「アナリストはどうあるべきか」。データ活用をもっと進めるために、野球界全体で必要な議論

アナリストやデータサイエンティスト、コーディネーターなど「データと指導現場」をつなぐスペシャリストが近年、野球界で存在感を増している。テクノロジーやスポーツ科学の進化で取得できる情報量が圧倒的に増え、選手の成長やチームの勝敗に及ぼす影響も高まっていることが背景の一つに挙げられる。

そんなスペシャリストの育成や活用を後押しすべく、全日本野球協会(BFJ)が2022年から開催しているのが「野球データ分析競技会」だ。過去には大会に参加した学生がNPB球団や社会人チームに採用されるなど、球界と人材をつなぐ場になっている。

アナリストが注目される背景

プロアマの球界関係者も高い関心を寄せる「野球データ分析競技会」の第5回大会は2026年2月15日、東京都のJapan Sport Olympic Squareで開催される。

本競技会の主催者である全日本野球協会事務局・石井新 氏はこう話した。

「野球を観る視点、角度は人それぞれですが、野球データ分析競技会では『そんな捉え方もあるのか!』『そう見るか!』などと驚かされる点が多くあります。それは競技会の参加者が、プレーヤーというよりサポーターの立場で野球に携わっていたり、もしくは野球にまったく関わったことのない、ひいては野球を知らない方も参加できるからです」

野球データ分析競技会では毎年テーマが設けられ、2025年の第4回大会は「野球の競技力向上」。決勝では東京六大学の計80試合のトラックマンデータから各チームの設定テーマに応じて分析され、「タイミングをずらす変化球、評価できていますか?」、「継投のタイミング」、「オープナーの有効性」など多彩な観点から発表が行われた。いずれも高校生や大学野球部の学生アナリスト、大学院生らが趣向を凝らして研究・発表し、現場で活用できそうな内容だった。石井氏が続ける。

「動作解析やトラッキングデータの活用がまだ行われていない時代における指導者と選手との会話は、一般的に感覚的なものが主でした。事実として、優れた選手はその『感覚の再現性』に長けています。

感覚を言語化し、選手個人のレベルアップを手助けすることも指導者の役割ですが、その言語化がますます高度化してきたのが現代のスポーツ界です。

一方、感覚を言語化することにおいて、高度な技術を持っている人材は限られており、言語化に長けている人物の存在が必要になってきました。

結果を求めるためにはより科学的な視点が必要になり、“言語化されたもの=数値を正しく解析して結果に結び付けていくというプロセス”が求められる時代になりました。そこで、アナリストという存在がクローズアップされてきました」

「世界一のアナリストになりたい」

野球界でアナリストの重要性が高まっているからこそ、BFJは野球データ分析競技会を開催して育成を後押ししようとしている。石井氏が語る。

「データ分析競技会では、野球というスポーツ、あるいはスポーツそのものがプレーヤーだけでなく、さまざまな立場の方が支えているものであると実感していただける機会になると考えています。アナリストの存在感が増していることは、データを用いた技術や戦略の向上が重視される昨今明らかですが、今大会のような機会はアナリストという存在をクローズアップし、学生にとってその存在を目指すきっかけにもなり得ると思います。高校、大学の野球部でアナリストが増えてきていることも追い風です。さまざまな力があってチームが成り立つことを、学生自身に感じていただきたいと願っています」

アナリストやデータサイエンティストの登用が特に進むのは、NPBやMLBをはじめとするプロ野球の世界だ。その流れがもっとアマチュアにも波及してほしいと石井氏は願っている。

「日本のプロ野球界ではアナリストの活躍が加速していますが、アマチュア球界ではまだまだ始まったばかりです。野球データ分析競技会はまだ5回目ですが、『世界一のアナリストになりたい』と夢を語る参加者も生まれています。

