近年、進学校によって野球を通じた独自の取り組みが展開されている。高校球児が自らで発案し、それは野球の上達のみならず地域との関わり、さらには自身の人間的成長にも寄与している。
本メディアでは全国の進学校にフォーカスし、各校の取り組みを深掘りしていく。第1回は岐阜県立大垣北高校が行なっている「大垣北ジュニアベースボールラボ」を紹介。
近藤健二監督や発案者である同校OBの無藤蓮生さん、そして現役の野球部員たちに、スタートから現在の活動を語ってもらった。(前後編の前編)
(取材 / 文:白石怜平、写真:大垣北高校提供)
社会課題を目指した一つの授業がきっかけに
岐阜県立大垣北高校(以下、大垣北高)は、県内屈指の進学校で24年度は209名の国公立大学合格者を輩出している。野球部では最速149km/hを誇るエース・坪眞都投手(3年)がドラフト候補として名前が挙がるなど話題を呼んだ。
大垣北高が注目されているのは、2023年から実施されている取り組みだった。それが「大垣北ジュニアベースボールラボ」である。これは地元の小学3年〜6年生を対象に、部員たちが自ら企画から実施まで行うスポーツ教室で、野球や他種目も織り交ぜながら展開してきた。
このラボを立ち上げたのが、昨年春に同校を卒業し現在は大学1年生の無藤さん。立ち上げの背景について語った。
「僕が高校1年生の時に受けた授業で『SD探究』という、SDGsに関する課題を発見から解決まで自分で考案する活動がありました。
僕はその中で野球に関することをやりたいと考えて、小学生の野球人口減少さらには運動能力が低下していることを新聞記事で見つけたので、『これだ』と思ったのがスタートです」

自ら課題を調査する中で、体力テストで小中学生の体力が過去最低を更新したことであったり、市のスポーツ少年団における軟式野球の団員数が10年で半減した事実に着目した。
これらのアプローチに向け、当初は少人数で子どもたちに向けた野球教室を行おうと考えていた無藤さん。ただ、それを部活動単位へと押し上げたのがSD探求の担当を務めていた近藤監督だった。
「無藤が初めに計画してたのは、他の部活動とも連携して少人数でやることでした。ただ、無藤は本当に人望がありましたし、当時2年生の主将・山岡純大も柔軟な発想を持った生徒でした。
1年生の無藤の提案に対して2年生も巻き込んで、山岡が『野球部としてでやった方が、継続しやすいのではないか』と言ってくれたので、それだったら私も監督として協力するという形で進めていきました」
この施策名は、勉強そして野球も“追求“していくという意味から「ラボ」というワードを入れ、2023年の1月22日にスタートした。

野球教室からスタートし、メニューは部員自らアップデート
第1回目の開催は近藤監督が近隣の2つの小学校に連絡し、約50人の児童が集まった。
発足当初はキャッチボールやノック、バッティングなど野球教室が中心。そこからドッジボールなど野球の動作に関連する他の種目も加えていった。
さらに長期休暇中には、勉強にも力を入れてもらうべく講習会も開講するなど“ラボ”としての追求を図ってきた。
頻度は隔週から1ヶ月に一度で行い、現在もそのペースを継続している。

ラボの内容も部員たちだけで考え、代を経るごとにアップデートされてきた。無藤さんはまず他の部活との連携を行ったと明かした。
「ラボは運動能力向上も目標に掲げているので、野球だけではなく他の部活にも協力してもらいました。野球にも繋がると思い、陸上部の皆さんに走り方を教えてもらうこともしました」
昨夏まで活動していた鹿野楓斗・前主将は先輩の取り組みを見て、自身の代でアップデートを加えた。
「我々の代では、引き続き合同で陸上部と行うことに加えまして、サッカー部とも協力してもらいました。
サッカーの素早い動きや走り方は野球よりも優れた知識を持っていると考えて、体の使い方やの動きを野球に生かせると思って一緒にやらせてもらいました」
そして、先輩方の築いた取り組みを継承している現役部員たち。現在主将を務める小林侑純さんは、部活間の連携以外に現代ならではのツールを活用した方法を導入していた。
「SNSを参考にして、小学生の空間認識能力を高めるために180°ジャンプであったり、〇✕ダッシュゲーム(自称)(20m先の3m四方のマスにコーンを置き、3つ並べてビンゴをつくる競争)といって、その瞬時の判断力を高めるという2つを最近は取り入れて、子どもたちの能力が上がるようなメニューを組んでいます」

