“新データ”で野球はどう変わっていくのか。最先端の分析チームRAUDの挑戦

 投手が投じたボールの回転数や、打者が放った打球速度など、技術の進歩により、野球中継などでも目にすることが増えた新たなデータの数々。これらは今後野球界の発展にどのようにつながっていくのだろうか。今回は、球界の最先端で研究を重ねている野球アナリスト団体・RAUDの根本氏に話を聞いた。

データが示す「選手の本質」。令和の“新データ”時代 

出塁率や、OPS、投手であればQS(クオリティースタート)や奪三振率など、野球の成績に関するデータが一般的にも用いられるようになって、おおよそ15年ぐらいが経つだろうか。まだまだ理解が及び切っていない部分はありながらも、広く野球界にも浸透し、”野球のデータ”といえば、この辺りを頭に浮かべる人が多いことだろう。

 その一方で、この数年で急激に知名度を伸ばしているのが、“トラックマン”や”ラプソード”といった機器・システムを活用して弾き出される、ボールの回転数や、打球速度などといった、選手のパフォーマンスに直結するデータの数々である。区分けをするために、これらをこの文中では『新データ』と定義したい。この新データ、いまはどのようなところまで把握することができ、どのように今後の野球界に活用されていくのか――。そんな疑問を解決すべく、話を聞いたのが、現在、国内でこの新データに関しての研究を最先端で進めているアナリストチーム『RAUD(ラウド)』である。

「これらの新データの特徴は、これまでのデータのように蓄積をせずとも、選手の本質を知ることができます」

 そう語るのは、同チームでアナリストとして活動する、根本氏だ。根本氏が所属するRAUDは野球のバイオメカニクス分野の第一人者である神事 努准教授のもと、國學院大学内にて昨年立ち上がったアナリストチームだ。年間通して侍ジャパンの学生カテゴリーチームなどの新データ計測活動を行なっており、いま、“新データ”に最も多く触れているチームと言ってよいだろう。

(写真:RAUD 根本氏)

感覚的なものが明確化。新データが示す野球の真相

 さて、あらためて先ほどの発言の続きを聞いてみたい。「選手の本質」とはなんだろうか。

「例えば、いままで抽象的に“良いボール”とされていたものについて、スピードが速いのか、回転数が一般的なボールと比べて多いのかなど、客観的な評価に基づいて、評価をすることができます。打者であれば、スイング軌道などが解析できるので、選手としてどのような特徴があるのかがはっきりとわかるんです」

 変化球の“キレ”やストレートの“ノビ”といった、長年、感覚的にしか表現されてこなかった言葉に裏付けができるようになった、ということだ。より具体的に表現すると、下記の通りである。

「現在用いられているシステムでは、投手が投げたボールの回転数や回転軸などといったデータから、投げるボールがどのような軌道を描くか、最終的にどのような変化がなされるかなどが算出されます。その算出されたボールが、一般的、平均的な数値とどれくらいの差があるか、というのが、その選手の特徴になるわけです」

 ひとつの解釈のポイントとして、単に変化量が大きいとか回転数が大きいということが特徴なのではなく、“どれだけ平均から離れているか”が肝になるということを理解しておいたほうがよいだろう。例えば、ストレートひとつをとっても、平均よりも回転数が極端に低いボールの場合は、打者にとっては普通よりもボールが手元で“沈む”、あるいは”垂れる”ボールであるという特徴になりうるということである。

 ただし、これにはデメリットもあるというのが根本氏の回答だ。

「自分が目指している、いわば理想のボールとのずれに気づいてしまうことがあるということですね。質の良い真っ直ぐを投げたい!という風に目標を定めて取り組んでいる選手がいたとして、自分でいい感覚を得ていても、データで見るとそうでもないという現実を目の当たりにすることがあるということですね」

 もちろん、改善の可能性がないという話ではないが、ひとつ、数字を見せる側のデメリットとして理解をしておいてほしい。

(写真:RAUD提供 國學院大学グラウンドでの活動の様子)

技術向上と“効率化”。新データが作る未来

 逆に、この“新データ”が普及していくことによるメリットはなんだろうか。根本氏は言う。

「当然、自分のことを知ることができるというのが最大の特徴であります。よく言われるのは、故障しそうな投手を過去のデータと照らし合わせることによって解析できたりといったことも挙げられますが、一番は“自分を知った”上で、これからどのような取り組みをすればよいかという、トレーニングの方向性を定められることになるかなと思います。ストレートの球質を改善したいとなったら、ではそのためにはフォーム的になにをしなくてはいけないか、そのフォームを実現するためにはどこの力をつけなくてはいけないかなどといった風に、明確な目標に向かって努力をすることができるというのが、メリットになるかなと思いますね」

 新データが示すのは、客観的なデータでありながらも、選手たちの動きなどから生み出されるものであり、それの向上を図るには自分の体力・技術を磨くしかない。このデータを理解しつつ、努力をすることが必要となるわけだ。

「アメリカでは、このような知識を持った“新データ”のアナリストがチームに在籍するような流れになっています。選手たちの技術向上のためにも、我々RAUDもこのデータが一般化されていくように活動をしていきたいです」

 正直、まだまだ日本国内においては理解が及んでいないであろう“新データ”の領域。この記事を読んで、少し学ぶキッカケにしてもらえれば幸いだ。

(了)

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