スポーツ百花繚乱の2026年
2026年がスタートを切った。今年は、スポーツ界にとって国際的なビッグイベントが目白押しの贅沢な一年となりそうだ。
まずは、2月にオリンピックが、3月にパラリンピックが行われる「ミラノ・コルティナ2026冬季大会」である。イタリアのミラノとコルティナ・ダンペッツォを中心に冬の祭典が開かれる。3大会連続の金メダルをめざす髙木美帆選手を筆頭に注目が集まるスピードスケート。連覇を狙う小林陵侑選手をはじめ個人・団体それぞれに期待が高まるスキージャンプ。女子シングルの坂本花織選手、ペアの「りくりゅう」こと三浦璃来選手・木原龍一選手のペアなど、金メダル獲得も見込まれるフィギュアスケート。村瀬心椛選手をはじめ、若手の台頭が著しいスノーボード……。そして、メダルラッシュの期待も大きいパラリンピック。世界ランク上位で大会を迎える選手たちも多いTEAM JAPANのアスリートたちが、期待と重圧の中でどのような輝きを見せてくれるのか。イタリアの美しい景観と、研ぎ澄まされた勝負のコントラストを満喫しよう。
3月には、「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」が幕を開ける。栗山英樹の下、14年ぶりに世界の頂点に立った侍ジャパンの感動の戦いから3年。井端弘和監督率いる侍ジャパンは、大谷翔平選手をはじめとするメジャー組と、若き国内スター選手たちが融合した最強の布陣で連覇に挑む。今大会はNetflixによる全試合配信といった視聴環境の変化にも注目が集まるが、話題性に富んだ大会になりそうだ。
6月から7月にかけては、サッカーの祭典「FIFAワールドカップ」が開催される。今大会は北米3カ国(アメリカ・カナダ・メキシコ)の共催で行われるが、最大のトピックスは、出場枠が48カ国へ拡大され試合数が104試合に増えること。まさに「世界最大のスポーツイベント」ともいうべき大会となる。ワールドカップ常連国による優勝争いになるのか、はたまた新興国の下克上はあるのか。「優勝」を目標に掲げる森保ジャパンはどんな景色を見せてくれるのだろうか。ニューヨークで行われる決勝戦では初のハーフタイムショーも予定されており、スーパーボウルさながらのエンターテインメントショーにも注目が集まる。
そして9月、日本を舞台に熱い戦いが繰り広げられる。アジア版オリンピック・パラリンピックとも呼ばれる「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)」が開幕する。日本国内での開催は1994年広島大会以来32年ぶりの開催で、2028年ロサンゼルスオリンピック・パラリンピックを見据えた若手選手の台頭にも注目だ。東京2020大会では新型コロナウイルス感染症の影響でかなわなかったが、国際大会を国内で観戦できる貴重な機会となることだろう。
2026年は、冬の静寂から北米の春・夏の熱狂、そして日本の熱いスポーツの秋へと続く、スポーツを通じた壮大な世界旅行のような一年となりそうだ。いずれのスポーツイベントも歴史的な伝統と新次元の革新とが交差するタイミングにあり、私たちはその目撃者として愉しむことにしよう。
箱根駅伝で話題を呼んだガッツポーズ
早速、1月もニューイヤー駅伝にはじまり、箱根駅伝、ライスボウル、高校ラグビー、春高バレー、高校サッカー、大学ラグビー、Bリーグオールスター、大相撲……と、多くの国内スポーツが注目を集めた。なかでも、今年も多くの注目を集めメディアや沿道を湧かせたのが、正月の風物詩ともいえる、第102回東京箱根間往復大学駅伝競走「箱根駅伝」である。
レースは、大会3連覇をめざす王者・青山学院大学が1区16位と出遅れる苦しい展開。4区終了時点で首位を走る中央大学とは3分24秒差、2位・早稲田大学とも2分12秒差。青山学院大学の往路優勝は厳しいと思われたが、原晋監督が往路最終区間の5区に起用したエースでキャプテンの黒田朝日選手が、「シン・山の神」と自画自賛する快走を見せた。1時間7分16秒と、前年に同大学の先輩である若林宏樹選手がマークした記録を1分55秒も塗り替える区間新記録の快走を見せ、大逆転で往路優勝を果たしたのである。青山学院大学は復路も一度もトップを譲ることなく逃げ切って9回目の総合優勝を果たした。終わってみれば、往路・復路・総合とすべて大会新記録という見事な走りで、2度目の3連覇は史上初の快挙となった。
