
高校生が自らテーマを決め研究し、発表を行う催しが毎年行われている。それが「高校生野球科学研究発表会」。
全国の高校生がオンラインで参加し、第4回を迎えた今年は北海道から鹿児島までの12校と個人1名が研究結果を共有した。
また、データ分析界の第一人者も初回から参加するなど、研究を通じた学びに加えて社会経験を深める一日となっている。
この発表会の成り立ちから現在までの取り組みを、主催である「一般社団法人野球まなびラボ」の代表理事・松井克典さん(日本工業大学共通教育学群准教授)のお話と共にお送りする。
(取材 / 文:白石怜平、写真提供:一般社団法人野球まなびラボ)
現役高校生が自らテーマを決め、研究する場に
「高校生野球科学研究発表会」は2023年から毎年2月11日に開催されている研究発表イベントで、野球×探究×プレゼンの3軸を持つことが特徴の一つ。
対象は現役の野球部を中心とした高校生。野球のプレーに関する課題やこれまで定説とされた野球界の常識、さらには日々の生活で感じた疑問点など、自らテーマを設定して研究する。
全国から10以上の高校がオンラインで集まり、発表と質疑応答合わせて20分の時間が設けられている。
「高校生が自ら科学的、かつ多角的に野球を見る催しになっています。今は低反発バットやタイブレーク、さらにDH制度の導入など、高校野球もルール的にも変わろうとしていますよね。
自分たちのプレーにも影響してきているので、目の前にある謎を研究することが一つ挙げられます。
あと最近ですと“立ち位置”。子どもたちの野球人口が減っているといった社会課題に対して、自分たちの取り組んでいることが社会的にどう影響を与えているのかなども研究内容で出てきています」

本研究会がスタートしたきっかけは2021年にさかのぼる。松井代表は2つあるとして、最初の理由を挙げた。
「一つは試合に出られない生徒や、マネージャーやアナリストといったスタッフにスポットを当てたいと考えました。
甲子園に行けた・行けないとか、背番号をもらえた・もらえないなど、実力だけの評価以外に野球をもっと深く研究する部員がいてもいいと思ったんです。
今はデータ班とかアナリスト班など組んでいる野球部もあるので、そういう子にスポットを当てたいなって思ったのが一つです」
2つ目は松井代表の現職からたどり着いていた。松井代表は現在日本工業大学の准教授を務めており、その前は高校の教員として野球部の監督やコーチも歴任してきた。
教員として高校生と接してきた時間も長かったことから、ある学習が生徒たちの成長に寄与していることを熟知していた。
「“探究学習”というのがものすごく生徒を伸ばしてくれるんです。
先生が黒板に書く公式を写して暗記するのではなく、『なぜこうだと思いますか?』『この課題に対してあなたはどう考えますか?』といった質問に生徒たちが考えて発言していく。これは学習内容の定着だけでなく社会性や主体性を育むことにおいてすごく効果が高いと感じていました。
自分の好きな野球を探究できれば、高校生たちは前のめりになってさらに成長にも繋がってくれると思いましたので、この探究学習の効果を狙ったのがもう一つです」
21年、学会参加がスタートのきっかけに
かねてから抱いていた構想を具体的な行動へと駆り立てた契機が21年の11月にあった。それは、石川県の金沢星稜大学で行われた「日本野球科学研究会(現:日本野球学会)第8回大会」に参加した時のことだった。
同研究会の会員として参加した際に、ある光景を見て心を動かされた。
「高校生がポスター発表をしているのを見たんです。大学の先生や野球の指導者など、専門知識を持った大人がたくさん来る場に高校生がポスター発表してるのを見て『高校生でもできるんだ』と、深く感銘を受けました。
しかも話を聞いたら現役の野球部員だということで、さらに驚いたんです」
松井代表が実際に目にしたのが、第1回から参加を続ける鳥取県立米子東高校だった。同校の紙本庸由監督にも挨拶し、参加した経緯などをヒアリング。そこから開催に向けて考えが固まっていったという。
「とても素晴らしい取り組みで高校生の教育としても役立つと感じたので、クローズドな場にとどまらず社会全体に向けて認知度を上げて、さらにオープンな場所で行えないかというのを考えました」

開催を決意した松井代表は探究学習と野球をリンクさせて活動している学校を調査し、直接オファーを出した。そして記念すべき第1回は、米子東高校を始めとした5校が参加した。
「金属バットのグリップエンドに小指をかけることで、バッティングにどのような影響を及ぼすか」(神奈川県・私立立花学園高校)
「高校野球における配球によるコンタクト傾向の分析」(山形県立山形東高等学校)
などと、独自の研究結果を発表。特に埼玉県立春日部高校は、投手班・内野手班・外野手班とポジションごとに分かれた研究を行うなど、各校の色や意識の高さが早速表れていた。
聴講者も200人を超え、オープンな場で高校球児たちの独自研究を訴求する場になるなど盛り上がりを見せた。
高校生による自発的な研究は指導者の学びに
第1回を終えた後、ある先生や生徒たちからのフィードバックが響いたと松井代表は語る。
「普段指導に当たっている先生たちが、『こういった発表の場があるのは生徒たちの励みになる』と直接声をかけていただきました。
いつも取り組んでいることを多くの方たちに知ってもらえること、あとは他校の発表を聞けるのがさらに学びになるのだと。
自分たちの発表を見てもらった後フィードバックをもらえますし、同じように研究を重ねている高校生が全国にいることがどれだけ勇気づけられるかというのは皆さんおっしゃっていますね」
2年目以降は参加校がさらに拡大し、第4回まで毎回平均約12校が発表の場へと立っている。参加した高校やSNSからの口コミだけではなく、時代とともに高校生たちの意識も変化しているのも要因だった。
「生徒さんたちの気質的に研究の文化が以前よりも浸透していることが、本質的な点だと思います。
“監督の教えが絶対”といった考えはもう今の高校生たちもほとんど持っていなく、逆に『自分たちがやっていることは本当に正しいのか』と疑問を自身に抱いています。
情報化の時代ですので、 YouTubeとかネットを見れば技術論などすぐ出てくる中で、『しっかりと自分の目で検証してみよう』『仲間と一緒に考えてみよう』という意識は、高校生の中にもすごく芽生えていると感じています」
高校生自身が慣習に疑問を抱き検証を行うというのは、先日行われた第4回にて発表したケースがあった。
2026年春の第98回選抜高校野球21世紀枠の茨城県推薦校にもなった私立茨城高校が日常の練習の疑問点として、「トスバッティングの効果はいかに?」というテーマで研究発表を行った。

研究会を終えた後、同校の岡部将也監督と会話したという松井代表。生徒たちの発表を通じて、岡部監督はこう語っていたという。
「監督は『そんなこと考えたこともなかった』と。逆に部員たちが私に教えてくれたと仰っていました。指導者が気づかない視点を生徒たちが教えてくれるというのは、この研究会の象徴的な出来事だと思っています。
それが毎年全国のどこかで起きているわけですから。なので指導者も学び続けなければならないという見解も出せますし、時代に合わせてアップデートしていくべきだということも言うことができますよね。
指導者にとっても変わるきっかけとなり、実際に変わることが出来てきているのではと感じています」
4年間開催している「高校生野球科学研究発表会」だが、進化に欠かすことのできない人物がいた。松井代表にはその功績とともに、本発表会の発展についてさらに語ってもらった。
(つづく)
