本編で連載企画としてお送りしている野球型のアーバン(都市型)スポーツ「Baseball5を学ぼう」。
今回はBaseball5の先駆者である六角彩子選手の特集を3編でお送りする。第2回の本編は、2022年に出場した国際大会での活躍から振り返る。
実際に見た会場の光景や海外の選手との対戦を通じ、また新たな刺激があった。
(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:本人提供、以降敬称略)
22年、国際大会に初出場しタイトル獲得も
22年に入り、新型コロナウイルスの影響で延期となっていた国際大会がいよいよ再開となった。これまで国内外問わず普及活動に励みながら選手として練習を続けていた六角にとって、明確な目標ができた。
「女子野球の世界に入った時のように、日本代表になって一番のプレイヤーになりたい。世界一になりたいという目標がBaseball5でもできました」
日本が初めて参加した国際大会が、8月にマレーシアで行われた「第1回 WBSC-ASIA Baseball5 アジアカップ」。この大会の日本代表はチーム単位での選出であり、7月の日本代表決定戦で5STARsが代表権を得て、六角も世界の舞台に立った。

22年のアジアカップで活躍し、準優勝の原動力になった(写真は6月リーグ戦時:筆者撮影)
結果は決勝でチャイニーズ・タイペイに敗れたものの準優勝。初参加ながら、アジアで2位の結果を残した。当時をこう振り返った。
「タイやフィリピン、パキスタンなど野球が盛んではない国もすごく強かったです。それが面白いと思った印象でした。この競技って本当に誰でもできるんだと感じましたし、自分も実際に国際大会で戦ってみて、やっぱりベースボール5っていいなと。さらに広げたい気持ちが一層強まりました」

国際大会を戦ってさらにBaseball5への想いが強まった(同上)
また、初めての国際大会へ臨むにあたってある工夫が施されていた。六角は笑顔で感謝を交えて語ってくれた。
「プロモーションの写真をカッコイイ感じで出してくれました。それが面白いと感じてくれた方が多かったです。都心部でやってるイメージで、アーバンスポーツなんだというのを発信できたのがすごく良かった点の一つだと思います」

日本代表メンバーのプロモーション写真。先進的なデザインが特徴(©BFJ)
アジアカップで準優勝した日本は、11月に行われたメキシコでの「第1回 WBSC Baseball5ワールドカップ」への出場権を獲得。早くも3か月後を見据えた動きが始まった。
ワールドカップで再び感じた14年前のルーツ
ワールドカップの代表選手は、前述の日本代表決定戦で優勝した5STARs、準優勝した「ジャンク5」の2チームから選考を行った。
六角は代表選考から関わることになった。というのも、アジアカップとワールドカップで六角は選手兼監督を務めていたためである。
日本代表決定戦の優勝チームの監督がそのまま代表監督を務めるため、六角がその役割を担ったのだ。その代表選手を選考するにおいても、未来を考えた選び方をしていた。

常にBaseball5の未来を見据えている(写真は6月リーグ戦時:筆者撮影)
「多くの選手に日本代表を経験してほしいと思いました。その方が普及につながると考えたので。なので、アジアカップからはチームを変えました」
そして臨んだワールドカップ。メキシコの地でまた一つ新たな刺激を受けた。
「本当に感動の連続でした。競技会場が3,000人ほど入る規模でやらせてもらって、連日満員でした。DJがいて音楽をかけながらスタイリッシュな雰囲気で試合をするので、通行人の方たちが皆立ち寄って見に来るんですよ。
近くのパブリックビューイングでも入り切れないくらいのお客さんがいましたね。観る人も楽しめる競技なんだというのを感じました」

日本でも観る人が楽しめる場として行われている(22年新宿での日本代表決定戦時)
六角は、女子野球においても海外で同様の経験をしていた。実はそれが自身の活動の軸の一つでもある”普及活動”のルーツでもあった。
「2010年にベネズエラで行われた(IBAF女子)ワールドカップで、お客さんが満員だったんです。野球の国ベネズエラで、女子野球の大会であっても入り切れないほどお客さんがいる中でやらせてもらった。ブブゼラの応援で選手同士の声がけも聞こえない位の大歓声でした。
それが自分の中ですごく衝撃で、『女子野球でもこんなすばらしい環境でできるんだ』と。こんな幸せな経験をできたからこそ、今後はこの環境を日本そして世界中でつくっていきたいと思ったんです。あの体験が普及活動への原動力になりました」

国際大会での経験が活動の源になっている(写真は6月リーグ戦時:筆者撮影)
ワールドカップでは決勝に進出し世界一への期待が膨らむも、キューバに敗れ準優勝。ただ、世界2位と日本の実力を証明した大会になった。
六角は「最優秀女子選手」「オールスターチーム」「最優秀コーチ」と3つのタイトルを獲得。世界を代表する選手として地位を確立した。しかし、振り返ると悔しさや課題が残ったという。
「キューバと試合してレベルの違いを感じました。他の国ももう一度やったらどうなるか分からないくらい拮抗していました。どこの国もレベルが高いですし、差はないなと。そんな中でキューバがやはり抜けてる印象がありましたね。
私自身が女子野球をやっている立場もあると思いますが、Baseball5でも女子選手の強化をもっとしなければいけないと感じました。女子選手のレベルが上がれば、もっと面白い試合ができるのを感じたので、その強化はしたいと思いました」

現在も女子選手の強化にも力を入れている(同上)
六角が感じた海外の特徴とは?
22年のワールドカップ準優勝の反響は大きかった。
「大会後に全国からイベント開催の依頼をいただいたり、あとは特別コーチとして海外にも行きました。そんな感じで去年はあっという間に時間が過ぎていきましたね(笑)」
コーチとして中国やフランスに行き、また女子野球のイベントでもタイに行くなど、活動範囲は国境を超えた。

昨年はフランス代表の特別コーチを務めた(本人提供)
ここで、六角が対戦やコーチとして実際に接した中で感じた各国の特徴を訊いてみた。昨年指導で関わったフランスの印象について語った。
「日本と似ていますね。日本は試合の映像を見ながら分析して、戦略的に攻めるのが特徴なのですが、フランスは同じような形式をとっていました。フランスもすごく強くなってるんで、もし当たれば手強い相手になると思います」
現在世界で最も強いとされているのは、Baseball5発祥の国でもあるキューバ。ワールドカップの決勝で戦った印象を語った。
「一人ひとりのレベルが高いです。打球の速さも違うし、守備の堅さもありました。とにかく身体能力が高かったです」

キューバのレベルの高さも経験したと語る(本人提供)
ワールドカップでも決勝で2試合を戦い、連敗を喫した。ただ、それでも「勝てる部分はあります」と断言。その根拠は上述の”日本らしさ”にあった。
「戦術を磨くところに可能性があります。ゴロを打つにしても強くライナーで打つか、真下に落とすように打つか。それによってランナーのスタートの判断が変わります。
1歩目が変わるのでサインプレーの部分や、ランナー1・2塁のケースでは、Baseball5はサードでアウトを取るのですが、バッターにはサード方向へ打たせたい。それで実際にサードに打たせてアウトを取るなど、守備のポジショニングでも工夫ができると考えています」

”日本らしさ”の一つには戦術がある(筆者撮影)
そして今年、2年ぶりに国際大会が行われ、また新たな勲章が加わった。

