上げるのが、バーチャル野球の大きな特徴である。試合に出場した四方田さんは、競技について感じたことを以下のように語った。

「イメージとしては、シミュレーションゴルフが野球で表したような競技です。試合では打席がすぐに回ってくるので、運動強度もすごく高かったですし、守備では終盤の1点勝負など使うタイミングを考えないといけないので、配球でも駆け引きがありました」

日本代表として出場した四方田隆聖さん(Photo credit: morpheus0416)

発祥国の韓国と日本の普及状況

「WBSCバーチャルカップ」は、第1回から2大会続けて韓国で開催されている。その背景には、韓国にバーチャルスポーツを楽しむ文化が育っていることが一つにある。

四方田さんは大会前日の14日、公式練習のため韓国内にある既存のバーチャル野球施設を訪れた。そこで目にしたのは、本格的に競技へ取り組む選手だけではなく、親子やカップルなどが気軽にバットを振っている光景だった。

「カラオケに行くような感覚でやっていました。もちろん野球をやっている選手が練習で利用することもあるみたいですが、韓国では誰でも楽しめるような普及のされ方をしていると感じましたね」

このバーチャル野球自体も韓国が発祥地であり、元々はシミュレーションゴルフの発想から誕生したのだという。

国内で野球人気が高く、IT技術を利用したサービスも発展を見せている韓国だからこそ、リアルとデジタルを融合させた野球の形がつくられた。

一時のピークから施設数は減少傾向にはあるものの、現在も韓国ではバーチャル野球を楽しめる環境が残っている。

韓国ではプレーできる場所があるなど普及している(Photo credit: morpheus0416)

一方で日本ではどうか。本大会と同じ機材を使える場所は、日本国内では現時点で大阪府内スポーツショップ1カ所のみ。

現時点では「バーチャル野球」という競技として設置されているというよりも、スポーツショップなどにあるバッティング練習設備の一つとして利用されている意味合いが強いという。

土屋さんと一度練習のため足を運んだという四方田さんは「日本で普及しているかと言われれば、まだそこまでではないと思います」と、国際大会を経ての日本の現在地を述べた。

競技実績に国際経験を加えた代表選定

では、今回なぜ四方田さんと土屋さんが世界大会に出場することになったのか。二人は独立リーグでプレー経験があり、高いレベルのカテゴリでの競技実績があった。

加えて選出における大きな基準は大会では通訳がつかなかったため、「英語が話せること」が条件となった。

JICA(青年海外協力隊)としてタンザニアに赴任していた経験を持つ四方田さんと、韓国の独立リーグでのプレー経験がある土屋さんは、いずれもこの条件を満たしていた。

2人は北海道の独立リーグ時代に対戦相手として面識があったこともあり、2人の出場が決まったのだ。

四方田と共に日の丸を背負った土屋剛さん(Photo credit: morpheus0416)

そして韓国へと渡った2人だが、会場となった奨忠体育館に足を踏み入れた四方田さんは、まずそのスケールに驚いた。

「『こんなところでやるのか』というのが第一印象でした。K-POPアイドルもライブをするようなアリーナに機材を持っていって、特設ステージを建てていました」

そこにあったのは、これまで想像していた野球の国際大会とはまた違う空気だった。各国のチームは2人、全員で24人という少数精鋭のメンバーが集まった。

だからこそ選手同士の距離は近く、前日練習では国籍の異なる選手が同じスペースで練習しながら、互いにアドバイスを送り合った。

「我々も他国の選手ともすごくコミュニケーションを取れました。お互いにアドバイスし合ったりしながら練習できたので、そこはバーチャル野球独特の雰囲気なんだなと感じました」

練習時から国境を超えた交流を深めた(四方田さん提供)

真剣勝負の世界大会でありながら、国を越えて互いに高め合うべく共有する。そんな光景もバーチャル野球ならではだった。

大会初日にはオープニングセレモニーに加え、KBOのレジェンド選手が競技を体験するイベントやK-POPライブも行われるなど、大きな盛り上がりを見せた。

スケジュールの都合もあり「ほぼぶっつけ本番でした(笑)」としながらいよいよ迎えたグループステージ初戦。

四方田さんたちを待っていたのは、これまで感じることのなかった世界大会ならではの難しさだった。

(後編へ続く)

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