中学野球の未来を考える「全日本野球サミット」パネルディスカッションで議論された、部活動の地域展開の課題と展望とは?

11月15日、都内で行われた「全日本野球サミット」。

中学野球の可能性を更に広げるため、野球界が手を組み本格始動した。前半では、部活動の地域展開について現状や事例について共有された。

第二部の後半では、パネルディスカッションが行われた。これまでの登壇者に加えて栗山英樹氏と斎藤佑樹氏の両アンバサダーを交え、各課題や地域展開全体における活発な議論が繰り広げられた。

(取材 / 文:白石怜平)

資金工面のヒントは「身近な営業の積み重ね」

本ディスカッションでは栗山氏と斎藤氏、ここまでに登壇した川口クラブの武田尚大氏・福知山ユナイテッドの片野翔大氏・北信地区野球協会の小林善一氏、そして石川智雄氏、土屋好史氏の計7名が再び壇上へと上がった。

まず、栗山氏はこれまで挙がった事例などを踏まえた所感を斎藤氏に訊ねた。

部活動の地域展開における課題として、それぞれの立場からは指導者・環境・資金などが述べられてきたが、斎藤氏は「話を聞いていて、資金面が特に課題だと思ったんです」と語った。

斎藤氏が挙げた資金面の課題について、栗山氏は「やり方によっては資金を集められる可能性があるのではないか」と、片野氏に伺った。

片野氏が代表を務める福知山ユナイテッドはスポンサーが100社を超えており、発足から補助金・助成金に頼らない“持続可能な運営”を行っている。

栗山氏は教員の方たちが中心になってクラブ運営を行うことに負担になることに言及しながら、成功事例の立場からアドバイスを求めた。

栗山氏が進行役を務め、斎藤氏も議論に参加した


「例えばスポンサーのお話をしますと、地域にある一つの一般社団法人、一地方クラブに100を超える企業がついてくださったのは、やはり営業活動を今まで徹底してやってきたからだと思います。

運営の一人で我々に転職してきたメンバーが元教師なのですが、今営業もやっています。 今まで経験や勉強もしてきていないと思いますが、周りにいる保護者や同級生には経営者の方もいらっしゃいます。

まずその身近な一人からアプローチしながら1万円からでも協力をいただいています。その一歩というのが着実に積み重なって、大きくなっていると考えています」

地域展開の推進は市町村と現場との連携が今後のカギに

さらに議題は一課題から部活動の地域展開全体への話へと展開していく。

第一部では、北信地区野球協会が長野県での地域展開・野球人口増加に向けて20チームをクラブ化することで県の全域を網羅していると共有されていた。

栗山氏は長野県の状況について小林氏に問うと、実態と課題感があることを示した。

「地域展開の制度設計は各市町村が管轄しますがその受け皿、要するにクラブ化をどのように進めるかが、我々野球協会の取り組みです。

ただそれを進めるためには、制度設計自体の情報が降りてこなければクラブ化を進めることはできない。 

なので、今現在の実態を(自治体に)伝えるところからです。我々長野県としては、子どもたちを預かる中学の先生たちもどうしていいか分からないのが現状です」

栗山氏はこの課題を聞いた上で土屋氏に話を振る。日本中体連軟式野球競技部の部長である土屋氏は自身も教員である立場を踏まえ、

「現場の職員には主導権がありません。ですが悠長なことを言っている間にもこの地域展開は進むという現実があります。 なので、石川先生から与えていただいている情報を掴みながら、我々自身も真剣に情報を収集しているところです」

と、主体的に動いている教員もいることを明かした。ここでは実態や課題と共に“なぜ長野県では地域展開が進んでいるのか”という点についても言及された。小林氏はその要因を以下のように語る。

「取り組みを進められたのは、石川先生に来ていただいて国の情報をお伝えしてもらったことにあります。 それを聞いた方たちが全て取り入れて、実現に向けたプラン化を進めて行きました」

石川氏は第一部で、「中学野球の地域移行に伴う主な課題」と「野球界として取り組む課題」の2点を示していた。


第一部で共有されたそれぞれの課題 ©全日本野球協会

石川氏からの共有を踏まえ、長野県では小学5・6年生と中学1・2年生による交流会を開催するなど、小学校から中学校へのつなぎをスムーズに行うことで小中学生の野球人口増加へとつなげている。

“子どもたち主体で野球を楽しむ文化をどのようにつくるか”

上記をテーマに掲げ、さらに地域展開を促進していると語る小林氏。長野県だけではなく、全県に浸透するために以下の見解を述べた。

「今日このサミットで共有された情報を今一度、全県の中学校の先生方にお伝えをしたい想いです。市町村教育と一緒に“子どもたちのために何がベストなのか”を考えながら、その制度設計から参画していくのが良いかと思います」

