大学への進学、野球の継続。高校の指導者であれば、避けては通れない問題である。選手たちはプレーをする中で、次のステージでプレーをするか考えた上で決断をすると思うが、大学野球の選手として継続できる数は、一握りだ。なかなか思い通りに事が進まないことも多いだろう。その先には甲子園、神宮、プロ野球選手というそれぞれの目標があると思うが、選手たちの中には、野球を「仕事」にしたいと思い、あえて「プレーをしない」という選択をする例がある。そんな元選手たちがどんなことを行っているのか。今回は、マネージャー、学生コーチについて紹介したい。選手が大学でも野球に携わりたいと言ったときにこんな選択肢があると提示してあげてほしい。
高校と大学では役割が大きく違う「マネージャー」
一般的な方が想像する野球部のマネージャーといえば、高校野球のマネージャーを想像しているであろう。高校野球のマネージャーは男女問わず、チーム/選手の活動サポートを行うことが多い。練習時には、グラウンドに出てきて、ノッカーへの球出しをしたり、ノックのボール運びやトス上げをしたり、それ以外にもボールの修繕を行ったり、グラウンドの保全など、多岐にわたる。そして試合になると、ベンチに入りスコアをつけ選手を鼓舞するといった仕事がメインとなる。
それに対して、大学のマネージャーは事務作業がとても多い。もちろん大学によっては高校のマネージャーのようにグラウンドに出てサポートを行うこともあるが、多くの場合はグラウンドにはほとんど出ないことが多い。大学のマネージャーは、チームのマネジメント全体を担当していると言っていいだろう。監督の意向に沿ってチームの練習試合のスケジューリングを担当したり、OB会との折衝や所属連盟との連絡調整など、高校野球では監督や部長が担当するような野球部の運営に関することは全てマネージャーが行う。
監督の側近として社会人交流も多く行うため就職も好成績に
さらに、監督のマネージャー的な役割を行うこともある。監督会議や会食にも同席したり、選手の普段の様子などを伝えたりすることもある。野球部の監督という、会社で言うと代表取締役の一番の側近を担うのだ。もちろん、監督同士のやりとりを目の当たりにしたりOB会との関係性など大学生ながら社会人のやりとりを見ることも多く、マネージャー自身も名刺を持ち、一社会人として振る舞うことが多い。
こういった経験は大学の野球部に所属する選手でも、なかなか経験することはない。就活市場では体育会のマネージャーをやっている学生を欲しいと言う企業は多い。実際に、昨年の東京六大学野球のマネージャーだった学生は、大手生命保険会社や大手広告代理店など選手に引けを取らない一流企業への就職を果たしている。学生時代に社会人のような経験をすることは、なかなかできないだけにとても貴重な時間を過ごすことができるといえそうだ。
練習では、さながら「監督」 縁の下の力持ちの学生コーチ
学生コーチ。多くの大学野球には、こう呼ばれる選手たちも多い。学生コーチの仕事は、選手たちが質の高い練習を行うことをサポートすることが仕事である。高校のマネージャーのように選手と一緒にグラウンドに出て、ノックを打ったり、バッティング練習の投手を行ったり、練習サポートを行うことはもちろんだが、選手に技術指導を行うこともある。これまでの野球経験や勉強を通して得た知識で選手たちが活躍することをサポートするのが高校との大きな違いである。学生「コーチ」と言う名前の通り、指導をすることも大きな役割の一つとなっている。
また、大学によっては練習メニューの構成を考えたり、練習メンバーを決定するのも学生コーチの仕事になっていることがある。大学の野球部は、高校に比べ所属部員も多く、大学によっては100名を超えることも少なくない。監督は全ての選手を見ることを心がけてはいるが、細かなところまで見切れないと言うのが現状である。そういった時に学生コーチが、選手と近い立場で生活を行いながら、監督の目の届かないところまで目を光らせ、輝く選手がいないか発掘するようなスカウトのような役割もしなければならない。

(写真:明治大学硬式野球部提供)
「チームのために」という自分の時間を使うことで得られる経験
学生コーチは、あくまで自己犠牲といった考えがなければなかなかやり遂げられない仕事である。選手と一緒のグラウンドに立ち、練習メニューを考え、時には厳しい練習を課す。仲間でありながら敵役を買って出なければならない場面も多く、難しい立ち回りが必要となる。また、自分の知識だけでなく選手にあった指導を行えるよう練習後も指導に関する知識を取り入れる勉強に取り組んだりしなければならない環境は、選手以上に厳しいかもしれない。ただ、だからこそ監督という立場と対等に会話を行いチームマネジメントの一部にも入り込むという経験をすることができるのも事実だ。
上記のように、選手以外の形で野球部と関わるという選択肢も今では増えている。このほかにもアナリストや学生トレーナーという立場を常設化している大学野球部は年々増えている。指導者の皆さんには、選手が進路に関わる相談をしたときにあらゆる選択肢・可能性を提示してあげられるよう取り組んで欲しいものである。

