【第5回野球データ分析競技会レポート③】最優秀賞に輝いた同志社大学・同志社大学大学院。「3ボール0ストライク」のアプローチが競技力向上のカギに

今年も行われた「第5回データ分析競技会」。“野球の競技力向上”をテーマに展開された本大会では、独自の視点に基づいた分析結果が発表された。

6組の中から選ばれる最優秀賞には同志社大学・同志社大学大学院、優秀賞には熊本大学が選ばれた。本編では賞を獲得したそれぞれの分析発表を紹介していく。

野球経験がない学生たちが示した戦略最適化と得点期待値の向上

優秀賞に選ばれたのは熊本大学。「数理モデル×シミュレーションによるチーム力向上分析」をテーマに分析を行った。

登壇した池迫大誉さんは冒頭から意外な発言で会場を驚かせた。

「3人とも野球経験と知識がなく、先ほどのプレゼンにあったスリーボールナッシングという言葉を初めて聞きました。そのくらいその知識も経験もない状態で野球の分析に挑戦しました」

左から池迫大誉さん・安田匠杜さん・北林瑞生さんは野球経験がない中での挑戦だった

3人は機械数理工学科であることから、その専攻分野を活かした研究を発表した。

「今回は『戦略の最適化と得点期待値の向上』という目標を設定しました。野球の知識や経験がない分、フラットに見れるという利点もあると思いますので、この利点を活かしながら数学を用いた戦略を最適化していくことに焦点を当てました」

地元の社会人野球チームであるHonda熊本を対象とし、目的意識の4パターンを挙げる。

分析にあたっては投手と打者にアプローチをさらに分類し、数理モデルを活用しつつタイプ別に抽出した。

「投手では三振を奪いに行くタイプなのか、球種を重視しているタイプなのか。また、その二つのバランスを持っているタイプなのかという3項目に分けて分類しております。

打者は選球とアプローチ・コンタクト能力・打球の質やタイプを基準として、慎重派なのか積極派なのか。それともコンタクト重視なのかといった4つに分けています」

上記を踏まえ分析結果へ。池迫さんは以下のように解説した。

「イニング終了時までの得点確率というところで、今回は一塁に走者がいる状況でアウト数の遷移別に示しました。

確率としては、アウト数が増えるにつれて得点する確率は下がっています。得点数が異なっていても同じような傾向が見られたので、アウト数の増加は得点確率に寄与していることが分かります。

また、『目的意識ごとのイベント発生割合』は、ある目的意識を持って打席に立った際にどのようなイベントが発生しやすいかを割合で出しています。

四球が起きるときには27.26%と、選球眼をとても重視していることが数字から見えてきます。三振に目を向けると、強振もしくは選球眼が重視されているということも分かってきました」

得点数をより上げるための戦略最適を提示した後は、得点の期待値についても検証していく。熊本大学チームはある比較を行った。

「左側が得点数を最適化する前、右側が後の対戦結果を比べました。今回はシミュレーターを通して千試合分の解析を行っています。

結果は最適化前ですと0点〜2点に山があるのに対して、後では4点に頂点があります。ここから、1点以上の増加が見られるということが分かってきます」

まとめとしては、

「打者の目的意識を変えるだけでも1点以上の得点力向上が見込めるというところが、今回の分析の面白い点と感じました」と述べ、打者の視点だけでなく、投手のタイプも深く分類することで精密度が上がるとして、発表を締めた。

競技力向上のために着目した「3ボール0ストライク」でのアプローチ

そして紹介最後となる6組目は、最優秀賞に輝いた同志社大学・大学院。
「バットを鈍らせるものの正体〜カウントが支配する打撃の質〜」という題で分析を行った。

メインプレゼンターを務めた久保幸平さんが同志社大学大学院生、同志社大からは横石一輝さん(4年)と小澤勇輝さん(3年)の2人が参加し、小澤さんは現役の硬式野球部員としてプレーしている。

登壇した左から久保さん、小澤さん、横石さん

3名はテーマに沿った分析を行う中で着目したのが「配球」。1対1の心理戦が行われることから、野球の一つの醍醐味と考えて挙げたと久保さんは述べた。

配球の中で大事なのはボール・ストライクのカウントだとして、今回の計測対象である過去5年における「都市対抗野球大会」「社会人野球日本選手権」のデータから、カウント別打球速度。角度を抽出した。

「ストライクカウントが進むほど、打球速度と打球角度が低下していき、ボールカウントが進むほどそれぞれ増加していくといった傾向が見られました」(久保さん)

