【野球界の未来のため】選手に新たな選択肢を与える「TEAM ABLAZE」

 「人として、野球選手としての可能性をできるだけ広げてあげたい」。栃木県那須塩原市で活動する大山ファイターズにて、このような目標を掲げながら活動していたのが、前監督の大倉崇氏だ。少年野球界の課題である“指導者や親が主体になりがち”である指導全般を根本から変えながら、勝利を求めるスポーツの本質も追い求める。そのバランスをとりながら活動を続け、2020年にはチームとして、ベストコーチングアワードの★★(ダブルスター)、翌年には★★★(トリプルスター)を受賞した実績を持つ。

 2022年からは、栃木県北部で活動をする大田原ボーイズ(中学硬式クラブチーム)の協力で、野球界の未来をつむぐ新たな取り組みの場を立ち上げることになった。栃木を舞台に奮闘する大倉氏が描く、未来図とは。

息子がきっかけで入った指導者への道 指導者を続ける理由になった、ある“後悔”

 かつては自然と野球に触れる環境があり、地域のチームに所属にするということが普通だった。しかしいまは、スポーツの多様化やそもそもの少子化などの事情により、野球をやるという選択肢を選ばせること、さらには継続して続けさせることが難しい時代となっている。いま、いわゆる“前時代的”な指導が根強かったここ20年ほどの歴史からの脱却が、求められている。

 野球をやるというのが当たり前ではないことを理解しながら、いかに野球を続けてもらうか――。大倉氏は、その課題と密すぎるほどに向き合ってきた人物である。 

「はじめて野球の指導の現場に入ったのは、自分の長男が大山ファイターズに入団したときのことです。息子が6年生のときには監督をつとめ、のちに次男が入ったときにはコーチも担当しました」

 自分の子どもがチームに入るタイミングで指導に携わることになる親御さんはいまでも多い。大倉氏もそのようにして指導者となり、そこから、いまに至るまで6年ほど指導者を務めることになる。ただ、続けることになった理由は、自身が感じた後悔だった。

「自分の子どもは、長男も次男も中学校に上がるタイミングで野球を辞めてしまったんです。続けることが正解ということではないのですが、自分の教え方、取り組み方がよくなかったんだと反省しました。そこからメンタルトレーニングの本を読んだり、指導者向けの講習会などに足を運び、自分なりに学んでみました。いま思うと、自分が最初にやっていた指導は、いまじゃダメだと言われることもあったと思っています」

 “いまじゃダメな指導”とは――。さまざまな考え方があるだろうが、簡単にまとめるならば、選手たちの自主性を重んじることを怠り、指導者が自分の価値観を押し付けるような指導のことだろう。昔よりもスポーツだけでも数多くの選択肢がある時代である。選手たちが、自ら野球がうまくなりたい、続けたいと思ってもらえるように背中を押してあげるのがいまの時代に求められる指導者である。

「人として、野球選手としての可能性をできるだけ広げてあげたい」

 猛勉強の末、大倉氏がたどり着いたひとつの結論がこの言葉である。大人ができることは子どもたちの可能性を広げてあげること。大山ファイターズではこの言葉を活動方針のひとつとして掲げ、指導に勤しんだ。結果、2020年には、ベストコーチングアワードの★★(ダブルスター)、翌年には★★★(トリプルスター)を受賞。自らが学んだものを生かし、確かな評価を受け始めた。

(大山ファイターズ監督時代 写真:本人提供)

チームを離れ、次の舞台へ 向き合う野球界のふたつの課題

 これまで指導者としての道を歩んできた大倉氏だが、今年から野球界の別の課題と向き合うべく、大山ファイターズを離れて新たなフィールドで活動することを決断した。それが、大田原ボーイズ地域貢献事業として立ち上げた「TEAM ABLAZE(チーム・アブレイズ)」である。

 大倉氏が向き合うことに決めた課題は大きく分けてふたつだ。

 ひとつは、野球をはじめる“準備”の部分。一般的な話でいけば、地域のチームに所属して、そこで野球のルールを覚えたり、プレーの基礎を教わるのが普通ではあるが、限られた練習時間、限られたグラウンド環境下では、なかなか基礎中の基礎に時間を割いたりすることは難しい。すでにチームに所属している子どもであっても、まだチームのレベルについていけない子もいる。そういった子に身体の動かし方や野球の基本を教えるため、幼稚園児から小学生を対象とするスクール事業を立ち上げた。

 もうひとつは子どもたちの可能性を狭めない、“地域からの脱却”だ。現状の野球指導の現場といえば、クラブチーム、もしくはスポーツ少年団・部活動が主である。後者においては地域の小・中学校とほぼほぼ結びついている形で、子どもたちには選択肢があまり多くない実態がある。進学した学校(=スポーツ少年団)の指導色と選手たち自身が“合わなかった”ときに、野球をやめる選択肢以外がないのだ。野球は続けたいけど、いまのチームでは続けられない、という思いを胸に秘めた子どもたちのために、地域や学校に縛られないチームとして、TEAM ABLAZEを立ち上げた。

「いろいろな思いがありました。大山ファイターズで監督を務めさせてもらって、とてもたくさんの選手たちとともに歩んでこられた一方で、我々のチーム以外、近い地域だけど学校が違うとかそういった理由で野球を続けることを躊躇してしまっている子どもがいるという実態を目の当たりにして、チームにも相談した上で活動を決めました。母体である、大田原ボーイズというチームが、室内練習場の提供を受けているというのもあり、環境が用意できそうだというところで、私のほうから提案をさせていただき、立ち上げることになりました」

     (TEAM ABLAZEでの活動 写真:本人提供) 

 幼稚園児、小学生の、野球選手としてのスタートを支えてあげるスクール事業。そして、地域の縛りに囚われない形で所属し、プレーする環境を整えた新チーム。このふたつの取り組みで、地元の野球少年たちを支えていく方針だ。詳しい活動内容はぜひ、公式HPをみて確認してほしい。

「ありがたいことに、多くのご家庭からお問い合わせをいただき、想定していた定員数を超える希望をいただいております。いまは一度、こちら側の体制が整うまでスクール事業の新規メンバーの募集をストップしている状況ですが、スタッフも含めて体制を強化して、より多くの野球少年・少女たちのサポートをしたいと考えています」

 少子化、エンターテイメントの多様化etc。野球に限らず、多くのスポーツがいま、存続するための策を互いに練りながら、生き残る道を探っている。大倉氏は、TEAM ABLAZEを通じて野球界の現状に向き合い、今後の野球界を支えていく覚悟だ。

「私も、このやり方が全てだとは思っていないんです。ただ、子どもたちの選択肢のひとつとして、こういった組織も必要だと思って作らせてもらいました。それぞれのチームの皆さまの取り組みはきっと、その地域や環境の課題と向き合ってできていて、それぞれ正解なのだと思います。子供たちがチームを自由に選んで野球をスタートできる環境にしたいと考えています。野球界の未来のために、できる限り我々大人が、そんな環境を作ってあげるのが大切だと思っています」

 栃木県北部で活動する、TEAM ABLAZE。未来の野球を支えるひとつの選択肢として、ぜひ参考にしてほしい。

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