今シーズンのNPBで、圧倒的パワーを見せつけているのが日本ハムだ。5月7日時点でチーム本塁打44本。同2位のソフトバンク(27本)に17本の差をつけ、最少のロッテ(15本)と比べて3倍近くも打っている。
パワフルな打撃の裏には何があるのだろうか。
「アタックアングルの調整は、二軍での利活用はだいぶ進んでいます」
そう話すのはエイジェックスポーツセンターでアナライザーを務める関口雄大さんだ。2008年から2012年までDeNA、日本ハムでプレーし、現役引退後は昨季まで日本ハムのアナリストなどを歴任した。
打撃指導の“正解”
4月中旬に配信され、野球ファンの間で話題を呼んだ記事がある。
「打球速度は”正義”。日本ハム・横尾俊建コーチが語る打球データ活用法」というラプソード社によるものだ。
日本ハムは打球データをどう計測し、選手の育成に活用しているのか。同記事内では「打球速度」と「打球角度」、さらに「除脂肪体重」を上げることの重要性などが語られている。関口さんが続ける。
「今年から横尾俊建打撃コーチが一軍の担当になりました。記事で述べられていたようなことを当たり前にみんなが『やろう』となり、できるようになっている状態です」
現在の野球界では、科学的根拠に基づいた取り組みが以前より重視されるようになった。例えば本稿の前編では「除脂肪体重はスイング速度や球速と比例関係にある」という関口さんの解説を紹介したが、「どのアタックアングルで打てばヒットが出やすい」かも“正解”がわかっている。
では、チームは選手たちにどうアプローチするのか。関口さんが説明する。
「まずは本人がどういう選手になりたいかが大事だと思います。我々が『アベレージバッターかな』と見ていても、『ホームランバッターになりたい』という選手がいたら、乖離がありますよね。ではコーチやフロント陣が『この選手はアベレージ型を目指したほうがいいのでは』という話し合いの場を設けるか、設けないか。そこでアベレージ型を目指そうとなった場合、物理的な正解が打球速度、角度で出ているので、そこにコンスタントに打っていけるように再現性や対応力を高めていくためのドリルや、練習内容にどんどん変わってくると思います」
データは何のために使うのか
2026年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表が準々決勝敗退に終わった直後、「データ活用の遅れ」が敗因の一つとして挙げられた。
なぜ、日本ではデータ活用がなかなか進まないのか。関口さんが見解を述べる。
「日米でフィットネスの概念が大きく違う部分が根底にあると思います。アメリカではアーノルド・シュワルツネッガーみたいに、“デカい、強い、カッコいい”というシンプルなメッセージが広まった時代があります。
かたや日本は“すらっとした美男子”という方向ですよね。いまだに『ウエイトトレーニングをすると身長が伸びない。ケガにつながる。筋肉が固くなる』というのが一般的な認識だと思いますが、そこから変えていかないといけない。中高生からウエイトに取り組めないと、後に取り組んでもフォームの習得から行わないといけないので、遠回りになってしまいます」
トレーニングの正しい理解は、打球速度や球速とも結びつく話だ。関口さんが続ける。
「基本的にフィットネスは除脂肪体重と言われるものにつながります。簡単に言うと『筋肉量が多ければスイングが速い、投球が速い』という部分が確実に出ています。それがなくても速度を出せる選手はいるけれど、体のどこかに無理がかかって1シーズン持たないとか、ケガしがちとかが発生します。そういったベーシックをやらないことには長くパフォーマンスを発揮できません」
まず必要なのは、選手自身がこうした基本を理解すること。日本ハムでは、そうしてデータ活用が進んだという。
先頭に立ったのが、主力打者の近藤健介(現ソフトバンク)だった。関口さんが説明する。
