昨年も11月22日から12月18日までの間、「ジャパンウィンターリーグ2025」(以降、JWL)が行われた。
毎年沖縄で行われる国内で唯一のウィンターリーグ。第4回目を迎えた今回も”野球界のハブ”として新たな化学反応が生まれていた。
JWL発起人で株式会社ジャパンリーグの鷲﨑一誠代表と共に、第4回の取り組みを振り返っていく。
(取材 / 文:白石怜平)
3月のWBCに向けチェコへ選手とコーチを輩出
JWLは日本初のトライアウトリーグとして約1ヶ月間開催されている。
「陽の目を見ない場所に光を」・「野球界の登竜門を沖縄に」という2つの理念を掲げており、22年にスタート。今回で4回目を迎え、年々国際色が豊かなリーグとなっている。
昨年は14カ国・地域の選手が参加したが、今回はさらに増えて過去最多の16へと伸ばしている。
JWLは23年の第2回から新たな挑戦を目指した「トライアウトリーグ」と、より実戦機会の増加を目的とした「アドバンスリーグ」2リーグを実力に合わせて編成。

日本人選手を合わせると計125名の選手が挑戦の場として沖縄を選び、スカウトもMLBやNPBなど8つの国・地域から40球団以上が視察に訪れた。
契約者も28名(2月12日現在)に達し、その進路は国内では社会人や独立リーグさらには海外リーグにも広がっている。
加えて3月から始まるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けて、JWLを起点に新たな動きが生まれていた。
それはアドバンスリーグに参加していたボリス・ヴェチェルカ投手がチェコ代表に、コーディネーターを務めたアレックス・デーハク氏が同国代表コーチに就任。世界最高峰の舞台にJWLから輩出されることになった。
実はヴェチェルカ投手にとってJWLは復帰かつ、代表入りへのステップの場でもあった。
「ボリスはトミー・ジョン手術を受けた影響で3年間投げられていませんでした。復帰後初の実戦がJWLだったんです。その中でしっかりと結果を残し、チェコ代表のトライアウトを受けて決まりました。
JWLがなければ代表になれていなかったと思いますし、彼自身がこの場を活用してチャンスを掴んでくれました」

デーハク氏は23年の前回大会でもチェコ代表のコーチを務めている。その実績などを評価してJWLにも招聘した鷲﨑代表は、その姿勢に深くリスペクトを送っている。
「アレックスはすごく勤勉です。日本のハードワークにすごく合っていると感じています。バッティングのスキルを教えるのも当然のこと、ピッチャーとしてのドリルを用意して、ロッテやヤクルトの選手といったNPBの選手にも丁寧に教え込んでくれました」
JWLでは2リーグ計6チームに分けて試合を行っていたが、今回からコーチではなくコーディネーターに指揮を任せていた。その際もデーハク氏の指導力はとりわけ光っていたという。
「チームをまとめる力を強く発揮してくれました。ゲーム性を持たせた練習をして雰囲気を盛り上げたりして一体感を持たせることがすごく上手かったです。そういった点もチェコの代表として強化にも役立ててくれると感じています」

NPB球団の参加数が倍、一軍での実績ある選手も
また、前回から参加しているNPB球団は昨年の3球団から今回は全体の半数に当たる6球団(ソフトバンク・オリックス・西武・ロッテ・巨人・ヤクルト)と2倍に増えた。
その中には赤星優志投手(巨人)や岡田明丈投手(元広島)といった、一軍での実績ある選手がラインナップに加わっていた。その影響度は大きかったと鷲﨑氏は語る。
「赤星選手は自分のペースを持って一つひとつ取り組んでいて、その存在自体が全体に影響を与えてたのが伝わってきました。岡田投手は兄貴分で、短期間ながら一緒のチームになった後輩選手にすごく慕われていました。
目標の舞台で活躍する選手が間近にいるので、少しでも吸収しようとみんなが注目していたと感じました」

