「正しい投げ方」は一つではない。故障予防とパフォーマンスを両立する方法

投手にとってパフォーマンスアップと故障予防を両立するために重要なのが、理想的な投球メカニクス(フォーム)を身につけることだ。

では、どうすれば習得できるのか。整形外科専門医で「ベースボール&スポーツクリニック」の理事長を務める馬見塚尚孝医師は、「内部モデルを徐々に適用させながら、理想とする動作を探していくことが大事」と語る。

「みんなに正しい投げ方」はない

前回の記事でも紹介したように、内部モデルは「自ら身体の仕組みを学習して修正していきながら、制御の精度を高めていくこと」だ。

個人にとって理想的な投球フォームを求めるためには、グレーディング(力の調節)、タイミング(時間的な調節)、スペーシング(空間的な調節)の3つが重要になると馬見塚医師は語る。

「構造化しながら、理想的な投球動作を探していきます。それでも、(故障リスクの観点から)“正しいフォーム”というのは40%しか説明できません。残りの部分は、本人の体の硬さや筋力、身長などを踏まえ、一緒に探していこうというコーチングにせざるを得ないということです」

投球理論に則りながら、個人の特性を踏まえ、それぞれに合った投球動作を一緒に探していくことがコーチには求められる。

だからこそ「野球障害リスクのペンタゴン」を理解することが重要だと馬見塚医師は説く。

「例えば暑い時期に脱水状態になって投げると、故障率が高くなります。一方で寒くて、末梢神経の温度が32度以下になると、1度下がるごとに1メートル毎秒ずつ運動神経伝導速度が下がるので、思ったタイミングで投げられなくなります」

以上がペンタゴンの「(4)コンディション(環境要因)」だ。さらに、「(5)個体差」について馬見塚医師が続ける。

「体が硬い人は肩のインピンジメントや、腰痛分離症がすごく多い。柔軟性を上げることが大事です。でも、人間には代償作用があります。投球フォームには柔軟性や、足が速いかどうかも影響します。つまり、“この人に正しい投げ方”はあるけれど、“みんなに正しい投げ方”はありません。だからこそ5つの要因(投球数、投球強度、投球動作、環境要因、個体差)を最適化できるように、コーチは選手と一緒に探索していくことが大事になります」

「積み上げ型」と「課題解決型」

1回目の記事でも述べたように、「障害予防の主体は選手やコーチ」だ。選手やコーチは試合での勝利やパフォーマンスアップを求めているなか、障害予防をどう両立するのか。馬見塚医師が提案するのは、「課題解決型のトレーニングと積み上げ型トレーニング」の採用だ。

「学校の勉強で言うと、積み上げ型トレーニングは単元ごとに第一章を勉強して、第一章の章末問題を解く。次は第二章を勉強して、 第二章の章末問題を説く。文字通り、積み上げていくのが積み上げ型トレーニングです」

積み上げ型トレーニングは「ボトムアップ式」とも言われ、まずは身体の土台を整え、その上に積み上げてパフォーマンスを高めていくアプローチだ。

対して課題解決型は、現状と理想のギャップを見つけて解決していく。馬見塚医師が続ける。

「例えば受験生が東大の赤本を解いてみて、どの分野ができないかを明らかにして、そこを潰しにいくのが課題解決型です。積み上げ型、課題解決型の両方とも必要です。パフォーマンス構造に基づいた戦略を立てながら、障害予防も一緒にやっていく。そういう考え方を私は提案しています」

(文/中島大輔・改編/馬見塚尚孝)

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