記録ずくめのレースが終わり、あらためて大きな話題を呼んだのが、黒田選手が見せた「ガッツポーズ」である。
5区終盤、残り2キロを過ぎたところで、黒田選手は先頭を走っていた早大・工藤慎作選手を抜き去った。追い抜く直前、早稲田大学・花田勝彦監督が乗っていた運営管理車に向け、右手でガッツポーズをしたことである。青山学院大学・黒田選手本人は、番組内で「テンションが上がりきっちゃって、ノリでやっちゃったという感じ」と話したが、監督車に向けて煽るようにも見えるガッツポーズには、「リスペクトに欠くのではないか」という意見や、「まわりがとやかくいうべきではない」といった意見も含めて、SNSを中心に賛否両論が巻き起こった。
SNSにおける反応
黒田選手とともに番組に出演していた俳優の和田正人氏は以下のようにXで述べている。
“受け取った側が問題提起してないので、何も問題のない話なのです。
社会に出る前の一人の学生の話なのです。見守ろうぜ、大人たち。笑“
“この出来事の本質は、朝日の謙虚な4年間を観てきてる人と、観てきてない人の理解の差です。
4年間観てきた人は理解してるから、このパフォーマンスは珍しいと思うほど、彼はゾーンだったんです。
失礼したかもしれないけど、冷静な彼でも我を忘れるくらい夢中になる「最後の箱根駅伝」なんです。”
このポストに対して、一方の当事者でもある早稲田大学・花田監督は、Xで次のようにリポストし、寛容な姿勢を示した。
“黒田選手と私とのことで話題になっているみたいですが、たしかにゾーンに入っていたのではないかと思います。来年こそは、芦ノ湖で選手たちとインタビューを受けられるよう頑張ります!“
また、早稲田大学競走部OBの八木勇樹氏は、以下のように述べている。
“青山学院大学の黒田くんのガッツポーズが物議を醸していますが、個人的には全く問題ないと思います。
現役の学生時代、他大学の監督との交流はそこまでありません。それがこのような形での交流は、良い形のような気がします。強敵と認めているからこそ、先頭に近づいた時本当に嬉しかったんだろうなと思いますし。
応援している人は各大学や選手の推しがあると思います。私は早稲田推しですし。
ただ、終わればノーサイド。皆で青山学院大学の優勝を祝いましょう🎉
それにしても強すぎたな。”
一方で、元・サッカー日本代表の近藤直也氏は、学生スポーツであることを理由に持論を展開している。
“あのガッツポーズ自体は、競技の熱として理解できる部分はある。ただし、相手チームの監督が乗っている車に向けてやったという文脈を考えると、『大学スポーツ」「箱根駅伝」という舞台では、軽率だったと思う。
なぜ賛否が割れるのか
賛成派の気持ちも正直わかる
5区という極限の区間、身体も頭も限界、ライバルを抜く瞬間の感情の爆発
これは、勝負をやった人間なら誰でも理解できる。
プロの世界でも、ゴール後に感情が出ることはある。
「それくらい熱があっていいじゃないか」
「若者らしくていい」
この意見が出るのは自然。
でも、問題は「誰に向けたか」
ここが大事。
今回の相手は、
自チームの監督が乗っている車ではなく、相手大学の監督が乗っている車
つまりこれは、
仲が良い間柄だったとしても
選手 → 相手側の指導者選手・大学組織に向けた行為に見えてしまう。
ここで一気に見る人によっての印象を大きく変えたのではないか。
箱根駅伝はプロスポーツではない
ここを混同しちゃいけない。
箱根駅伝は、
・学生スポーツ
・教育の延長線
・全国の中高生、子どもたちが見る舞台
だからこそ、
「勝ち方」「振る舞い方」も含めて評価される。
勝負に感情は必要。
でも、矢印を外に向けすぎた瞬間に品が失われる。
指導の現場にいる人間として、
選手個人だけの問題にしてはいけない。
・日頃どういう言葉をかけてきたか
・勝つことの価値をどう教えてきたか
・リスペクトをどう伝えてきたか
選手の振る舞いは指導者の鏡。
だからこそ、
「選手が悪い」「若いから仕方ない」で終わらせるのは違うと思う。
本当に強いチーム、強い選手ほど相手を煽らない。
理由は簡単で
・自分たちの価値を、結果で証明できるから
・外に向けて感情を使う必要がないから
子どもたちに何を残すかも重要で、
このニュースを見て、
小学生・中学生がこう思ってほしくない。
「勝てば何してもいいんだ」
「相手を煽るのも勝負の一部なんだ」
それは、スポーツの価値を一段下げる。
まとめると、感情が出たこと自体は理解できる、
