【第5回野球データ分析競技会レポート①】ラッキーボーイは可視化できる?競技力向上に向けた新指標も提案

2月14日〜15日の2日間にかけて、「第5回データ分析競技会」が行われた。今年も学生たちによって野球のデータに関するユニークな研究発表が行われ、キャリア形成に向けた道標も示された。

Homebaseではファイナリストに選ばれた6チームのレポート並びに、データ分析の現場で活躍する面々を招いたパネルディスカッションを4編に分けてお送りする。

「野球の競技力向上」をテーマに、6チームがファイナリストに

「データ分析競技会」は、“データと現場をつなぐスペシャリスト”の育成を目的として行われている。

具体的にはアナリストやバイオカメニストさらにはコーディネーターといった人材で、国内外問わず野球界においても近年その重要性が増している。

全日本野球協会(BFJ)と日本野球連盟(JABA)が主催しており、今年で5回目を迎えた。

対象は高校生から大学院生で、1チーム1名〜3名で構成される。過去大会からはNPBなど野球界の就職を実現するなど、スペシャリストに向けた一つの登竜門となっている。

今回はエントリーした25チームの中から熊本大学、滋賀&國學院大学、中央大学の2チーム、同志社大学・同志社大学院、和歌山工業高等専門学校(50音順)の6チームがファイナリストに進出した。

毎年分析テーマと対象データが設定されており、第5回も前回に続いて「野球の競技力向上」がテーマに。

2021年~25年における「都市対抗野球大会」並びに「社会人野球日本選手権大会」の合計297試合からトラックマンデータを参照し、各チームで示唆を導き出した。

滋賀&國學院大学が示した新たな指標

今回の大会レポート第一弾では、滋賀&國學院大学と和歌山工業高専の2チームについて特集する。

トップバッターを務めたのが滋賀&國學院大学。「BCI(Batting Composite Index)〜変化球選球眼とコンタクト適応能力を統合した打撃能力指標〜」という題で発表を行った。

滋賀&國學院大学の2人(写真左:滋賀大・近藤那由太さん・同右:國學院大・珠玖征志さん)

「選球眼がいい打者は打率も高い」「コンタクトポイントが前方の打者は好打者」という通説を検証し、球種別分析から新たな打撃能力指標を構築するという研究内容を発表した。


最初に仮説として、以下3点を挙げる。
①「選球眼が良い打者は打率が高い」
②「選球眼が良い打者は長くボールを見るようにするので、コンタクトポイントが後ろになる」
③「コンタクトポイントが前の打者は詰まることが少ないため、打率が高くなる」
そのうえで、仮説の検証から新指標の提案までを3ステップに分けて展開した。

アプローチに向けた3つのステップ

①〜③の仮説では相関係数の値を使って検証。
相関係数は−0.2 ≤ r ≤ 0.2であればほとんど相関がなく、もしくはp値が0.05(5%)よりも高い値であれば有意な相関とは言えないと定義されていることから、選球眼とコンタクトポイントは独立した能力と結論づけた。

近藤さんは上記資料の“混在”に着目し、「ステップ2として球種別分析を行ったところ、変化球に有意な構造を発見することができました」と述べた。
変化球における相関値を算出したところp値が0.05(5%)未満であり、相関性があることを見出した。

「変化球の選球眼が良いバッターは真っ直ぐと変化球のコンタクトポイントのズレが少ないっていうところが分かり、そのズレが少ないバッターは安定した打撃ができていることが分かりました」(近藤さん)

上記を踏まえて提案したのがBCI。変化球選球眼とコンタクト適用力を合わせたオリジナルな指標である。

近藤さんに代わってプレゼンターを務めた珠玖さんは、BCIをOBP(出塁率)・wRC+(打撃による得点貢献の総量)・RunValue(得点価値)の観点から相関性を判定し、いずれもp値が0.5未満だったことから優位性を導き出した。

続けて活用法についても言及。利用上の注意も交えながら、スカウティングとトレーニングの両面での実践について珠玖さんは解説した。


「スカウティングの面では、打席数が少ない段階でも算出可能です。トラックマンのような投球データのみで影響力を推定することができるので、ドラフト候補の新たな評価軸につながる可能性を秘めています。
トレーニング指標では、変化球への見極め力の改善指標であったり、球種間のコンタクト一貫性の向上度合いを定量評価できると考えました」

結論としては、
1:「選球眼が良い=好打者」という通説はデータにおける相関性はない
2:変化球選球眼は打撃成績と有意な関連がある
3:ここではBCIという変化球選球眼とコンタクト適応力を合わせた指標を提案し、OBP・wRC+・RunValueいずれにも有意な相関関係がある


上記3点を述べて発表を終えた。

主に短期決戦で現れるラッキーボーイを可視化

2組目は和歌山工業高専からの発表へ。同校は「ラッキーボーイとなる方法」について、データを用いながらプレゼンを行った。

和歌山高専の(左から)新宅良樹さん、足立春樹さん、更井祥真さん

更井さんは冒頭で「競技力向上というのを『トーナメントや短期決戦におけるチームの勝つ力の向上』という形で定義した」とし、特に短期決戦においては“ラッキーボーイ”の存在が勝利の鍵を握っているとして分析のテーマに置いた。
ラッキーボーイを可視化してそれを大事な試合の前に把握すると、試合の流れを大きく変えられる可能性があると考えた。

今回は打者に焦点を当てて分析を行った和歌山工業高専。

まず、「ラッキーボーイは甘い球を確実に安打にしており、逆に不調な選手は甘い球を見逃したり、捉えきれず抑えられているのでは?」という仮説を立てた。今回のラッキーボーイとは、過去5年間の都市対抗野球決勝戦に出場したチームの出塁率上位15選手、不調は逆に下位の15選手と定義している。

計30選手をトラックマンのデータから「甘い球の空振り率」・「甘い球見逃し率」・「甘い球ハードヒット率」を抽出し、比較した。なお、ここでの“甘い球”とはホームベースの表面から高さ0.6〜0.85m、中心から横±0.15mと自ら定めた。


結果についてはハードヒット率に着目。ハードヒット率とは、打球速度が95マイル(約153km/h)以上の打球が全打球に占める割合を示す指標で、ラッキーボーイの選手は不調な選手と比べ、8%以上の差があることが分かった。

結果を踏まえ、更井さんは考察をこのように述べた。


「空振りを厭わないフルスイングこそがハードヒットを生み出しますし、打球速度が高まるほど強襲安打や失策などにも影響が及びます。

ラッキーの正体というのは偶然安打になったのではなく、強い打球を常に打つことで野手のミスを誘発し、安打になる確率を自力で引き上げてきたことにあると考えています。


ここで大切なのは、空振りを恐れずにどんどん甘いゾーンを振っていく。甘いボールを最大出力でいかに叩けるかに評価基準を置くことで、野球の競技力向上につながると考えています」

そして最後に、以下3つの結論を述べ発表を終えた。
・直近のラッキーボーイスコアを使用することで、スコアが高い選手を短期決にに適した選手であると判断できる
・シーズン全体の結果とは関係なく、短期決戦に強い選手を検討できる
・起用する選手の幅が広がり、選手が経験を積む機会を増やすことができる


この後も、次々に独自の視点でファイナリストによる発表が続いていく。

※第2回へ続く。

(写真 / 文:白石怜平)

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