昨年、一昨年と沖縄で行われている「ジャパンウィンターリーグ(以下、JWL)」。
日本初のトライアウトを主に置いたウィンターリーグで、NPBやMLB、台湾など計30チーム以上のスカウトが来る場となっている。
発起人は鷲崎一誠さん。自身が選手時代にアメリカで参加したウィンターリーグでの経験などから日本でも行いたいと一念発起し、22年に実現させた。
第1回に続き行われた昨年の第2回はどんな成果を得られたのか、数々のエピソードを交えながら伺った。
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(取材 / 文:白石怜平)
2回目は海外選手が4倍強増加
第1回を無事終えることができ、すぐ第2回の開催に向けて始動した鷲崎さん。
実績ができたことで、地元や球界関係者などからの反響が大きかったという。更なる発展に向けた大きな挑戦を一つ挙げた。
「前回7名だった海外の選手をもっと多く招待したいと考えていました。我々は『陽の目を見ない場所に光を』というのをコンセプトにしています。アマチュア選手のみならず、世界中の選手たちにも光を当てたい。”世界のジャパンウインターリーグ”をアピールすることが挑戦でした」

世界トップのウィンターリーグへの挑戦が始まっていた(提供:ジャパンウィンターリーグ)
前年はJICA(独立行政法人国際協力機構)の協力隊を通じ、ウガンダの選手も2名参加していた。
第2回に向けては選手とチーム・監督をマッチングさせるスカウティングサイトであるBBJO(ベースボール・ジョブズ・オーバーシーズ)と提携を組んだ。
昨年はWBC優勝から始まり、大谷翔平選手がMLBでのMVP獲得と日本から世界の野球を盛り上げた年でもあった。その影響もあって、日本の野球に魅力を感じた海外選手からの問い合わせが増えた。

第2回に早くも海外選手の参加が大きく増えた(提供:ジャパンウィンターリーグ)
このような流れもあり、海外の選手が10カ国・31名参加と大きく増加。国もアメリカ15名に加えてヨーロッパからも新たに参加した。
海外選手が参加することによって、日本人選手にとってもプラスの影響があったと振り返る。
「普段外国人選手と対戦する機会ってほとんどないと思います。160km/h近い球を投げる投手や、フルスイングする大柄な選手とここでは毎日対戦できます。日本の選手にとっていい経験になったのではと思います」
試合出場の機会に加えた講義の充実
鷲崎さんが強いこだわりを込めているのが、JWLを通じた選手育成である。
海外のウィンターリーグの場合は球場に来て試合をするのみであるが、鷲崎さんは日本ならではの付加価値をつけたいと考えていた。
「JWLに来た選手に何かしら成長してもらいたいと考えています。技術面に加えてメンタル、さらにはキャリアなど様々な角度から刺激を与え、選手の満足度を向上させていくのが日本のスタイルだと考えました」
具体的な取り組みとして、第1回から試合の他にも講習の機会を設けている。野球面ではラプソードやトラックマンの要職の方やミズノ「BLAST」の担当者に加え、データ分析会社「DELTA」といった豪華な面々がデータ活用方法について解説。

さまざまな講義で知識を習得できる(提供:ジャパンウィンターリーグ)
第2回では大谷翔平選手を始め、メジャーリーガーやNPBの選手も多く訪れるシアトルの施設「ドライブラインベースボール」から、バッティングトレーナーのダニエル・カタランさんを招聘。JWLでコーチでもあったカタランさんは、座学でも講師を務めた。
また、メンタル面においては、根鈴(ねれい)雄次さんが熱く想いを語る場面もあったという。
根鈴さんは法大を卒業後にアメリカでトライアウトを受け、モントリオール・エクスポズ(現ワシントン・ナショナルズ)とマイナー契約を結び、ルーキーリーグから3Aまで昇格した選手だった。
3Aでプレーした初の日本人野手となり、その後日本を含む5カ国の独立リーグでプレーした経歴を持つ。現在は「アラボーイベースボール根鈴道場」の代表を務め、杉本裕太郎選手(オリックス)などプロ選手の指導も行っている。

根鈴さんはメンタル面でも先生になった(提供:ジャパンウィンターリーグ)
「根鈴さんが技術指導じゃなくてメンタル指導もしてくださいました。海外ですごく苦労されていたこともあり、心からJWLを応援してくれていています。チャレンジする人が大好きな方で、自身が26歳で海外挑戦したことを踏まえ、『みんな遅くないよ』と背中を押していただいています。
僕もウィンターリーグで野球を終えられた身として、参加した皆さんには選手を終えた後も大成してほしいですし、ビジネス界でもJWLから羽ばたく時代を作りたいと思っています」
もうひとつの強みである「育成環境」
育成環境の充実というのはグラウンド内でも実践されていた。
第1回時から試合をYouTubeでリアルタイムで配信し、個人のデータや成績などを発信していた。
これによって現地のスカウトだけでなく、遠隔でも情報を把握することができる「リモートスカウティング」もJWLならではの取り組みである。
「例えば打者ではラプソードをスタジアム内に設置しトラッキングし、BLASTも全打席に導入して即時フィードバックを行いました。数字に馴染みの薄い選手もいるので、間隔と数字をすり合わせられるようにしました」

