(本記事は前後編の後編。前編を読む)
岐阜県立大垣北高校の野球部が独自に展開している「大垣北ジュニアベースボールラボ」。野球人口減少や運動能力低下の課題にアプローチするため、当時1年生だった無藤蓮生さんが授業を通じて発案した。
2023年1月にスタートしたラボは小学生を対象とし、野球教室に加えて他の部活動との連携、さらには進学校らしく「勉強」もメニューに入れるなど内容を発展させてきた。
そしてこれらの活動は市や県を越え、全国的な注目を集めることになる。
前編に引き続き、無藤さんや同校の近藤健二監督、そして現役の野球部員たちが活動を語った。
(取材 / 文:白石怜平、写真:大垣北高校提供)
開始から1年未満で、「日本野球学会」に参加
2023年1月にスタートしたラボは地域に根付き拡大を重ね、同年12月に新たなステップへと足を踏み入れる。それが「日本野球学会」での発表だった。
同学会は、13年に設立された日本野球科学研究会が前身で、選手や指導者・研究者たちとの交流を通して競技普及や技術向上を目指す会。川村卓・筑波大教授が会長を務め、吉井理人氏(前ロッテ監督)も役員に名を連ねている。
大垣北高が参加した23年12月から「第1回日本野球学会」と改称し、現在に至る。
学会への参加を提案したのは近藤監督だった。かねてから自身で参加したり、初参加前年には無藤さんの一代上の主将である山岡純大さんを連れて視察に行くなど、「野球部として触れてほしい」という想いを抱いていたという。
監督からの提案を受けた無藤さんも参加を即決した。
「このラボは小学生の運動能力向上であったり、野球人口の増加を目的に作ったのですが、全国に波及させることが大事だと考えていました。
ただ、一つの高校だと限界があるとも思っていました。この活動を世に広めていくためにも、他の団体の方々に知ってもらうことは貴重な一歩だと思ったので、とても前向きに参加しました」

学会参加が市や県外へ認知されるきっかけに
発表形式は作成した資料を掲示し、興味を持った来場者に取り組みなどを伝えるもの。資料ではラボがもたらした波及効果や考察を入れ、無藤さんらが丁寧に説明を加えた。
無藤さんから主将そしてラボを継承した鹿野楓斗さん(3年)は、当時1年生だった第1回に続き、第2回にも参加。発表形式は同じだったが、各回で特色があったことを明かしてくれた。
「1回目のときは僕たちと同じ高校生が中心に聞きに来てくださって、『僕たちの高校もみなさんのような活動をしたいのでアドバイスをもらえますか?』という相談をいただきました。
ですが2回目は全く逆で、野球振興活動を行っている社会人の方々が多く来てくださって、発表を通して気になったことや疑問点など挙げてもらったり、さらに『もっとこうした方がいいのではないか』という指導もいただきました。
伝えることよりも教えていただくことが多かったので、その点で 2回目は新鮮さがありました」

教わったこととしては、「技術だけではなく体のケアに関することが印象に残っている」と挙げた鹿野さん。
「身体操作や柔軟性もさらに詳しく教えることで怪我も防いでいけるということで、終わってから早速取り入れていきました。後日コンタクトを取ってラボを直接見に来てくださる方もいました」
そして昨年12月には現役野球部員が参加し、その発信役を担った。現主将の小林侑純さんは、過去2回になかった新たな動きがあったと話した。
「お2人が話していた方々に加えて、今回は企業さんからも話が来るようになりました。『ぜひ内容を聞かせてください』と、今度ラボに来ていただくことにもなりました」
地元以外の人たちがラボを目にする機会も増えていき、全国的な発展に向けて着実に前進していた。
立ち上げ時に参加した子が高校へ入学する年に
現役の高校球児が自ら企画し、社会課題と向き合うユニークな活動。ラボが高校野球の未来を創るためにどのような意義を果たしていると考えているか。近藤監督が答えてくれた。
「野球人口どころか日本の人口が減っていることに私は指導者として危機感を持っています。そんな中で何ができるかと言うと、今ある人的リソースをどうプラスに活用していくかが大事だと考えています。
そのためにはお互いが垣根を越えて成長するシステムが生まれてこないと、高校野球さらには高校の部活動も存続が危ぶまれてしまうなと。
新しい価値をどう見いだしていくかが今後の課題だと思いますし、我々の部員がやっている活動は未来の高校野球、地域スポーツの活性化を担っていく可能性があると感じています。
ですので、この活動がそうしたメッセージの一つとなる要素を果たしながら、ぜひ広がってくれたら嬉しいと思っています」

自身が立ち上げ、規模も2倍以上に拡大を続けていることに感激も見せていた無藤さん。抱く願いは、野球の未来がこれからも紡がれていくことだった。
「このような活動が他の地域や高校に広がっていくことで、日本全体の野球人口拡大へとつながれば嬉しいですし、野球が未来に長く続くための活動がどんどん広がってほしい想いです」
インタビューの最後、山岡純大さんも特別参加した。山岡さんは無藤さんの1つ上の代で主将を務めており、無藤さんの最初の構想を野球部として行うよう尽力した一人。
現在立命館大学野球部に所属している山岡さんは、ラボの活動をプレゼンして大学の合格を勝ち獲るなど、自らの人生を切り開いた企画でもある。後輩たちの話を聞いて感心を寄せながら、エールを送った。
「スタートした時には参加した学校が2校で、去年久々に顔を出した時に参加校がすごく増えていることに驚きました。あとは僕たちが初めて教えた小6の子たちの中で、この春には大垣北高に入学してくると聞きました。
新たな循環ができていくことに嬉しさを強く感じますし、今後後輩たちが継続して取り組みがさらに評価されていくと思いますので、僕も心から応援しています」

先輩たちの想いに加えて、高校野球の未来をも築いている現役の部員たち。今後の展望とともに、この4月に迎える新たな節目に向けて意気込んだ。
「先輩たちから受け継いだ想いとともに引き継げるように、このラボをどんどん進化させてより良いものにしていって、岐阜県にとどまらず全国へと広げていけるようにしたいです」(小林さん)
「ラボを全国へと広げると共に、山岡さんが言ってくださった通り、最初にラボに来てくれてた子たちを迎える大きな年になると思います。教えられてた側から教える側に回るということで、後輩たちをサポートしながらラボを地域のみなさんにとってより身近なものにしていきたいです」(久田直生さん・1年)
大垣北ジュニアベースボールラボは、高校野球そして進学校野球部のモデルケースとして、脈々とその歴史を築き上げている。
(おわり)

