侍ジャパンU-12代表・桑田真澄監督「野球を通じてさまざまなことを学んでほしい」選手たちの成長を促進した『BCR』の行動指針

写真提供:全日本軟式野球連盟

8月9日〜15日まで行われた「第12回 BFA U12アジア選手権」で侍ジャパンU-12代表は2016年の第9回以来、3大会ぶり2回目の優勝を果たした。

今大会で指揮官を務めたのが、4月に就任した桑田真澄監督。オープニングラウンド初戦から決勝戦まで全勝で10年ぶりの頂点へと導いた。

最高の結果をもたらした桑田監督だが、勝利という結果のみを追い求めたわけではなかった。この期間では、選手たちの今後の人生の道標となる数々の言葉と行動が秘められていた。 

今回は特別に桑田監督に話を伺い、就任に込めた思いや指導の実践を振り返りながら、選手たちと歩んだ成長の軌跡をたどっていく。※全3回のうち1回目 

(取材 / 文:白石怜平、写真提供:全日本軟式野球連盟)

「野球を通じてさまざまなことを子どもたちに」挑戦を決意

 桑田監督は昨季まで巨人の二軍監督を務め、1月からオイシックス新潟アルビレックスBCのチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)に就任した。

野球人としてリスタートを切った直後、侍ジャパンU-12代表監督就任のオファーが届いた。就任を決断した経緯を以下のように明かしてくれた。

 「全日本軟式野球連盟から監督就任のお話をいただいた際、その理由を伺うと、『優勝すること』、そしてもう一つ、『野球を通じて子どもたちに多くのことを学んでほしい』ということでした。 

勝つことだけを求めるのであれば、他に適任者はいたと思います。ただ、野球を通じて人を育てるということは、僕自身がこれまで大切にしてきたことであり、指導者として取り組んできたことでもあります。 

今回は小学6年生の子どもたちに、自分がどこまでできるのか。僕自身も新たな挑戦をしてみたいと思い、お引き受けしました」

野球を通じての“学び”を子どもたちに伝える役目を担った(筆者撮影)

 所属するオイシックス新潟にも「日本の野球界のために力になりたい」と想いを伝え、「頑張って来てください」と協力と理解を得て4月に就任を発表。監督の証である「30」を背に、指導者としてのキャリアを再開した。 

目的と目標を達成するため行動指針を策定

代表選手は6月の選考合宿を経て、7月1日に15名が決定。同11日・12日の強化合宿そして8月4日〜6日に直前合宿を行い、アジア選手権へと臨んだ。

このチームで日の丸を背負うにあたり、指針を検討していった首脳陣とスタッフ陣。ここには桑田監督が大切にする考えを原点に、構築をスタートさせた。 

「全国から優秀な選手が集まって、『気合と根性で頑張れ』という指導は、僕たちの学生時代にもありました。

ただそれだけではなく、『何のための大会なのか』『何を目指すのか』『それを達成するために、日々どのように考え、行動するのか』を明確にすることが大切だと考えています。 

まず目的と目標を共有し、その実現に向けた行動指針を決める。それがチームづくりの第一歩だと思っています」 

その目的・目標とは何か。桑田監督はこう続けた。 

「目的は『強い人になり、強い選手になる』こと。 目標は二つ設定しました。一つ目は『アジアチャンピオン』。二つ目は『自分で考えて行動すること』です。 

野球の技術を高めると同時に、人としても成長してほしい。大会が終わった後も、この経験を生かして成長し続けられる選手になってほしい。そんな思いを込めて、目的と目標を設定しました」

行動指針が目的と目標達成への道筋となった(提供:全日本軟式野球連盟)

 そして二つを達成するために必要な言動・達成へとつながる指針として、桑田監督たちは『BCR』を掲げることに決めた。

 BCRとは「Balance」「Challenge」「Respect」の3つの頭文字を合わせたもの。 表現もインパクトのある英語表現を用い、かつ子どもたちにも伝わるようにシンプルさも交えるなど、全員で考え抜いたものだった。

グラウンド内外で実践したBCRが成長の礎に 

この指針は直前合宿で制定され、大会を終えるまで全ての行動軸となった。

桑田監督は何か課題を感じた際、すぐに答えを示すのではなく、BCRに沿って選手たちに問いかけていた。

「守備では『ゴロは迷ったら前に出よう』と伝えていました。例えば、打球を待ってエラーをした選手には、『なぜ前に出なかったんだ』と叱るのではなく、『今のプレーはBCRの何が足りなかったと思う?』と問いかける。