打席ごとに数値を伝え、パフォーマンス向上へと繋げた(提供:ジャパンウィンターリーグ)
計測結果を即時に行うことで、早くも結果につながった例があった。
「ある打席で左飛だった選手にその場でBLASTの数値を見せ、『今のスイングスピードと角度であればホームランになっている。もう少しバットの入る角度を1°下げるだけでスタンドに入ったよ』と伝えたんです。
それで次の打席で同じコースに同じ球が来てそれをホームランにしたんですよ。そこからデータを見るようになりましたし、”数字って大事だな”と気づくことができた話でした」

選手が数字と向き合える機会も創出した(提供:ジャパンウィンターリーグ)
また、1ヶ月間実戦経験を積めることそのものが育成・チーム強化になっている。トヨタ自動車やHondaといった都市対抗野球常連チームが第1回から企業からの派遣として参加している。
出場機会に恵まれない若手選手が、より高いレベルで試合に出場し続けることでスキルアップを図れるメリットがある。実はJWLで”シンデレラストーリー”が生まれていた。
「第1回の話ですが、Hondaで現在二塁手を守る三浦良裕選手。1年目は外野手登録で試合出場がなかったのですが、2年目に入る前に二塁手にコンバートする決意を固めて参加してくれました。
二塁手として出ながら、JWLで首位打者に輝きました。そこから自信をつけてHondaでもレギュラーを獲得して、昨年の都市対抗野球にもスタメンで出場を果たしたんです。数値の面も含めて育成環境の重要性を感じました」
2回目で得られた新たな成果
第2回の新たな取り組みの一つとして、トライアウトリーグに加えてアドバンスリーグを導入した。実力に合わせてリーグを2つに分け、さらに選手が試合数をこなせるように工夫を凝らした。
昨年11月23日から12月24日に行われた第2回は参加者全体で前年の66名を超える101名を数え、3桁を超えた。ここでの成果を振り返った。
「今回は新たに27人の選手が新規に独立リーグや社会人野球チームとの契約が成立しました。あと一番はコーチがスカウトを受けたのが大きな成果だと思います。
ダニエルが台湾の中信兄弟のコーチに就任しました。選手だけでなくコーチをスカウトしてくれたのが大きかったです。国境を超えて人材の化学変化が起きるプラットフォームになったと感じました」

中信兄弟のコーチに就任したダニエル・カタランさん(提供:ジャパンウィンターリーグ)
JWLを立ち上げた当時から自身がアメリカで経験したことも踏まえて「野球人生に区切りをつける場であってもいい」と考えていた鷲崎さん。
前年は参加者全員が野球を続けたが、第2回は約1割の10名が野球人生にピリオドを打った。ただ、それは新しい道へのスタートでもあった。ここでもエピソードを話してくれた。
「1人の投手がNPBに行きたいと参加してくれました。すると途中から、『野球に満足しました。トレーナーを目指します』と。JWLのトレーナーの元に弟子入りしたんです。試合に出場する中で、社会人や外国人選手たちと高いレベルのプレーができた。
そこで打たれたり抑えたりする中でやり切ったと感じられたそうで、独立リーグからオファーはあったのですが、『トレーナーとして一流になってウインターリーグに戻ってきます!』と言ってくれました」

選手だけでなくコーチ、トレーナーへと広がっていると明かした(本人提供)
JWLそして鷲崎さんの抱く展望
今年第3回を迎えるJWLは、11月23日に開幕する。今後の展望について訊いた。
「世界の野球界での登竜門にしていきたいです。世界中の選手が集まってきて、世界No1のウィンターリーグが日本・沖縄にあることを示したいです。
あとは参加してくれた選手個々に目を向けますと、5年・10年と続けることで、将来この地に戻ってきて還元してもらうこともあるかもしれません。選手生活が終わるタイミングは必ずくるので、縁をつなぎつつ辞めた時には我々もサポートできるようにしていきたいです」

リーグはこれからも発展を続けていく(提供:ジャパンウィンターリーグ)
そして鷲崎さん個人として、今後の目標を語ってもらった。
「僕は経営者の立場から、日本のスポーツビジネスで収益化する仕組みにまだ伸びしろがあると考えています。僕がベストプラクティスを出すことで野球界を変え、スポーツ産業が潤う業界にしていきたいです」
鷲崎さんの魅力から多くの人が集まり誕生したJWLは、参加した選手たちにとって人生の転機になった。
今年の冬、また新たなドラマが生まれようとしている。
(おわり)