中学から始める初心者など、“誰もが野球に親しめる”環境づくりへ

次のテーマは、石川氏から提起される。部活動の地域展開については国からガイドラインが発表されているが、そこには沿わずある理由で「自由にチームをつくって活動させてほしい」という要望が寄せられているという。

「強いチームがつくれないから自由にやらせてほしいという要望が多くあります。ただ、それを認めると強い子たちだけが集まって、楽しみたい子たちがやるクラブがなくなってしまう。

結果的に競技人口が減るので避けてもらうようお願いしているのですが、とにかく日本一になるチームをつくりたいからということで結成されています。

しかもそこでは地域クラブから選手を引き抜いたり、自分たちの市ではダメだから隣の市でチームをつくる動きが実は野球だけじゃなくて、いろんな種目において起きています。

この動きを抑えることは国やスポーツ庁では無理なので、そこは各競技団体や野球界として考えなければならない課題です」 

ガイドラインに沿わないチーム結成も課題の一つとした

武田氏も「私もチーム運営をする立場でもあるので、“勝ちたい”と思います」としながらも、勝利だけを目的に走らないようにするための考えをここで述べた。

「我々は『初心者からプロ野球選手を目指す子たちまで』というのをモットーにしており、カテゴリー別に分ける取り組みをしています。

私も今までたくさんのチーム見て勉強させてもらったのですが、どこのチームも最初はこうスポーツマンシップに則って、素晴らしい取り組みのチームをつくろうって動き出すんですけども、どこかで“勝ちたい”にシフトする展開になっているなと。

それを踏まえて、私はもう最初から両立することが必要なのかなというふうに考えて、今の仕組みを構築しました」

川口クラブでは“勝利”と“楽しむ”を両立している

土屋氏は武田氏のリサーチと経験からなる川口クラブの取り組みを評価した。

「川口クラブに関しては中体連の大会には参加していないので、クラブと部活動の線引きが明確になっています。子どもたちも迷わず活動を選べるので、バランスのいい状況ができていると感じています。

ですので、最終的に令和 9年から川口市の部活動は完全に地域展開しますとなった場合には、川口クラブがそのまま地域クラブ活動としてできるような環境になれば問題ないと思います。

また、福知山ユナイテッドさんのように、兼職兼業という形で雇用してくれるような地区もそれでいいと思います。 ただ、それがない部分においては、竹田さんのような一歩踏み出す熱意ある教員の力というのも必要になってきます。

そうでないと、今現存している中体連の子どもたちが犠牲になる可能性が少なからずあるということを是非知っていただきたいと思っております」

終盤には、斎藤氏から部活動の地域展開についての展望について質問が投げかけられた。指名を受けた片野氏は私見を語った。

「中学校の年代から競技を始めたい子が始められる環境を作る必要もあると思いますし、チームで大会に出ることが全てではないと思うので、多様な関わり方のもと野球に関わる人口を残す・増やすっていう、そういう柔軟な対応が必要ではないかと。

どうしてもチームで大会に出なければ野球をやっているとみなされない風潮を感じるのですが、週1回でも野球スクールに通っていても野球をやっていると思いますし、多様な考え方でインフラを構築していくことも大事な要素になると感じています」

「野球に関わる人口を残す・増やす」ために考えると片野氏は話した

片野氏の意見を聞いた上で、土屋氏も中学野球そしてスポーツの未来をつくる上でのアクションや考え方を述べた。

「日本の野球文化、また部活動の果たしてきた役割というのは、人間関係や努力する姿勢など、子どもたちの人格形成にものすごく大きな力になってきたわけですね。

石川さんが講演の中でもお話されましたが、子どもたち全員が必ずしも勝負に結びつくわけではなく、自分のいろんな可能性を求めて運動に親しむ。 その中で人としての成長する土台を本当に残せるかどうかが大事です。

その文化を継承しながら新しい時代にマッチした制度をつくること、また子どもたちがどう関わるかついても、コミュニケーションをみんなで重ねて、子どもたちをどう育てていくかという視点でやっていかなければならないと強く思っています」

「子どもたちをどう育てていくか」という視点が必要と土屋氏から述べられた

約1時間のパネルディスカッションは登壇者たちによる事例の根拠や課題も改めて共有される場になった。時には聴講者からも質問が投げかけられるなど、インタラクティブに行われる会となった。

そして、会の最後には「中学野球クリニック」を行うことが発表された。中学野球応援プロジェクトの具体的な取り組みがいよいよ始まろうとしている。

(おわり)

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