「近藤選手が変化量プロットをいち早く取り入れてくれました。相手投手がどんな球を投げてくるか、ということです。近藤選手が行えば、後輩も『じゃあ僕も』となりますよね。チームのトップ選手の行動を下の選手は見ているので。そうしてチーム内で変化量プロットが一気に浸透しました」
変化量プロットは、「Baseball Savant」で掲載されているように各球種を変化量でグラフに落とし込んだ図だ。これを見れば、相手投手のピッチングがイメージできる。関口さんが続ける。

「スコアラーが『スライダーがキュッと曲がるよ』とか、『ドローンっていう感じだよ』という説明から、ファイターズはいち早く脱した球団だと感じています。他のチームにはこうしたベーシックを理解していない選手もいるかもしれませんが、『数字はウソをつかない』とか、打球速度や球速などという数字が表すさまざまな意味をわかっていかないと、『じゃあ、このデータを今日の試合の局面でどう見ますか』というところに結びつかないと思います。特にバッターは受け身の判断なので、(投手のボールが来るまでの)0.4 秒の中の0.01秒でも削りたい。その手助けとしてデータの利活用があるわけです」
データの理解や活用には時間がかかる。今年からエイジェックスポーツセンターで勤務する関口さんは、改めてそう感じている。
「BCリーグでは、変化量プロットを見ながら『この球質はゴロになりやすい』『空振りしやすい』『このカウントなら、この球を狙ったほうがいいんじゃない?』という話にはまだいけていません。その前のベーシックな土台をつくっている段階です。ファイターズでも8年くらい前から行い、ようやく今、軌道に乗ったという状態です。浸透するには5年くらいかかると見ておいたほうがいいくらい、本当に時間がかかります」
定期的なデータ計測でわかること
アマチュア野球でも、ここまで述べたようなことは重要になる。指導者はチームにどう落とし込んでいけばいいか。関口さんがアドバイスを送る。
「漠然とした言い方になりますが、小中学生であれば週1回でもいいからサッカーやバスケをやるとか、いろんな運動バリエーションを学習させる。また今後ウエイトトレーニングが重要になるという理解があれば、自重よりも安全にできるウエイトトレーニングの方法がちゃんとあります」
身体の成長期にウエイトトレーニングを行うのはリスクがある、という声もあるが、関口さんは「器具を使ったほうがいい場面も多い」と語る。

「ウエイトトレーニングを行う際、フォームの習熟は最低限できるようになるだけでも1、2年はかかります。ウエイトリフターは競技として行なっていても、フォームはずっと追い求めているわけでじゃないですか。おもりを上げるということに関して、テクニックが必要になってくるわけです。
それに器具を使えば、プレートで1.25キロ刻みとかで調整できます。同じ小学6年生でも体重60kgや80kgの子もいるかもしれないですし、軟骨が柔らかい、関節が柔らかいという子もいる。そういった子に対しても、安全に配慮しながらできるのがウエイトトレーニングの器具を使ったメニューという考え方です」
子どもたちの身体的成長は目覚ましく、個人差も大きい。だからこそ定期的な計測が重要だと関口さんは話す。
「小学生でもスプリントやジャンプは計測したほうがいいです。メディシンボールスローも1kgや1.5kgなど重さを調節しながらやれば、その子の強み、弱みがわかります。動きの習熟という意味でも、メディシンボールスローはすごくいい練習になります。
計測の頻度は3カ月に1回か、半年に1回くらい。低学年の子は体の変わるスピードが速いですから。『今は身長が伸びている時期だから、無理するところではないよ』というのが目に見えてわかります。身長が伸びているタイミングで激しいトレーニングを行うと重篤な後遺症が残ってしまうようなケガに結びつきやすいので、そこはあえて抑える。弊社で行なっているスポーツドッグみたいな計測によってわかる部分だと思っています」
目の前の試合で勝利するだけではなく、中長期的な視点で選手たちを伸ばしていく。
そのためにも、データの計測や理解、活用が重要になるのだ。
(文・撮影/中島大輔)

