今だからこそ考える新しい部活動の形と野球界の未来

野球の競技人口減少が叫ばれている今、現場の指導者たちはどのような考えを持っているのか。

今回は、チーム減少を含め、多くの課題が残されているという中学軟式野球の現状を、群馬県高崎市立榛名中学校の野球部監督で、日本中学校体育連盟軟式野球競技部競技部長を務めている土屋好史先生に聞いた。

 前回の記事では、競技者減少と指導者減少に関する現状をお聞きしたが、指導者減少については、2017年4月に制度化された部活動指導員の普及がカギを握ると土屋先生は言う。

「かつては外部指導者という形で、技術指導だけを行うことができました。その制度が変わり、部活動指導員に登録すれば大会への引率も可能になりました。

この制度をうまく取り入れている学校もあります。まだまだ現実的にみて課題が多いことは確かです。部活動は学校のシステムとして組み込まれているので、時間が決められてしまう。

それに合わせて指導できる一般の人は少ないと思いますので、登録者数は増えていても実際に指導している人は少ないという話も聞きます。制度改革も含め、今後も検討の余地があると私は思います」

 土屋先生は指導者減少の対策として、拠点校部活の活用も重要になると私見を述べてくれた。

「学校部活動のあり方を変える必要はあるかと思います。部員数や指導者の減少を考えれば、野球をやりたい生徒は、この学校に集まってくださいというように拠点校部活を活用する。

そういう形を取らなければ、野球はもちろんですが、生き残れない部活動が出てくると思います。全国的には、教育委員会が指揮を執り、拠点校部活のような制度を取り入れている自治体もあります。

大会への参加など、まだまだ解決しなければならない問題もありますが、中学軟式の存続方法としては有効な手段になると思います。その一方で2023年度には学校部活動の地域移行が検討されています。

この内容によっては、違う問題も出てくると思いますので、拠点校部活が浸透するかというと、今はなんともいえない状況です」

野球に親しむ人を増やすためにも学童、中学の軟式野球存続は不可欠

 さまざまな課題を抱えている中学軟式野球。そんな厳しい状況におかれているが、日本の野球界全体を考えても、存在意義は高いと土屋先生は考える。

「甲子園に出場するチームの多くが私立校という時代ですが、高校野球を支えているのは、公立高校の部員たちでもあります。

公立高校の野球部の部員の多くは、中学で軟式をプレーした選手です。中学校の軟式野球部が減少していく現状が続いてしまうと、必然的に高校野球人口は減ってしまいます。

全国の野球人口が減るということは、草野球も含めて野球に親しんでいく人口も減るということ。それを止めるためにも野球人口という大きなピラミッドのすそ野の部分である、学童・中学の軟式野球は絶対に維持していかなければいけないのです」

 「部活動には、競技と人生をシンクロさせながら指導していく点にすばらしさがある。自分が好きなことに取り組み、目標に向かって鍛錬していく過程が、人を育て、悔しさ、うれしさなどさまざまな刺激を受けることで、子どもたちの感情も豊かになっていく」と語る土屋先生。

これまでも、部活動教育にはこれだけのすばらしさがあることを保護者や生徒たちに伝えようと指導をしてきたという。

「私が生徒によく伝える言葉として「伝想」というものがあります。この言葉はチームののぼりにも入っていてチームとしても大きなテーマとして掲げている言葉になります。

強い思いを持って相手に伝える、その思いをしっかり受け止めるんだという心を持って相手からのボールをキャッチするという心のキャッチボールが野球のみならず、今後の人生においても必要になることであるという話を常々選手にはしています」

 学校の教職員の働き方改革も含め、問題解決には一筋縄ではいかない状況であることには違いない。一方で、土屋先生のような考えを持つ先生たちも多いはずだ。野球人口の減少を食い止め、野球界のすそ野を拡大するためにも各所が連携をして明るい未来が来ることを願っている。

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