
先日第4回を終えた「高校生野球科学研究発表会」。主催である「一般社団法人野球まなびラボ」の代表理事である松井克典さん(日本工業大学共通教育学群准教授)の働きかけでスタートし、“野球科学の甲子園”として、学びと成長の場が築かれてきた。
2023年から3年の歳月を重ねる中で確かな発展と共に、その発展に欠かせない存在がいた。前回に続いて松井さんに話を伺いながら、進化の証を追っていく。
(取材 / 文:白石怜平、写真提供:一般社団法人野球まなびラボ)
回数を重ねるごとに見せた球児たちの成長
23年の第1回から数える高校生野球科学研究発表会は、回数を重ねるごとに進化を重ねてきた。松井代表は研究における進化として、以下のように挙げる。
「一つ目はテーマの多様化です。テクノロジーの進化とその活用が高校野球にも少しずつ普及していき、プレーにおける数値化や分析がどんどん追究されていくようになりました。
今回VRゴーグルを活用した練習というテーマが発表されたように、最新機器を活用した効果検証の研究が出てきています。またそのようなテクノロジーの活用ばかりではなく、高校野球における選手やマネージャーの活動意義に関することも発表されてきています。
例えば高校生が小学生との触れ合いから、単に一般的な野球教室をやるだけにとどまらず、小学生のために何が必要かというところにまで野球部員が具体的に落とし込んで活動を進化させているという取り組みや、野球部マネージャーの在り方や価値を問い直す内容などは、我々にとっても新たな発見になっています」
VRゴーグルを用いた研究というのは、先日の第4回で静岡県立藤枝東高校が「仮想現実で掴む勝利—VRゴーグルが変える打撃練習の未来」というテーマで発表したもの。
フリー打撃や実戦を交えた打撃練習に限りがあるということから、VRゴーグルを活用した科学的な分析を交えて、練習課題の解決にアプローチした。

また、高校球児が取り組む社会貢献活動については、以前本メディアでお伝えした大垣北高校もJr.ベースボールラボを通じた活動を報告していた。神奈川・私立立花学園高校はマネージャーについての発表を第2~3回と2年連続でしている。
2つ目に挙げたのが検証の精度。統計の紹介だけにとどまらず、その有用性についても提示や提案を行う高校が増えていると松井代表は述べた。
「大学の研究者が専門的に行うような統計処理で、『この数字が大きいので有効だと思います』といったものではなく、統計的に検証を行って有意な差が出たであったり、検証の仕方が大学の研究者に負けないものになっていると感じます。
論文化もしくは学会で発表しても恥ずかしくないようなレベルの研究も出てきているのが二つ目の進化です」
発表会を通じて生まれるグラウンド内外での成長
発表会の主役は現役の高校生。自ら行った研究は、グラウンドでも力を発揮していた。登壇した球児から取ったアンケートの一部を松井代表は紹介してくれた。
「主観的な感覚でやっていたプレーがデータとして客観的に捉えられて、自信が持てたと。自分の感覚が間違っていなかったと思えた生徒さんが多くいました」
その例として挙げたのが神奈川県立厚木高校の発表。2年かけて延長タイブレークをテーマに設定しており、昨年は「先攻と後攻での勝率の違いについて」、今年は「何番から始まる打順が有利なのか」について研究を進めていた。
昨年も夏の大会でタイブレークでの勝利もあったという同校、松井代表も発表の中で勝利につながる要因があったと明かした。
「タイブレークは必ず緊迫した場面になるので、攻守に余裕がない状態でプレーしますよね。厚木高校さんは2点というラインがあることを発表したんです。
なので『1点取られても大丈夫』という心理的な安心感が生まれたそうなんです。実際にタイブレークになった時にそういった声掛けになって、プレーに余裕が出たと言っていたのが印象に残っています」

本発表会におけるユニークな研究活動は、グラウンド外での成長にも大きく寄与していた。
個人においては、オンラインではあるものの、数百人の同年代から二回り以上も歳が離れた大人たちに対して発表を重ねることから、プレゼンテーション力の向上が年々見られていると松井代表は語った。
「歴代の先輩たちが後輩に教えていってるのではないかと思います。あと後輩も下級生も1年生のときから見ていて、2年・3年となれば自分も発表するので、『どうやったら周りに分かりやすく伝えられるか』『短い時間の中でどうまとめて伝えるか』という意識や質が高まっていると感じています」
そしてチーム単位でも新たな交流が生まれるのも魅力の一つ。発表の後には質疑応答が設けられ、参加した高校からも質問が寄せられるなど共に学び合う場となっている。
発表会自体はオンラインだが、リアルでもある体験が創出されていた。
「発表会に参加したチーム同士が練習試合を行うようになって、グラウンドでの交流が生まれたことを聞いて、私もすごく微笑ましい思いを持てました。
発表後にいろいろな地域の高校生同士が野球を通して議論をする場面も、我々としてはすごく嬉しいですし、『野球って高校生の心をこんなに動かすんだ』というのをいつも感心して見ています」