すると、選手が『チャレンジです』と答える。『そうだよね。じゃあ次はチャレンジしよう』と話すわけです。 また、審判や大会運営を支えてくださる方々に対しても、『BCRの何が大切だと思う?』と問いかけると、選手たちは『リスペクト』と答えます。 

審判がいなければ試合はできませんし、グラウンドを整備したり、ボールを準備してくれる人がいるからこそ、僕たちは野球ができるんです。 

そうした感謝の気持ちも含めて、日々のさまざまな場面でBCRを意識してもらいました。 大切なのは指導者が答えを教えることではなく、選手自身が考えて気づくことだと思っています」

選手たちとの会話でも用い、言葉を引き出した(提供:全日本軟式野球連盟)

BCRを実践する場は、グラウンドの中だけではなかった。生活面でも日々の会話に取り入れ、自ら考えて行動する習慣につなげていった。中国に到着した直後、選手たちが戸惑った場面でもBCRが一歩を踏み出すきっかけになった。 

「中国に到着したのが夕方で、すぐに食事になったんです。ただ、辛い料理が多く、小学生の口に合うものが少なくて、正直苦労しました。しかも、ほとんどの選手にとって初めての海外でしたからね。 

選手たちからは『無理です。日本に帰りたいです』という声が出ましたが、『君たちは日本代表として来ているんだよね。強い人になることが目的だったよね。』と話しました。 少しずつ新しい環境に適応してほしいと思っていました。

すると、翌日からは選手たちは工夫しながら、少しずつ食べられるようになっていったんです。 実は僕自身も料理を見ながら、『食べられそうなものがないな。どうしようかな』と悩んでいたんです。 

すると選手から、『監督! お皿に何も乗っていませんよ。BCRのC、チャレンジですよ!』と言われましてね(笑)。 『そうだな、俺もチャレンジするよ!』 そうしたやり取りを通じて、子どもたちが日に日に成長していく姿を見ることができました」 

選手たちも瞬く間に成長を遂げていった(提供:全日本軟式野球連盟)

行動指針が導く“考える姿勢” 

選手たちが短期間で成長することを大きく後押ししたBCRの指針。この方針は決められた行動を守らせるためだけのものではなく、チームにとっての拠りどころになっていた。

桑田監督は、その意義を改めて語った。

 「僕は、チームづくりにおいて行動指針は非常に大切だと考えています。 目的と目標があっても、そこに向かって日々どのように行動するのかが明確でなければ、なかなか実現にはつながりません。

 今回のBCRは、選手たちが自分で考え、判断し、行動するための共通の指針としてつくりました。 グラウンドでも、食事や生活の場面でも、何か課題があればBCRに立ち返って考える。

 指導者が常に答えを出すのではなく、選手自身が答えを見つけていく。その習慣を身につけてもらうためにも、BCRは非常に意味のある行動指針だったと思います」

選手たちに常に問いかけ、考える習慣を促した(筆者撮影)

桑田監督が指導者として伝え続けている“考える”姿勢。野球においては後述するが、ここで一つ選手たちで考えた話があると披露してくれた。 

「BCRのR、リスペクトの一環として、参加する国々の文化や習慣・国歌についても勉強しました。 そこで、試合前の国歌斉唱ではどのような姿勢で臨むのがいいかを選手たちに考えてもらいました。 

いくつかの姿勢の写真を見せて、『君たちはどの姿勢がいいと思う?』と問いかけたんです。 すると、『胸に手を当てるのがいいです』と選手たちが決めました。 

次に、『相手国の国歌が流れている時は、どのような姿勢がいいと思う?』と聞くと、『気をつけの姿勢がいいです』と自分たちで決めました。

 大切なのは、指導者に言われたからその姿勢を取るのではなく、なぜその姿勢がふさわしいのかを自分たちで考え、納得して行動することです。 こうした小さな積み重ねが、自分で考えて行動する力を育てることにつながると思っています」

参加国について学び、そしてリスペクトも送った(提供:全日本軟式野球連盟) 

行動指針に基づいて確かな成長を見せたU-12の侍戦士たち。しかし大会を迎える前日、指揮官は大きな危機感を感じる場面に当たったという。

それでも桑田監督が浸透させている“考える”を実践することで、チーム全体の更なる進化へと変えていった。 (つづく)

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