(※本記事は前後編の後編。前編を読む)
毎年12月に開催されるNPBジュニアトーナメントは、将来のプロ野球選手を発掘するという目的がある。2025年3月まで「マリーンズ・ベースボールアカデミー」の校長兼コーチを務めた武藤一邦さんは、この大会で監督を務めたことで指導スタンスを見直すきっかけがあった。
2010年、ロッテは藤平尚真(現楽天)や木澤尚文(現ヤクルト)を擁して初優勝。翌年に監督就任した武藤さんは池田来翔(現ロッテ)らと大会に臨んだが、思うような結果を残せなかった。
「チームが勝つために『これをやれ』『これをするな』と、完全に上からの指導でした。それで結果が出ず、翌年から『自分で考えてやってごらん』と同じ目線でアドバイスするように変えました」
2012年は田宮裕涼(現日本ハム)、石橋康太(現中日)らと出場して準優勝。指導者が一方的に指示するのではなく、選手の声を聞き、主体的にプレーさせていく。選手の声に耳を傾けたほうが成長や結果につながりやすいと、武藤さんは身をもって実感した。
指導で一番大事なのは「目標設定」
大人が上から子どもを指導するのではなく、同じグラウンドに立つチームのリーダーとしてアドバイスする。マリーンズジュニアでの経験を通じ、武藤さんはそう意識するようになった。
「子どもたちに野球を通じて何を学んでほしいのか。野球で学んだことが将来、仕事で同じような局面を迎えることがありますよね。例えば仕事に行き、ノルマを達成しなければいけない。それを子どもたちに置き換えると、市内の大会でベスト4に進出しないと県大会に行けないということです。それぞれのカテゴリーごとに、目標設定をどうさせるかが一番大事だと思います」
選手を選抜し、約4カ月の活動期間を持つマリーンズジュニアは勝利を目指すことで一つになり、将来のプロ入りという目標に近づける。武藤さんはそう考え、勝利を求めてきた。
一方、人数の限られたチームの場合、試合で勝つのは容易ではない。それでもリーダーとして周囲を引っ張ったり、三塁コーチャーとしてチームに貢献したりすることはできる。
もし初戦で負けたとしても、「自分たちは頑張ってきた」と胸を張ることができるか。自ら目標を設定し、そこに対してどれだけ頑張れたかが重要だ。
それは普段の練習でも変わらない。ライバルが素振りを200回するとして、自分は何回振るのか。
「200本という選手もいるし、『自分は10本多く振りたい』という子もいる。周囲との比較ではないので、それでいいんです。練習では『自分は一番ヘタだ』と思ってやるから、試合では『世界一うまい』という自信につながる。だから勝利の女神が訪れたとき、パッとつかめるようになるわけです」

失敗が学び、そして成功に
昭和34年生まれの武藤さんは、子どもたちによく伝えている話がある。「失敗をたくさんしなさい」ということだ。
「失敗から工夫して学んで、次の成功につなげればいい。失敗を『お前のせいで』と咎める風潮もあるけど、それは違う。やってみて結果が出なかったということは、そこに学びがあるじゃないですか。その先に成功もあると思います」
失敗を恐れずにチャレンジできるようになる上で、重要なのは「元に戻る」ことだ。子どもたちに教える際、「“元に戻す”ための練習は絶対に必要だよ」と武藤さんは話している。
例えば打撃や新しいフォームに取り組む際には、元の打ち方をスマホのカメラで撮影しておく。
「バッティングって、子どもの頃から意外と根本は変わりません。自分では大きく変えたつもりでも、映像を見ると、『そんなに変わっていないな』ということがよくある。映像を撮っておけば、うまくいかなかったときに見返して、『あ、俺ってこうやって打っていたんだ』と元に戻すことができます。でも新しいことに取り組んだり、その際の考え方だったりは絶対プラスになりますよね。うまくいかなかったときには1回元に戻ってみると、次の取り組み方が変わっていきます」

指導者の学びが子どもの成長へ
目標設定や考え方をどう行わせ、より良い方向に導いていけるか。武藤さんは子どもたちに少しでも好影響を与えたいと取り組むなか、指導者の重要性を見直す出来事があった。
新型コロナウイルスの感染拡大で現地指導をできなかった頃、オンラインで子どもたちに教えたことだ。
「対面なら感覚で伝えられるところもありますが、オンラインでは指導者が的確に表現できないと伝わりません。指導者がうまく言えないと、子どもたちは理解できないですよね。しっかり伝えることの大切さを改めて感じました」
そうして構想し、2026年にスタートさせたのがBSC(ビスク=Bright Sprout for Coach)」というコミュニティだ。指導者や保護者がオンライン、対面で学べる場をつくっていく。
「子どもたちのことを考えたら、ボランティアで指導しているコーチたちに学びの場を提供することが必要です。指導法やリスクマネジメントを学んだり、進路について保護者も含めて話し合える場をつくらなければいけないと思いました。指導者や保護者が『私はこう思う』『その考え方はいいですね』と意見交換できるようなコミュニティとなり、同時に専門家からピッチングやバッティング、栄養など指導を受けられるセミナーの場にもしていきます」
指導者が学びを深めれば、ひいては子どもたちの成長につながっていく。その好循環を生み出すべく、武藤さんは新たなチャレンジに取り組む。
(文・中島大輔)

