中学軟式から名門校を経てクラブチームへ。独自の道で見てきた野球(信越硬式野球クラブ・百目鬼浩太)

 中学卒業時、高校卒業時、さらには大学卒業時。それぞれのカテゴリを終える度に、選手たちは野球を続けるかという岐路に立つ。百目鬼選手はその岐路に何度も立ちながら、いまなお野球を続けている。しかも、続けてきた中でこの夏には日本代表合宿にも名を連ねた。続けることで得られるもの、また続けるという思いを持ち続けたこられたことの理由を聞かせてもらった。

 

 長野県を拠点に活動する、信越硬式野球クラブ。過去には一企業チームとして歴史を重ねてきた同チームは現在、どこかの企業の所属などではなく、クラブチームとして活動を続けている。一社会人チームとして都市対抗大会での優勝を目指しながら、地域での野球教室などにも積極的に取り組む、市民球団ならぬ“市民チーム”として地元で知られた存在だ。

(写真:本人提供 信越硬式野球クラブのチームメイト)

 

 今回紹介する百目鬼浩太選手は、現在同チームで4年目のシーズンを過ごしている内野手だ。名前を知っている人も少なくないだろう。高校は名門・東海大浦安出身で、大学は東海大北海道キャンパスでプレー。直近では、残念ながら延期となってしまったものの、9月に行われる予定だったアジア競技大会の侍ジャパン社会人代表の候補選手として、選考合宿にも名を連ねていた実力者である。

(写真:本人提供 大学時代の百目鬼選手)

「実は大学卒業には、野球を続ける気はなかったんです。4年の春に全国大会にまで駒を進めることができて、そこで野球は終わるつもりでした。そのときには民間企業の就職の内定ももらっていたんです。ただ、夏になって野球を続けたいと思いが強くなり、考え直しました。内定をいただいていた会社にもお断りの連絡を入れさせていただき、縁あっていまの信越硬式野球クラブの所属となりました」

 企業チームではなく、クラブチームへ。協力企業に配属される形となっているが、それでも基本的には平日は仕事だ。週末の試合に向けて、シーズン中は木、金曜日の午後を練習に充てている。そういった環境に身を投じたことで、意識が大きく変わったという。

「正直、いままでのキャリアでは練習できることの喜びや、時間の大切さに気付くことなく、過ごしてきていたと感じました。クラブチームでプレーするようになって、限られた環境、限られた時間の中で自分のパフォーマンスを上げなくてはいけなくなり、より工夫して練習するようになりました。プレーの引き出しも増えた気がします」

(写真:本人提供)

 恵まれた環境でのプレーでは気づけないことがある。ちなみに前述の代表候補合宿で、クラブチーム出身は百目鬼選手ひとりだったことからも、この4年間で気づけたことが確かな結果にも結びついている表れだ。

中学時代の指導がいまの自分のベースに

 千葉県習志野市の出身で、中学までは軟式野球をプレーしていた。軟式でプレーし、名門高に進み、その後も強豪大学に進んでいまはクラブチームでプレーするという球歴の持ち主である。

「習志野市は軟式野球が盛んで、地元の中学校の部活動に参加するのが普通だったので、硬式野球をプレーするという選択肢を考えることはなかったです。そこで指導を受けた伊藤先生は自分の恩師のひとりですね」

 当時、百目鬼選手が所属していた習志野第七中学校で指導に当たっていたのが、伊藤将啓氏。2015年、17年にはU-15の侍ジャパン代表監督も務め、いまは教育委員会に所属している人物だ。

「技術面どうこうということより、学校生活のことや人間性の部分をすごく丁寧に指導してくださったという風に覚えています。野球においても『お前たちが生きてきた時間よりも、俺が野球をやっている時間のほうが長いんだから、手を抜いていたらすぐわかるぞ』と言われたり(笑)。当時はよく反発してしまっていましたが、いま自分が大人になって、あのとき先生が言っていたのはこういうことだったんだなということにあらためて気付かされています」

 クラブチームでの日々も、中学時代に学んだことが胸にある。これは百目鬼選手に限ったことではないが、いまなお野球を続けているのは、野球をやめる選択肢よりも、野球を続けたいと思える体験があったからに違いないだろう。百目鬼選手にとっては、それが中学時代に触れた伊藤先生との日々だったということだ。

(写真:本人提供)

いま、野球を続けることで得られるもの

 クラブチームの選手として唯一参加した代表合宿でも、新たなことに気付かされた。

「トップクラスの舞台でプレーをしている人ほど、基本的なことをとても大事にしているということを感じました。練習ひとつにしてもそうですし、自分の身体のケアもそうです。また、なにより野球へのリスペクトというか、そういった部分もあると感じました。例えばですけど、野球道具の手入れなども、すごく丁寧にやられている人しかいないです。それが当然なんだなというのはあらためて気付かされましたね」

 社会人野球のステージで、クラブチームのプレイヤーとして代表の選考の場にも立って、あらためていま野球ができる環境に感謝しながらプレーを続けている。

(写真:本人提供)

「野球を続けるモチベーションに悩んだり、続ける理由がなくてやめてしまう選手が多いという風に昨今は聞きます。私自身も大学で辞めてしまおうと思っていましたし、その気持ちはわかります。ただ、続けてみて、過去にご指導いただいたことへの理解がより深まったり、自分は選手としても人間としても成長することができたと感じています。野球がもっとうまくなりたいとか、シンプルな喜びを追いかけるだけでもいいと思うので、プレーを続けてほしいです。私は野球を続けることでいまの考えになりました。指導者のみなさんにも伝えてもらえたらなと思います」

 野球を続ける道。その道半ばで辞めてしまう選手が多いが、続けることで見えるものがある。指導の現場にいる方や、いままさに岐路に立っている選手は、ぜひ百目鬼選手の言葉を思い出してほしい。野球を続けることで得られるものは必ずある。その環境を作ることと、やめる理由を考えることのないほどに、野球を好きになることが重要なのかもしれない。

(了)

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