一方、これからデータを活用するためにどうすればよいのかと悩む、学生をはじめデータ導入期の皆さんに焦点を当てた企画も必要になってきます。今後、時代に沿った競技会、あるいは勉強会のあり方を考え、皆さんが学び続ける環境づくりに努めたいと思います」

前回大会で最優秀賞に輝いた立命館大大学院の発表の一部

“ゼネラリスト”の役割

2025年2月に開催された野球データ分析競技会ではNPB球団のアナリストがゲストに招かれ、学生たちから「現在アナリストとして活躍されている方が何を考えて仕事をしているのか。学生時代をどのように過ごしてきたかを聞けて良かった」と好評だった。

2026年2月に行われる第5回大会ではNPB、MLBそれぞれの球団の関係者に最新事情を語ってもらうことに加え、「野球データ分析を学び、現場で生きるキャリアを築く」をテーマにしたシンポジウムを予定している。大学での学び、野球データ分析との関わり、進路選択の考え方、そして現在の立場に至るまでのプロセスを中心に語り合うというもので、アナリストを目指す学生にとって大いに刺激となる内容に違いない。

第5回大会に向けて、石井氏はこう期待を寄せる。

「現在日本のプロ野球界ではアナリスト採用の流れが強まっていますが、『アナリストはどうあるべきか』について十分に議論されていません。他競技の事例からこのテーマを考えることは、大きな意義があると考えています。

また前回のシンポジウムでも話が挙がりましたが、アナリストが重宝されつつある現代においてはまだなお、プレーヤーとアナリストを結ぶ“ゼネラリスト”の存在も重要であると考えています。この競技会を設計してくださっている神事努先生(國學院大學准教授)のお言葉を借りれば、『ゼネラリストは【今は】必要な存在である』、ということです。ここでのゼネラリストとは、データ・現場・意思決定を結びつける役割(機能)を担う存在であり、言い換えればそれぞれが持つ“専門的な言語”をわかりやすく噛砕き、双方に伝え、互いが目指す方向に導いていくトランスレーターの役割を果たします」

石井氏は続ける。

「もちろん、『誰がその役割を担うか』は時代や文脈によって変わり得るものであり、データを理解し、自ら意思決定に使える人材は今後増えてくるでしょう。事実として、データや身体の仕組みに強い関心を持ち、解剖学や力学を自ら学ぶ選手が確実に増えています。ある意味では、そうした理解力がなければ高いレベルでの上達が難しくなる、ということも考えられます。その能力は選手やコーチ、監督自身が身につけていくものになっていくと仮定すれば、ゼネラリストの役割は縮小されていくものと考えられます。

しかしながら、現在の指導者や意思決定者が必ずしもデータ活用を前提としたキャリアを築いてきたわけではないこと、そして、選手自身が自ら学び、理解し、自分に合ったトレーニングを見出していくことが当たり前の時代にならない限り、依然として、ゼネラリストの役割は重要であると捉えることができます。

時代は異なりますが、映画『マネーボール』でアスレチックスを強豪チームにまで育てた実在のGM 、ビリー・ビーンは元プレーヤーだからこそ機能した“ゼネラリスト”としてのわかりやすい例ではないでしょうか。聴講予定の方も含め、プレーヤーやアナリストの立場だけでなく、間に立つ“ゼネラリスト”の立場からもお聴きいただくと、より理解が深まるのではと思っています」

2025年の第4回大会では一般聴講者の質問や発言が議論を深めるきっかけになった。今年も聴講者を募集しており、参加費は一般10,000円、学生4,000円(税込み)。

今後、アナリストやデータサイエンティストが野球界でより重要な役割を担っていくのは間違いない。そうした人材や、上記の分野に関心を抱く関係者がプロアマから集まり、球界の最新潮流を学べる「野球データ分析競技会」は参加者にとって有益な時間になるはずだ。

(出場者・聴講者ともに募集中!)

出場者として興味がある:詳細・お申込みはこちらから (2026年1月13日まで)

聴講者として興味がある:詳細はこちらから

(文・撮影/中島大輔)

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