松井代表が抱く「本物を見せたい」想い
そして、この発表会を語る上で欠かせない人物がいる。それがTrackMan Baseball日本代表の星川太輔さんである。
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)やプレミア12で侍ジャパンに帯同し日本の世界一をサポートするなど、野球アナリストの第一人者とも言える星川さん。
第1回から参加しており、第3回からは指導講評者として各高校に熱いフィードバックを送っている。
松井代表も「今回もプロ野球のキャンプ地である沖縄から参加してくださいました。星川さんがいるから、この研究発表会の価値が上がっていると言っても過言ではないです」と賛辞を述べた。
「星川さんは身近な野球現場と科学を融合させるのに長けている方です。なので、現場の苦しさとか悩みにもすごく寄り添える感性をお持ちなので、高校生の立場を踏まえた解説をしてくれるっていうのは非常にありがたいですし、お人柄も素晴らしく、リスペクトしています」
松井代表と星川さんは日本野球学会の会員で、顔馴染みだった縁がある。
また、現在ジャイアンツU15 ジュニアユース(多摩川ボーイズ)で投手コーチを務める林卓史教授(慶應義塾大学)と星川さんに松井代表がオファーを出し、快諾を得ていた。(林さんは第2回まで指導講評者として参加)
発表会のスタートにあたりオファーを出した意図は何か、それは松井代表の強い考えがあった。
「高校生に“本物を見せたい“と思いました。星川さんご自身が日本のトップチームの現場に立っていますし、そのトップの現場で何が起きているのかも星川さんは随所に共有してくれます。
高校生たちも探究の解像度が上がりますし、『侍ジャパンやプロの世界でも僕たちと同じことをやってるんだ』などといった希望にもなります。トップと現役の高校生がつながるというのは大切だなと思っています」

また、星川さんが抱く想いも発表会に込められていた。
「星川さん自身も『将来のアナリストを育てたい』と心の底から考えてくださっています。『これからは君たち高校生が活躍する番だよ』と常々おっしゃっているので。
高校生を育てる、アナリストを育てる視点に立ってくださっているので、もうこれ以上の適任者はいないです。
フィードバックでも『すごいね』『面白いね』と言うだけではなく、次のステップを見据えて改善のアドバイスも含めて、すごく親身に話してくださるのは本当にありがたい限りです」
「野球の素晴らしさを伝え続ける」
高校生にとって成長と上達の場として進化を続ける高校生野球科学研究発表会。第4回目を終えた松井代表は、早くも来年に向けて更に発展させるべく想いを寄せている。
「ここまでずっとオンラインですので、理想はリアルでの開催もしたいです。ハイブリッド開催も考えていて、大勢の方の注目を浴びる中、例えばホールのステージで発表するといった経験もしてもらいたいです。
あとは参加校同士のディスカッションをもっと時間を取って深めたい想いがあります。私も元高校教員なので、地域を超えて違う学校の生徒たちが論議を交わすことはすごくいい機会だと思っているので、ディスカッションの時間をとって学びをさらに深めて欲しいです。
あと優秀な研究がたくさんあるので、それを論文化していくサポートをすることも頭の片隅にあります」

本研究会をスタートさせた理由の一つが「一つは試合に出られない生徒や、マネージャーやアナリストといったスタッフにスポットを当てること」と語っていた松井代表。
それは、野球というスポーツの魅力を伝え続け、一人でも多くの人に長く野球に携わってほしいという想いから成る。最後に、ラボや発表会を通じた野球発展について語り、インタビューを締めた。
「今も現場を見て回っていますが、学童でも、中学、高校でも本人の意思とは異なる形で野球を断念している子がまだまだ多くいます。私たち野球まなびラボとしてはそれを断絶したいのです。
子どもたちにいつまでも野球を好きでいて欲しい、勝ちだけではない野球の“価値”に気づいて欲しい、それを気づかせる周りの大人たちであって欲しい…心からそう願っています。
野球は、人間関係を上手に構築する力や主体性・マネジメント力・立ち直る力(レジリエンス)など、非認知能力といわれる人生を生き抜く上で大切なを教えてくれる素晴らしいスポーツでもあります。
本発表会のように、野球を通じてインテリジェンスに長けた人材を育てることだってできます。そのように人生において必要なたくさんの力を身につけられるスポーツなのだということを、これからもラボや発表会を通じて伝えていきたいと思っています」
松井代表の熱い想い、そして星川さんら“本物の知識“が融合した高校生野球科学研究発表会は、今後も裾野を強化する舞台であり続ける。
(了)
