「得体の知れないイベントによくこれだけ来てくれたな」大学野球部元監督の仕掛けた企画に見る、野球人口を増やすためのヒント

春晴れの3月29日、日曜日の昼すぎ。茨城県ひたちなか市の西原公園第一グラウンドには約25人の小さな子どもたちと、その保護者たちが集まった。

「得体の知れないイベントにこれだけの人数がよく来てくれたなって、うれしかったです」

そう振り返ったのは、「はじめての野球教室 in ひたちなか」を開催した三木田龍元さんだ。選手として北海道大学、香川オリーブガイナーズ、徳島インディゴソックス、新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ(現オイシックス新潟)でプレーし、現役引退後は福井ワイルドラプターズ(現・福井ネクサスエレファンツ)の球団職員として働き、2023年から2025年夏まで常磐大学野球部の監督を務めた。

三木田さんと子どもたち

1993年生まれで、二児の父でもある三木田さんは「子どもがフラッと遊びに出かけて、ボール遊びをできる場があるといい」と昨年秋から今回のイベントを企画。場所をようやく確保し、告知できるようになったのは3月上旬だった。

開催1週間前時点で申し込みゼロ。そこから地元のインフルエンサーに告知を依頼、同時にバッティングセンターや保育園などにチラシを置かせてもらい、最後の2週間で想定以上の予約を受けた。

当日、子どもたちはボール片手に走り回り、簡単なバッティングやスローイングなどを楽しそうに行った。同じように笑顔を浮かべていたのが6人の運営協力者と、三木田さんだった。

「わちゃわちゃしていて野球っぽくはなかったですけど、みんなで遊びたかったので良かったです。何より僕自身が楽しかったですね。子どもたちはこういう遊びから野球やサッカー、スポーツに興味を持ってくれると思うので、きっかけをつくれて良かったです」

欲しいのは“気軽に”参加できる機会

今回のイベントに参加したのは地元に暮らす、幼稚園や保育園の年中から小学校低学年の子どもたち。その両親に参加の動機を聞くと、以下の声が聞かれた。

「保育園に通う4歳の男の子がいて、妻が『野球の体験みたいなものをやってみたい』とインターネットで検索して、開催の前の週に見つけました」(ひたちなか市に在住の父親)

「5歳の娘に何か体を動かすことをさせたいと思っていて、妻がインスタグラムで見つけました。保育園が休みの日は、僕が関わらない限り家のなかでiPadを見ているような子なので」(那珂市に在住の父親)

「小1になる6歳の男の子がいて、兄弟もやっている野球をできるところを探していました。体験みたいなのをインターネットで探していて、いい機会かなと思って参加しました」(ひたちなか市に在住の母親)

どの競技でもいいから、まずは外で体を動かしてほしい。それが保護者たちに共通する願いだった。

まずは「体験会」への参加が入り口になりやすいが、学童チーム主催の会に足を運ぶのはさまざまなハードルがある。実際、三木田さんは「知人がいるチームでないと参加しにくい」「体験会に行った後、勧誘されるのはプレッシャーになる」などという声を耳にした。

そこで今回は参加無料、服装自由、手ぶらでOK(=必要な道具は貸し出す)とハードルを限界まで下げた。こうした“気軽さ”こそ、子どもにスポーツを始めさせる上で望ましいと一人の父親も話している。

「自分の親もそうでしたけど、以前は『一個のことを突き詰めなさい』という考え方が結構ありました。 でも、最近はそうでもないのかなと。いろんなスポーツをやれるクラブもあるし、気軽にできる機会があったらいいと思います」

難航した開催場所の確保

世の中では遊びの“習い事化”が進むなか、子どもたちに体を動かす楽しさをどう感じてもらうか。一児の父親でもある三木田さんが今回のイベントを企画したのはそうした狙いに加え、自身の不完全燃焼感があったからだ。

2025年8月、常磐大学野球部の監督を退任することになったが、以降も野球と何らかの形で関わっていきたいと思った。そんな折に知ったのが、Homebaseでも紹介した「北摂ベースボールアカデミー」や早稲田大学野球部の「あそび場」の取り組みだった。

三木田さんは一般企業に就職後、昨年秋に野球イベントの構想を始めてから約3カ月間はChatGPTと壁打ちしながら考え、年明けに企画の実行をSNSに投稿した。自身の特性として企画を考えるのは得意だが、最後までやり切れないところがある。でも今回はやり切りたいと考え、開催を公言することにしたのだ。

最も難航したのが開催場所の確保だった。ひたちなか市にあるグラウンドを回って挨拶に行くと、候補日は「全部埋まっています」とことごとく断られた。後からわかったことだが、ひたちなか野球連盟が公式戦の開催のため土日は基本的に抑えていたからだ。一般団体が自由に使える日は少なく、連盟に直接相談して調整する必要があった。

今回はたまたま空いていたグラウンドを直前に予約できたが、時間の余裕があれば、もっと告知に使えたという反省が三木田さんには残っている。

今後の3つの方向性

まずは開催してみようと、すべて手探りで始めた第1回。周囲の協力者にも助けられて無事に開催すると、参加した子どもたちは一様に楽しそうにしていた。

「他のお子さんたちも来ていて、上のお兄さんたちに教えてもらう機会もあります。そこは楽しんでいるかな」(娘の父親)

「小さい子に向けた企画で、同じ世代の子がいるので子どもにはいいですね。親も見ているだけでいいので(笑)」(息子の母親)

積極的に参加する子どもたち

一方、三木田さんは初めての開催で、想像を上回る手応えと満足感を得た。

「集客的なところで時間も手法も限られていたなかで、これだけの人が来てくれました。野球に限らずですけど、外で気軽に遊ぶことから、一歩踏み込んだ場の需要はすごくあるなと思いました」

開催にあたっての経費だが、グラウンド代は小学生対象のため無料、道具も近隣の高校などから借りることができたため、ほぼかかっていないという。

今後の展開は未定だが、3つの方向性があると三木田さんは考えている。

(1)近隣の野球連盟と協力し、地元の高校生や中学生にも協力を仰ぎ、大きい球場を借りて100人規模の参加者で開催。企業の協賛を得て、スタッフの交通費などにあてる(※今回は全員が完全ボランティアで参加)

(2)1回目と同程度の規模で、ひたちなか市の周辺地域で開催

(3)参加者から会費をもらい、スクールのような形で継続的に開催

野球を含め、体を動かして遊びたいという子どもたちや保護者の重要はたくさんある。それが体感としてわかっただけでも、今回の企画は大成功と言えるだろう。

その需要を野球界としてどう掘り起こしていくか。個人の好意に依存しすぎず、業界として取り組んでいくことが重要になる。

(文・撮影/中島大輔)

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