開始1年で劇的に増加したターニングポイント
ラボの参加者も年を追うごとに拡大していった。小学校2校に連絡したところからスタートさせた近藤監督は、部員たちの活動を見守る中で拡大の過程を肌で感じていた。
「気づいた時にどんどん人数が増えていっている感じでした。参加してる小学生や保護者伝いに広がっていったり、部員が通っていた小学校が参加してくれたりなど、口コミで広がってくれたんです」
第1回に50名集まって以降は20名ほどで推移していたが、無藤さんが鹿野さんたちにバトンを渡す時は常に倍の40名ほどにまで増えていた。そして、鹿野さんの代で最後は常時70名にまで拡大したのだが、それには大きな契機があったという。
「24年の3月にスポーツ庁が主催する『Sportin Lifeアワード』を受賞したことが、多くの人にこのラボを知ってもらうきっかけになったんです。
僕たちも毎回集計しているのですが、受賞後から平均して28人から45人ほどに急激に増えて、そこから常に40人以上さらには70人へと増えたので、受賞がきっかけで一気に広まった実感があります」

参加学校数としても当初の2校から現在40校ほどにまで拡大しているのを知った無藤さんは、ここで思わず驚きのリアクションも見せていた。
「後輩たちが70人という人数を聞いて、そんなに増えているんだとびっくりしました。野球部に所属している部員の人数が減っている状況でありながら、大人数の子どもたちと向き合っていると思うと、後輩の皆さんすごいなと感じています」
その言葉通り、毎度70人以上の子どもたちに価値を提供している現役野球部員。小林さんと一緒に参加した現役野球部員の久田直生(ひさだすなお)さん(1年生)は、継承のみならず発展に向けても貪欲だった。
「僕らはSD探究の授業で、ラボがさらに広がるには何が必要かを分析しました。調べていくと、参加した小学校間でもやりとりがあったり、審判さんや学校関係者の方たちの個人間の繋がりがあってラボが広がっていったことも分かりました」
ラボを通じて培われた小学生たちとの絆
大垣北高の現役球児が作り上げてきたこのラボは、高校生と小学生の新たな絆が生まれる場でもあった。スタート後、小学生たちとの関係にある変化が起きたという。
「僕も小学生だった時は高校生って大きく見えましたし、最初は不安もあるかもしれないですけども、どんどん打ち解けて高校生と小学生が仲良くなるんですね。
その上で他の小学校や学年同士でも横の繋がりが強まったと感じています。野球の大会で対戦することもあってお互いを知っているからこそ、本当に競い合ってやることができる。
小学生はきょうだい以外で高校生と関わる機会が少ないと思いますが、みんなが仲良くなって、さらに野球や運動能力も向上していった点で小学生の成長も感じることができました」

鹿野さんは、野球の面で繋がりができたと続けて語った。
「夏の大会に子どもたちが応援に来てくれました。僕たちのプレーを見たことで子どもたちの指導者の方や本人たちから『すごかった!僕も高校野球やってみたい』という感想もいただけたので、ラボ以外の関わりも増えていきました」
実は小林さんは、「僕自身も中学生の頃からこのラボの話は聞いていて、自分も小学生に野球を教えてみたいと思ったのも大垣北高校を志望した理由の一つでした」と、ラボが縁になったと明かす。
当時の姿と目標が叶った現在と照らし合わせながら、子どもたちや地域の方々との関係性について語った。
「今ラボに来てくれている子も『将来、大垣北高校に通いたい!』と言ってくれる子がたくさんいます。あとは保護者さんの間でも『いい活動だよね』と言ってもらい、本当に取り組んで良かったと思っています」
そして1年目の12月、ラボとしてある挑戦を行っていた。それは部員にとって新たに成長できるフィールドがつくられていた。

