準優勝以上の価値――。
24年ぶりの大躍進に三菱自動車岡崎・梶山義彦監督がそう感じたのはスタンドの光景だった。これまでより以上に多くの声援を受け、日頃からの取り組みを再確認した。
会社が野球部を持つ意味を再認識
「勝つことを目標でやっています。都市対抗も日本選手権も日本一。でも、一番大事なのは我々の野球で、社員とか、地域の方が喜んでくれる。野球部を置いておく意味があるというか。会社が野球部を持っていてよかったよっていうのを言ってくださるチームにならないと意味がないので、お客さんがたくさん入っていたので見ていて気持ちよかったです。準優勝という結果以上に、それが今回の成果かなと、嬉しかったです」
日頃からの練習やトレーニング。選手の個々の能力を高めるのは大会で頂点に立つためや、あるいはプロ野球選手を輩出するためでもある。そこへの努力は惜しまないが、チームとして大事にしているのは姿勢の部分だ。全てに全力でプレーし、手を抜かない。礼儀礼節などを大切にして周りに気配りをする。
梶山監督は自身のチームづくりの根幹についてこう話す。
「社会人野球の選手が全力で走っていない、そういうのを見せたくないですよね。プロの方は毎日試合やるので、体力や怪我しちゃいけないっていうのもありますけど、我々は1球1球全力というか、そういう野球です。職場では職場の皆さんにしっかり可愛がってもらえるように。しっかり挨拶をきちんとするとか、ちょっとした気遣いができる。そういう人の集まりになるのが一番の理想だと思っています」
学生から巣立ち野球ができるというのは限られた人間しかいない。しかしそれらは言い換えれば選び抜かれた選手でもある。なかには幼少期からエリート街道を歩んできた中で「野球をやっておけばいい」というような考えの選手もいる。
しかし、それは社会人野球の選手とはいえない。学生とは違い、給料をもらってプレーしている。プロ野球選手とは異なるが、野球が仕事になっているのは紛れもない事実なのだ。野球で会社に貢献する。この答えは見えないものへの戦いが社会人野球でプレーするものの使命かもしれない。
「社会人野球はやっぱりアマチュア野球の一番の手本になるようなチームでなきゃいけないと思っているんですね。プロ野球に比べたら当然レベルが落ちますけれども、『プロよりレベルが落ちた野球』というよりかは、『レベルの高いアマチュア野球』でありたい。プロの下にいるんですけど、アマチュア界ではトップだよって、そういう野球目指したいなと思っています」

どんな場所でもやることは同じ
梶山監督がそう話すのは自身が野球を通して数多の出会いを経験してきたからだ。現役時代、社会人トップの外野手だった梶山は日本代表にも選出され、シドニー五輪を戦っている。野球ファンの記憶にも残っているだろう。プロとアマが合同で参加した唯一の大会だ。かつては五輪を目指す日本代表はアマチュアのものだったが、時代の変化の中で、プロとアマが一つのチームを形成して合同で戦うというようなことがあったのだ。
「この話はよくするんですけど、日本代表だったから何か特別だったかって言ったら、そんなことないんですよね。日本代表の野球も、三菱自動車の野球も変わりはないです。やることは常に同じなので。そこから何かを得たっていったら、いろんな方々と野球ができたっていうことくらい。レベルの高いところでやらせてもらえたっていうのはすごく財産。プロ野球選手の方と一緒にやらせてもらうというのはなかなか経験できないことでした」
プロの一流の技術はやはり側で見ていても感心することばかりだった。松坂大輔―古田敦也がバッテリーを務めている後ろで自身が守る。不思議な感覚ではあったものの、一度試合が始まると、そんなことは頭の中から消えていたという。「プロもアマも関係ない。プロの方々も想いを持ってきてくれていましたから」とチームが一つになることの実感があったと梶山監督は振り返る。
指揮官になっても、「いつもやることは同じだよ」と口酸っぱくいうのは、こうした経験があるからに他ならない。グラウンドに入れば立場とか相手とかに関係なく、自分たちができる野球のプレーを見せる。チームとして一つになることの大切さを学んだプロアマ合同チームだった。

三菱自動車岡崎の選手に求めるのはタフさであったり人間性だ。阪神タイガースに所属する中野拓夢は同チームのOBだが、やはりそんな選手だった。
「中野はうちのチームにきた時から体力がありました。どれだけ練習しても怪我をしないですし、全く手を抜かなかったですね。だから今年もフル出場?ができたんじゃ無いかなと思います。体は小さいですけど、元気な選手でした。今でも、オフにはグラウンドに来てくれますし、いろんな人から愛されている選手。そういった選手をこれからも育てていきたいですね」
実際、社会人野球に進んでくる選手の何人かはプロ志望であることが多い。梶山監督も自身がそうだったから、選手たちにはプロを目指す選手であってほしいと話す一方で、「大きな戦力ダウン」と本音を覗かせる。選手のプロ入りを抑制したいわけではないがチームが目指す形としての理想系もそこにあるという。
「プロを目指すような選手には集まってもらいたいですよね。そこを目指すということは一生懸命頑張るでしょうから、プロに行きたい選手がいっぱい集まったら、必然的にレベルが高くなると思うんです。本人がプロに行きたいといっているのであれば、私はそこを目指して頑張りなさいと言います。ただ、正直言うと、行かせたくない。戦力ダウンになってしまうので。
でも、そういう選手がプロに選ばれて出ていっても、残った選手が補えるぐらいのチームにはしたいと思う。そういうスカウティング、選手の入れ替えをうまくやっていかなきゃいけないのかなとは思います。今回は準優勝って終わっているので目指すのは優勝しかないですけど、使命感を持ってやらなきゃなと思います。社会人野球で野球界を盛り上げる。少しでも見に来てくださるお客さんを増やせるような野球をしていきたいと思います」
レベルの高い“アマチュア野球”を目指し、一方で、観客からも楽しんでもらえるようなチームになる。24年ぶりの準優勝は一つの答えだった。あと一つの勝利を目指しながら、三菱自動車岡崎は変わらぬ姿勢でグラウンドを駆け抜けるつもりだ。
(取材/文:氏原英明、写真提供:三菱自動車岡崎野球部)

