ブルペンでの投球練習をトラックマンで計測し、1球投げるごとに球質を確認する。2026年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を前に行われた侍ジャパンの宮崎合宿では、投手陣の誰もが当たり前のようにトラッキングデータと自身の感覚を照らし合わせていた。
テクノロジーを用いた野球の解析が進むなか、選手としてレベルアップする上でもデータへの理解が重要性を増している。宮崎合宿から「データ担当」として侍ジャパンに帯同した“チーム最年少”スタッフでアナリストの冨樫佑太さんは、改めてそう感じた。
「侍ジャパンには今年のWBCと2025年3月のオランダ戦、同年11月の韓国戦と3度帯同させてもらいました。あくまで個人的な印象ですが、WBC組はデータへの理解度が最も高かったと思います」
メジャーリーガーとNPB組の“ギャップ”
準々決勝敗退に終わった2026年WBC。大会後、さまざまな総括が行われるなかで、注目を集めたのが大谷翔平(ドジャース)によるデータ活用への指摘だった。
「必ずしもすごく遅れていたかと言ったらそうではないですけど、現場として(NPBの)各球団が、常日頃から使ってはなさそうだなという雰囲気があった。そのギャップはありましたけど、そこは追いついてくるんじゃないかなと思います」(サンケイスポーツ電子版の記事「大谷翔平、データ全盛の球界で〝時代遅れ〟を指摘「常日頃から使ってなさそう」「ギャップあった」…侍スタッフには感謝」より)
侍ジャパンは2026年WBCで14人の投手を招集。内訳は3人のメジャーリーガーと11人のNPB組だったが、アナリストとして投球練習に携わった冨樫さんは両者の違いを実際に感じたという。
「MLBの選手はNPBの選手より、より踏み込んだ質問や会話をアナリストとしていました。例えばNPB組は変化量を見て、『ちょっと曲がっていないから、曲がるようにしたい』と話していましたが、MLBの投手たちは変化量のデータとハイスピードカメラの映像を見た上で手首の角度を調整したり、『ボールがちょっと滑って抜けちゃってるよね』という会話をしていました。MLB組は自分の感覚にデータや数字を結びつけて、“もう一つ上のもの”をプラスアルファで見られるような印象を受けました」
全投手が同じデータを計測できる環境に置かれたなか、どうすれば自身のパフォーマンスアップにより活用できるのか。その点で菊池雄星(エンゼルス)、山本由伸(ドジャース)、菅野智之(ロッキーズ)の3人は、NPB組より深く取り組んでいるように冨樫さんは感じた。
森井翔太郎の好奇心
冨樫さんは普段、さまざまな世代を対象にデータの計測&分析を行っている。“ニワトリが先か、卵が先か”はわからないが、レベルの高い選手やチームのほうが具体的な質問をしてくる傾向にあると感じている。
「トラッキングデータの数字、見ていいですか?」
数年前、冨樫さんがさまざまな高校生たちを対象に行ったデータ計測で、たった一人だけ質問してきた選手がいた。当時はまだ知らなかったが、桐朋高校に在籍し、後にアスレティックスと契約する森井翔太郎だった。
「もしかして、ものすごく勉強ができることと関係しているのかもしれません。例えば、好奇心がいろいろ強いのでしょうね。そういうつながりが野球の上達にも関係あるのかもしれないと、いろんなチームに行かせていただいて感じるようになりました」
プロ野球で長く活躍する選手は、少しでも上達につながるヒントを常に探しているものだ。
例えば西武が2023年にブラストというバットのグリップエンドに取り付けるテクノロジーを採用して講習会を開いたとき、最も熱心に学んだ一人がベテランの外崎修汰だった。もともと“感覚派”の外崎は、バッティングのヒントを貪欲に見つけようとしていた。
「理論として『ここがこうなっているから、こうなる』とわかれば、変な方向に考えなくて済みます。これまでは何もわからない状態で、自分の感覚のなかで『あっ、開いているな。開いているから、こうなったんだな』とかしかわからなかったのが、自分のスイングの軌道やクセを知ることで、『自分のクセ的にこうなっているから、結果としてこうなったんじゃないかな』とわかれば、調子が悪いときに変な方向に行かなくて済むようになるのかな。自分がどういうスイングをしているかを知るために、ブラストを使っています」
テクノロジーをうまく使えば自分をより深くわかり、パフォーマンスアップに役立てられるのだ。
アマチュア球界もデータ活用を
アマチュアの選手や指導者のなかには、「データをどう使っていいのかわからない」という声が少なくない。どうすれば、上達に役立てることができるだろうか。
アナリストとして活動する冨樫さんは、自身の体験も踏まえてこうアドバイスする。
「最初は遊び感覚でいいと思います。自分がラプソードを使ったときを振り返ると、最初は単純に『数字が取れて面白い』というところから始まりました。そこから『この数字ってどういう意味なんだろう?』とか、いろんな疑問が湧いてくるはずです」
例えば投手なら、まずは回転数を計測してみる。
「高校生くらいなら、まずはわかりやすいところがいいと思います。『俺、プロと一緒だった』となれば、興味を持てますよね。スライダーの場合、高校生だと球速が遅いので曲がりが大きくなりやすいですが、『このくらいの変化量だから、大谷翔平のスイーパーと一緒だね』となれば、うれしいじゃないですか。回転数はあくまで投球のいろんな要素の一つですが、まずはわかりやすいところから入って好きになるのがいいと思います」
データと感覚を照らし合わせて自分の投球を磨いていけるのは、現代ならではのアプローチと言える。前編では侍ジャパンの宮崎合宿で種市篤樹(ロッテ)のブルペンを見学した直後、興奮して話す髙橋宏斗(中日)や伊藤大海(日本ハム)の様子を紹介したが、そうした好奇心こそ彼らを向上させる原動力だ。
冨樫さんは今回、日本球界でトップにいる選手たちと一緒にWBCを戦い、改めて強くした思いがある。今後、侍ジャパンが強くなっていくためには、アマチュア球界からデータ活用をもっと浸透させていく必要があるということだ。
「日本の人口が減少し、野球をする子どもたちの数も減っていることに加え、スポーツも多様化しています。これからの野球界は構造としてしっかり制度を整えて、その産物として素晴らしい選手が出てくるようになることが必要だと感じました。ダルビッシュ有さん(パドレス)も言っていましたが、『MLBよりNPBのほうがすごいんだ』という時代がいつか来てほしい。それが僕も最終的な目標です。そのために、自分はアマチュア野球に役立てるように活動していきたいと思います」
侍ジャパンをもっと強くしていくためには、アマチュア野球の発展が不可欠だ。冨樫さんは日本最高峰の選手たちとWBCをともに戦い、自身の使命をより強く実感した。
(文・写真/中島大輔)
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