この結果の原因は何か。それを探るにおいて、投手の配球もしくは打者心理が影響するのではないかと仮説立てした。

まず、配球面では「ストライクカウントが先行するほど、ストライクゾーンを投手が効率的に使えて、より厳しい球を投げられるのではないか」という仮説を立て、カウント別の球種割合・カウント状況に応じた投球位置の分布を示した。

配球の仮説検証結果として久保さんは、「投手不利のカウントで打球速度角度が上がっているのは、直球の割合増加とコースの甘さである可能性が分かりました」と語った。

加えて打者の心理状態においては、「打者不利カウントになるほど心理的に追い込まれ、打球速度や角度が低下してしまう」という仮説。

検証方法としては、甘い球とされる真ん中ストレートをカウント別で打球速度と角度を比較した。その結果、打者が不利なカウントであれば、甘い球であっても数値が低くなることを明らかにした。

このように投手は不利なカウントで甘い球になり、打者は打球速度や角度が落ちることから、「配球」「打者心理」のどちらかに起因するものではないとまとめた。

最後は本競技会のメインテーマである「競技力向上」に向けて提案を行う。提言において着目したのが、最も打者有利のカウントである「3ボール0ストライク」である。

試合では打者は四球狙いのため「待て」のサインもしくは自らの判断で投球を見送るケースが多くあり、投手はそれを念頭に置いてまずはストライクを取るため甘い球、とりわけ真ん中気味に投げる確率が多いことを示した。

一方、データでは3ボール0ストライクの時が最も打球速度が速いかつ、ストライクのカウントが増えると、投手は変化球を多投したり厳しいコースに投げて不利になることを明らかにしている。

そのため「3ボール0ストライクから見逃して3ボール1ストライクにすることが必ずしも最適とは限らない」と見解を述べた。

まとめでは投手・打者それぞれが競技力を向上させるため、

打者は「3ボールからでも積極的に振りに行き、狙い球を確実に仕留める意識づけ」、投手は「不利なカウントでもストライクを取れる変化球を磨く」「ストライク先行で外に大きく外す球を投げない」

という以下3つの提言を行い、発表を締めた。

最優秀賞を獲得した3人に話を聞くことができた。大学院をこの春に卒業する久保さんは、コンサルティング会社でデータ分析を担当する予定だと明かしてくれた。

「スポーツが好きなので、どこかしらでそのスポーツ団体に貢献していきたい」と、生業としながらスポーツと関わっていきたい想いを語った。

また、横石さんは「自分自身がすごく野球観戦やプロ野球がすごく好きなので、インターネット上にあるデータを活用して、自分も分析をしながら好きな分野で磨いていきたい」と、趣味の場を活用して今後も継続すると語った。

そして現役の大学野球部員でもある小澤さん。今回の活動を通じて、「自分はデータ分析が好きなんだというのが再認識できた」と収穫を述べた。

さらに自分たちで導き出した提言を踏まえて「これまでの常識やセオリーを疑い、多角的に判断していくことの大切さを学んだ」と、今後の自身のプレーでも活かしていきたいと語った。

現役の高校生にとっても学びやチーム力アップの場に

新たな視点や提案を発表した6組のファイナリスト。発表や聴講者はこれまで大学生・院生中心だったが、実は高校生にとっても競技力向上そしてキャリア構築に向けた実りの場となっていた。

高校生で参加した一人が群馬県立桐生清桜高校の深沢凌斗さん(2年生)である。2日目の15日に群馬から来場し、真剣に一つひとつの発表を学びとしていた。

深沢さんは同校が行っている「探究」という授業をきっかけに今回参加。現役の野球部員であることから、スポーツに関する探究活動をテーマに設定し、この場を活用した。

2日間を振り返り、「自分の探究活動そして野球にも活かせるよう、今まで自分がやってきたことをもう一度考え直して、さらに学びを深めたいと思いました」と感想を述べた。

特に印象深かったのが同志社大・同志社大学院の発表だった。

「打者も投手もカウントに支配されるという発表がすごく興味深かったです。配球って一番難しい部分だと思いますし、今まで自分が考えたことのない視点での発表だったので、すごく面白いと感じました」

野球部でもチームに共有したいと語った深沢さん。本競技会の分析テーマである「競技力向上」に繋げることとして、取り組みたい想いを最後に述べた。

「今までの固定概念にとらわれないよう、幅広い視点や考え方を持つことが大切だと改めて気づきました。今日聞いたことをしっかりチームで共有して、強くなるため・勝てるようになるためにみんなで実行していきたいです」

ファイナリスト6組による発表の後は、NPBやMLBなどで活躍されている現役のアナリストやバイオメカニストたちが登壇。

自身のこれまでのキャリアを紹介するとともに、シンポジウムで具体的な仕事に踏み込んで共有された。※最終回へ続く

(写真 / 文:白石怜平)

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