【日本ハム・大渕スカウトインタビュー①】トラッキングデータ時代の劇的な変化。「絶対値でプロとアマの選手を比較できる」

近年、野球の「パワー&スピード化」が目覚ましく進んでいる。世界各国から一流メジャーリーガーが出場したワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では球速160km/hが珍しくなくなり、選抜高校野球でも140km/h台を計測する投手が多く見られている。

その背景にある一つが、テクノロジーの進化だ。

MLBは一軍から八軍の距離を可視化

現在と15年前を比べると、選手の評価方法や、育成環境が劇的に変化していることがよくわかる。

【2010年代】
・スピードガン
・ストップウォッチ
・公式記録

【2020年以降】
・トラックマン
・ラプソード
・ホークアイ
・ハイスピードカメラ
・ブラスト
・フォースプレート
・カタパルト
・インボディ
・トラジェクトアーク
・ヒットトラックス

2010年代まではプレータイムが手計測で数値化され、「選手、指導者、スカウトの感覚や経験則、野球観が中心」に評価された。

それが2010年中盤以降、ボールや人の動きを自動追跡するカメラが導入され、「数値化、可視化、ランク化が可能になる革新機器が中心」という環境に変わった。

以前からの変化で最もわかりやすいのが、投手の評価項目だろう。「球速」に加え、「回転数」「回転軸」「回転効率」「球種」「軌道」「エクステンション」「変化量」など、多様なデータが瞬時に表示されるようになった。

MLBでは「Baseball Savant」というHPに行けば、誰もが詳細データを閲覧できる。トラッキングデータはファン向けのエンターテインメントにもなっているのだ。

NPBは大きく遅れていたが、昨年「NPBプラス」というアプリがリリースされ、ファンから好評だ。

選手を評価する指標にも、次々と新しい項目が生まれている。「WAR」「xwOBA」「FIP」などだ。野球は「運」の左右する要素が強い競技だが、そのなかで選手の「実力」を正当に評価しようと試みられている。

筆者は昨夏ドミニカ共和国にあるマイアミ・マーリンズのアカデミーを訪れた際、非常に興味深いアプローチに出合った。

同球団の一軍にあたるメジャーリーグから、3Aや2A、1A、そしてルーキーリーグのドミニカンサマーリーグ(=アカデミー/七、八軍相当)まで、全選手を同じ指標(「バレル率」や「ピッチング+」など)で比較しているのだ。サンディ・アルカンタラやエウリー・ペレスなどというメジャーリーグで活躍している投手と、16歳でプロになったばかりの少年が同じ土俵で評価されているのである。

つまり、八軍から一軍までの距離感が可視化されているわけだ。

データが“共通言語”や“根拠”に

「トラッキングデータがスタッツと違うのは、絶対値でプロとアマの選手を比較できることです。これは今までと違うなと思いました」

そう話すのが、北海道日本ハムファイターズの大渕隆GM補佐兼スカウト部長だ。

例えば以前は、スカウトやコーチ陣で以下のようなやりとりがされていた。
「このピッチャーのスライダーはすごいですよ」「いやいや、そうは言っても、一軍では無理だろ?」

いずれも裏付けとなるのは、スカウトやコーチの”感覚”だ。人と人の感覚は主観的なもので、必ずしも一致しない。一般的な組織では、立場的に上位にいる者の意見が通りやすくなるだろう。

ところが今は、客観的なデータが“共通言語”になる。「一軍では無理だろ?」と言われても、「いや、そんなことないです。データからすると、この選手のスライダーと同じです」と“根拠”を持って推薦できるようになったのだ。例えば変化量を見れば、「伊藤大海のスライダーと同じです」と言えるわけである。

野手の評価が難しい理由

社会におけるさまざまな変化が重なり、“どんな環境”にあっても高校生がプロを目指せる時代になった――。

Homebase編集部では上記の“仮説”を立て、甲子園出場率から見る過去20年の変化という切り口の記事を昨年11月に配信した。高卒でNPB球団からドラフト指名された割合を見ると、2005年は出場率 44.7%で過去20年(※同記事掲載時点)で最も高かったが、2024年は28.6%まで下がっている。

ただし、2015年以降は育成指名が導入されたことを考慮して考える必要がある。

では、大渕スカウトの目にはどう映っているのか。

前提となるのは、投手と野手で分けて考える必要があるということだ。

「いつの時代もそうですが、投手は絶対的な評価をしやすいです。“絶対的な一個人のプレーヤー”と見えるので」

ピッチングは主体的な行為である一方、受け身の野手はどうか。Homebaseの別記事では、西武の広池浩司球団本部長の「野手は打つのも守るのも走塁も全部“反応”です。早くから高いレベルでの経験、反応を繰り返し、センスが磨かれていくと思います」という見解を紹介したが、大渕スカウトはこう語る。