ただし、向けた相手と舞台を考えると軽率であること。
また、箱根駅伝は勝ち方も問われる競技
本当に強いチームほど、振る舞いが美しい
熱さと品格は両立できる。
そこを次の世代にちゃんと示していくのも、大人と指導者の役割だと思う。”
まさに、賛否両論である。
自分自身の行動のあり方を考える契機に
そもそもこれほど大きな話題になる問題なのか、という気もしなくはないが、その前提として、2日間にわたり長時間メディアをジャックする箱根駅伝が、それだけ大衆の注目を集めるコンテンツであるということの裏返しでもある。これは、甲子園大会が全試合地上波で中継される高校野球なども同様だといえよう。
まず大前提となるのは、当事者として相手がどう感じているか、が最も重要となる点であるということだ。
基本的には、周囲がとやかくいう前に、その行為に対して相手はどう感じたのかが判断の中心にされるべきである。もちろん、勝って喜んではいけないということでもないし、ガッツポーズをして自らを鼓舞することも否定されるべきことではないだろう。一生懸命やって成果が出たうれしい気持ちを素直に表現するのもスポーツの醍醐味である。
しかし、今回賛否両論が巻き起こったように、相手を侮辱もしくは挑発しているようにも映る表現の仕方については、決してほめられるべきものでもなかったのかもしれない。しかしながら、この点に関しては、相手側当事者である早稲田大学の花田監督との元々の関係性もあるともされ、また花田監督自身が容認されていることから、その点に関しては許容されるべきことといえるだろう。ただし、監督は許していたが、チームメイトたちのなかには許せないと思った学生たちがいるというようなことがあれば、それはそれで当事者の気分を害する行為だったということにもなるのもたしかである。
また一方、学生スポーツとしてやっている以上、行為の一つひとつが教育上好ましいのか、自分たちの指導方針と合っているのかも考えるべきことではあろう。黒田選手の行動がどうだったかはここでは一旦置いておいても、自らの表現が、カッコいいと胸を張れるかどうか、子どもたちに真似させたい行動かどうか、スポーツマンとして自らの美学に合う姿勢・態度かどうか、などといった視点はつねにもち、自問自答できるようにすべきである。
スポーツマンシップという言葉、概念を通して、なにかの行動を義務づけたり、取り締まったりするのではなく、相手側の気持ちを慮りながら私たち自身の行動を自ら戒めていくための契機にすることが重要だ。
昨年若くしてお亡くなりになった、元・プロ野球選手で前・東北高校監督の佐藤洋氏がチームをセンバツ大会で甲子園に導いた際に、同高のペッパーミルパフォーマンスが話題になったことがあった。このときも、相手の山梨学院高校がどう感じたかこそが問題であると述べたことを思い出す。
私たちのふるまいを通して、人間性が発露していくことになる。そして、私たちの行動自体に賛否が分かれ議論されることがままあることも理解すべきである。しかしながら、そうしたさまざまな行動や意見に対しても、リスペクトの精神をもって可能な限り寛容に受け止められるようにしていくほうがいいだろう。その一方で、互いに同じスポーツを愛する者同士、気持ちよく勝負するということの意味を心から理解しながら、よりよい表現方法は模索し続けていくことも大切である。このような議論を通して、人間の気持ちやあり方について私たちが理解を深め、そのうえで、どのようにスポーツを愉しみたいか、どんなふうに相手との関係を築いていきたいか、と考え、実践できるようになるよき契機となることを期待したい。

中村聡宏(なかむら・あきひろ)
一般社団法人日本スポーツマンシップ協会 代表理事 会長
立教大学スポーツウエルネス学部 准教授
1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。広告、出版、印刷、WEB、イベントなどを通してスポーツを中心に多分野の企画・制作・編集・運営に当たる。スポーツビジネス界の人材開発育成を目的とした「スポーツマネジメントスクール(SMS)」を企画・運営を担当、東京大学を皮切りに全国展開。2015年より千葉商科大学サービス創造学部に着任。2018年一般社団法人日本スポーツマンシップ協会を設立、代表理事・会長としてスポーツマンシップの普及・推進を行う。2023年より立教大学に新設されたスポーツウエルネス学部に着任。2024年桐生市スポーツマンシップ大使に就任。

