中学球児応援プロジェクトが「中学野球クリニック」を開講 “アスリートセンタード”を掲げ、中学野球促進の更なる一歩を踏み出す。

今年2月から「中学野球クリニック」がスタートする。

2025年6月に「中学球児応援プロジェクト」が立ち上がって以降も、中学生の野球環境をさらに整備すべく検討・実践を重ねてきた「日本野球協議会」。

今回のクリニックは、選手と指導者を対象とした初の取り組みとして動き出す。ここまで至るには、中学野球におけるあるデータやその先の野球界の未来へ大きく関係する背景があった。

(取材 / 文:白石怜平)

「中学球児応援プロジェクト」が掲げた4つの取り組み

「日本野球協議会」が発足させた「中学球児応援プロジェクト」。

部活動の地域展開など、状況の変化の最中にいる中学生たちが安心して野球を始め、そして続けられるべく6月に立ち上がった。

11月15日には「全日本野球サミット」を開催し、47都道府県から135名が参加。中学野球における今後の対応を協議するとともに、部活動の地域展開についての実態や事例などが共有された。

そしてこのサミットの最後、中学野球応援プロジェクトの取り組み方針と共に、新たな施策を行うことが発表された。それが「中学野球クリニック」である。

取り組み方針としては、「都道府県野球協議会」「指導者育成」「指導者派遣」「競技機会」の4つに定め、今回は「指導者派遣」に向けた一つとして実施される。

中学野球応援プロジェクト4つの軸 ©BFJ

このクリニックは選手のレベルアップと指導者の指導力向上の両立を目的とした、中学野球への支援策の一つ。軟式野球の部活動やクラブチームを対象に、プロ野球OBやアマチュアの指導者が講師を務める。

技術向上を目指す中学生軟式野球の選手が、プロ・アマで経験豊富な講師陣から直接指導を受けることで、野球への興味・関心を更に深めてもらい、次のステージでも野球を継続したいと思えるきっかけにしたい想いが込められている。

また、選手だけではなく指導者も対象となっている。

指導方法の習得により技術指導の経験が浅いもしくは不安を抱える人もステップアップにつながること、さらに指導者同士の情報交換の場としてチーム運営・マネジメントにも役立てられる場となる。

従来は講習会という名称で開催されていたが、ここでは“クリニック”と称したのにも意図があった。BFJの石井新氏は以下のように明かしてくれた。

「サミットの最後に4つの取り組み方針を共有した際に、“アスリートセンタード”、主役は選手ですと示しました。その考えに基づくと、「講習」では指導者が一方通行で教えるというイメージになってしまいますよね。

ですが、「クリニック」だと自らお医者さんに相談に行って、お医者さんから解決方法を提案してもらう形なので、その治療院のようなイメージが合うと考えました。

まさに選手が主体になって講師に聞きに行って、その解決方法を提示してもらうということで、クリニックにしました」

選手そして指導者の両方にベクトルを向けた内容に

クリニックは、中学軟式野球選手・指導者が所属するチーム並びに各連盟に所属する野球団体・自治体が対象。26年2月から順次開催されていく予定。

参加条件は、①3チーム以上集められる・②開催場所が確保できること・③運営の責任者がいることの3つ。47都道府県から希望を募っており、1月31日まで募集期間を定めている。

参加に当たっての費用は、講師手配に必要な費用は無料となっている。(会場までの交通費・飲食代など自己負担分は除く)

内容については現在検討を重ねているが、従来とは一つ異なる視点を掲げている。

「ベクトルが選手だけではなく指導者にも向いている点が特徴になります。ただ、それはあくまで”アスリートセンタード”の考え方が根底にあってのことです。

もちろん技術指導を選手に行うのですが、指導者の方たちにも『こういう教え方があります』という、教え方の参考にして引き出しが増えるような機会になります。

選手に課題やニーズへの解決に向けて指導者がどう導き出せるかを考えますと、伝えたことが選手に合っているものなのか・どうしたら合うかなど、選手に寄り添える指導者とはどういう姿なのかも見て感じていただきたいです。

一見野球教室に見えたとしても、講師たちは指導者に対してもメッセージを送る場でもあります」

中学野球の人口増加に向けたカギと危機感とは?

日本野球協議会が中学野球に力を入れる背景は部活動の地域展開以外にもある。それは協議会独自で取得したアンケートが根拠となった。

「野球を始めたタイミングについて調査したところ、中学から始めた子が33%、つまり1/3もいました。

これは我々としても意外で、さらにヒアリングすると、中学校まではいろいろなスポーツをやっていて、中学校で部活動をやるとなった時に野球部に入って野球を始めるケースが多いそうです。

これが分かったのでやはり中学野球の環境が大事だということ、特に“勝ちたい、プロに行きたい”以外の純粋に楽しみたい層の子たちに対して続ける環境を整備することも大切だと感じたんです」

昨今では少子化やスポーツ・娯楽の多様化などで野球の競技人口減少が叫ばれる中、部活動の地域移行に伴う環境変化もあり、特に中学生が最も影響を受けると推測される。

その危機感は協議会のみならず、野球界全体として感じているものであった。

「野球界全体で見て、本来だったら小学生から大人までのカテゴリーがピラミッド状でなければならないのに、真ん中から下が凹んでしまっている状況なので、これでは倒れてしまう。

そんな中、実は中学校に入ってから野球を始める子が多く存在していることが大きなポイントで、ここを大人たちで地固めができたらもっと安定するのではないかと。

その大きなポイントが見えたからこそ中学球児応援プロジェクトに行き着けたと思います」

6月に発足した「中学球児応援プロジェクト」(筆者撮影)

中学野球が揺らいでしまえば、すぐ先に見える高校野球にも大きな影響を及ぼすと石井氏は続けた。

「高校野球が二極化する可能性もありますよね。甲子園に出たい子がリトルリーグからボーイズ・シニア・ポニーと硬式で高校に行くステップはこれまで通りあると思います。

では軟式野球はどうかと言うと、硬式より競技人口が多いです。でもその子たちが野球から離れてしまえば、中学の部活やクラブで野球がなくなって、高校から始める子も出てきますよね。

そうなると高校野球のレベルが下がってしまう。もしくは、ハードルが高くなって野球をやりたいけどできない子も増えてしまうことが考えられます。

ですので、先々のカテゴリへスムーズに送り出すためにも中学野球というのは今後のカギを握る。そう思っています」

現在も参加チームを募っている「中学野球クリニック」。現役の中学生へのアプローチとして初の取り組みとなる。最後に第一歩を踏み出すことによる展望を述べた。

「我々としては、『中学球児を応援する』と宣言したことが形になろうとしていますので、そこをしっかりお伝えできればと思います。

クリニックを始めることで、挙げた4つの取り組み方針がリンクしていくきっかけになるとも考えているんです。

協議会がない県に行くことができれば、新たなネットワークができる可能性も広がりますし、指導者の育成、そして選手たちによる競技機会の創出にもつながっていく。

その最初の一歩になるので、ぜひ多くの地域・学校やチームに参加していただきたいと思います」

全日本野球サミットから中学野球クリニックへ。「中学球児応援プロジェクト」は、着々と実践の場を広げている。

(おわり)

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