「結局フォーカスの当たるところが、大会で勝つチームなんです。そもそも見ているのが、勝つチームの中の選手が多い。同じ能力の子が公立高校にいても、それを絶対値で評価しづらいんです。逆を言うと、ピッチャーはしやすい。この傾向は、時代に限らずだと思います」

過去の傾向を見ても、投手はドラフト下位から台頭するケースが少なからずあるのに対し、野手はドラフト上位が多く活躍している。大渕スカウトが続ける。

「野手の運動能力の評価は、これこそ絶対値だと思います。絶対的なパワーやスピード、身長など、運動能力が高い選手は高校生で獲得しておく必要があります。でも、上位で入団しても伸び悩む選手はいるので、やっぱり打撃は高い技術を必要として難しいんだなと思いますね」

大谷翔平の指摘

打者の「パワー」や「スピード」という能力も、トラッキングカメラを通して可視化されるようになった。

打球速度や打球角度、バレル率などは、重要な打撃指標だ。特にMLBではこうした数値が重視され、スカウトの目に頼るばかりではなく、アナリストが客観データに基づき新人を獲得する流れが強まっている。

反面、NPBではそうではない。その背景にあるのが、アマチュアではトラッキングデータの活用が進んでいないことだ。大渕スカウトが日米の違いを説明する。

「アメリカの場合、特に大学ではトラッキングデータがオープンになっています。そこに各球団のアナリストが関わり、『いい選手だ』『スカウトは評価しているけど、データ的にはそうではない』などと議論できるような土壌があります。一方、日本はアメリカのようにオープンではないので、もしプロ球団がデータ中心に判断したくても、アメリカと同じことはできないという状況です」

NPBのドラフトにおけるトラッキングデータの活用は、以下のとおりだ。

・高校生:プロ志望届を提出した選手には計測可能
・大学生:東京六大学と東都大学の選手はデータを購入すれば閲覧できる
・社会人&独立リーグ:特にルールはない(※活用しているチームは決して多くない)

データ活用で先を行くアメリカを基準に見ると、日本は遅れている。2026年3月のWBCに出場した大谷翔平(ドジャース)のコメントが、日本の現在地をよく表しているだろう。

「必ずしもすごく遅れていたかと言ったらそうではないですけど、現場として(NPBの)各球団が、常日頃から使ってはなさそうだなという雰囲気があった。そのギャップはありましたけど、そこは追いついてくるんじゃないかなと思います」(サンケイスポーツ電子版の記事「大谷翔平、データ全盛の球界で〝時代遅れ〟を指摘「常日頃から使ってなさそう」「ギャップあった」…侍スタッフには感謝」より)

トラッキングデータで現在地がわかる

以上が日本の現状だが、だからこそトラッキングデータをうまく活用している選手は伸びているという側面もある。西武の平良海馬や、日本ハムの達孝太が好例だ。阪神の森下翔太も日頃から打球速度を意識して取り組んでいる。

アマチュアでは「データの使い方がわからない」という声も聞かれるが、そもそもなぜ重要なのだろうか。大渕スカウトが解説する。

「今の時代は自分でうまくなろうと思ったらできるようになっていて、その時の目標設定にトラッキングデータが入ってきます。自分の成長もわかるし、例えば全野球選手のデータがあれば、中学生でも『高校生の平均値に行っているぞ』とか、いろんなことを具体的に目標設定ができるわけです。周囲との比較ができるということですね。以前は指導者に言われたことをやる、あるいはチームが勝たないと表舞台に行けないという時代でしたが、今は一個人として、(球界全体における)自分の立ち位置がわかる。これは頑張りますよ」

平良は沖縄県立八重山商工高校時代、一時は部員7人という環境でも努力を続け、NPBを代表する投手になった。

達は高校時代からMLBを目指し、両親に頼んでラプソードを購入してもらった。そうした意欲が向上の背景にある。

ただし、彼らはトラッキングデータを使っているから、飛躍できたというわけではない。どうすればテクノロジーをうまく使い、自分の成長につなげられるかを突き詰めているからだ。

言い換えれば“伸びしろ”と言われる部分で、当然、スカウトたちはそこにも目を凝らしている。

※第二回に続く。

(文・中島大輔)

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