参加選手はトヨタ自動車ら社会人野球の名門や独立リーグなど、レベルもバックグラウンドもさまざま。カテゴリー関係なく互いに切磋琢磨する環境が自然と醸成されていた。
「NPBの選手、特に育成選手たちから見て社会人や大卒の選手たちは年上で、高いレベルでもプレーしている選手なので、NPBだから胡座をかくことは決してなくて、『走塁のスタートはどんな意識でやっていますか』などと積極的に質問していたのが印象的でした」
最速168km/h右腕が見せたポテンシャル
JWLの特徴の一つである海外選手の参加。開催前からある選手の参加が話題を呼んでいた。それは、ペルー出身の右腕であるホルヘ・ロヨラ投手。最速は168km/hをマークした経験があるということで、その剛腕がJWLデビューを飾ることになった。
この派遣は独立行政法人国際協力機構(JICA)と連携し、野球途上国の競技力向上を支援する 「“世界の野球界に光を”プロジェクト」が新たに発足したことから実現した。
12月12日に初登板を飾ったのだが、実はあるハプニングが起きていた。
「実は肩を故障していたそうで、最速132km/hだったんです…(笑)。本人は期待をかけてもらっていることも感じていたでしょうし、なんとかこの日までに治したい、あとは異国の地で結果を出したいプレッシャーもあって言い出せなかったんだと思います。彼とも話した周囲もそれを感じていましたし、理解していました」
ただ、192cm / 108kgという体格を持っているロヨラ投手。「そのフィジカルには驚きました」と、決して伊達ではないことがあるデータから明らかになっていた。
「Inbodyで体組成を測ったのですが、除脂肪体重が95kg。体脂肪率が6%なんです。そんな選手はNPBでもいないです。なのでポテンシャルとしても168km/hを投げるというのは本当なんだろうなと感じました。故障が明け後のパフォーマンスを見てみたいと思いましたね」

次なる構想「ベースボールEXPO」へ踏み出した一歩
鷲﨑氏は“世界の野球人と情報が集まり、化学変化が起きるプラットフォーム”づくりを目指すため、「ベースボールEXPO構想」を掲げている。
構想実現に向けては、22年にJWLが始まり23年にはトライアウトとアドバンスの2リーグ制度の導入とステップアップしてきた。そして今回、新たな取り組みとして「アクセラレータプログラム」をスタートさせた。
本プログラムはパシフィックリーグ・マーケティング(PLM)との共同プロジェクトとして行われたもので、事前公募の上採択されたスタートアップ2社が提供サービス実証のため、JWL期間中選手たちに活用してもらった。
「今回参加したのが、血糖値からメンタルを読み解く会社さんと、VRゴーグルを使って脳疲労度を計測する会社さんでした。
すごくいいメソッドを持っているにも関わらず、野球界に入る敷居が高かったり、コネクションがないという部分でこれまで陽の目を見ていなかったんです。
各社2週間ずつサービスを施したことによって、選手にとっても新たな発見になりましたので、両者にとってプラスになる取り組みになりました」

開催期間を通じて企業と球界とのマッチングを行った今回のプログラム。それは野球、スポーツの枠を超えて経済へと発展させている。
参加期間を終えた後、2社は開催地である沖縄の大手企業に向けてピッチを行っていた。その結果新たなビジネスが始まろうとしており、鷲﨑代表は抱く考えを明かしてくれた。
「野球やスポーツが一つのきっかけになると考えていました。今回参加してもらったスポーツテック企業としては、存続していくためにもマスに広げていかなければなりません。
最初の足掛かりとしてアスリートはデータと親和性があるので今回活用してもらいましたが、そこから例えばですがウェルネス系の分野に広げることによってビジネスが発展していくのではないかと。
今後スタートアップ企業が陽の目を浴びるためにも、JWLが経済界に広げていくことは、我々の果たす役割の一つだと考えています」

野球リーグの枠にとどまらず、企業や経済へと進出しているJWL。「ベースボールEXPO構想はすでに始まっています」と語る鷲﨑代表は、2026年もカンファレンスを開催する目標を定めるなど、着々と歩みを進めている。
改めて挑戦したいことについて、最後に述べた。
「世界の野球人たちがJWLに集まってくることで新たな出会いが生まれ、参加した全員が何かしらの成長の実現を今後も支援したいです。
あとは野球版M&Aと言いますか、日本中で行われている催しを沖縄で一緒に開催できるようにしたいと思っていまして、それをキャッチアップしながら実現へと進めたいです」
2025年はサマーリーグのスタートなど、ここ沖縄で野球界の登竜門がさらに進化した。今年も鷲崎代表の情熱と共に、さらに進化を遂げていく。
(了)

