今年結成から100周年を迎えた「東京六大学野球連盟」。これを記念して、現在野球殿堂博物館ではその記念展を開催している。
同連盟との共催で9月13日から11月24日まで行われており、東京六大学野球連盟100年の歩みを貴重な展示品の数々を通じて振り返ることができる。
注目は82年ぶりに公開された東宮賜盃。宮内庁から期間限定で特別に提供され、史上初めて天皇杯と並んでの展示が実現した。
これらのストーリーや開催までの過程などを、公益財団法人 野球殿堂博物館の関口貴広さんに話を伺った。
(写真 / 文:白石怜平)
東京六大学野球連盟との共催で9月から開催中
特別展「東京六大学野球連盟100周年記念展」では、博物館所有のコレクションに加え、各大学の野球部や関係者が所蔵する貴重な資料が公開されている。
この特別展は連盟結成100周年を見据えて、2年ほど前から構想を描いていた。開催の背景を関口さんは明かしてくれた。
「東京六大学野球は日本野球の歴史におけるルーツとも言えると思います。戦前や戦後の野球人気の拡大に寄与してきました。今野球殿堂入りしている方222名のうち、六大学関係者が118名いらっしゃいます。
このように多くの人材を野球界や社会へと輩出し、現在も日本野球界の発展に重要な役割を担っていることに敬意を表して開催することとなりました」

メインエリアに入ると、壁には各大学の現行そして昭和20年代以前の歴史的なユニフォームが上下に飾られており、その歴史を肌で感じることができる。
また、本展は東京六大学百周年の記念行事の一つとして同連盟と博物館が共催している。博物館と各大学が連携して展示品を拡充していった。
「我々で保管しているものに加えて、各大学さんからご出品いただいたものも合わせて展示しています。
各大学OBの方がそれぞれ担当してくださっていて、学校にあるものや個人でお持ちのものなど選りすぐりの品をご出品いただいています」

加えて六大学の年表や文化・通算記録保持者の紹介など、選手たちの築いた功績が記された紙面も所狭しとある。
これらは関口さんら博物館のメンバーが執筆・制作しており、投打の歴代最多記録保持者、完全試合達成者などの紹介が詳細に記載されている。
各大学に分けられたコーナーでは大記録の達成時の記念ボールやバット、名選手たちの実使用品などを展示。それぞれの時代を思い出したりタイムスリップできるような品々も多く展示されている。
主な展示品
早稲田大学
- 飛田穂洲「一球入魂」プレート
- 森茂雄監督 着用ユニフォーム
- 和田毅投手 六大学新記録の444奪三振達成ボール
慶應義塾大学
- 「若き血」堀内敬三氏 直筆楽譜
- 渡辺泰輔投手 完全試合ウイニングボール、使用グラブ、最後の一投写真
- 高橋由伸選手 リーグ新記録の通算23号ホームランボール、使用バット


明治大学
- 草創期集合写真
- 島岡吉郎監督 使用ノックバット、ユニフォーム等
- 髙山俊選手 リーグ戦通算128安打の新記録達成球、使用バット
法政大学
- 山中正竹投手 リーグ最多勝記録48勝ウイニングボール
- 田淵幸一選手 使用バット
- 江川卓投手 サインボール


東京大学
- 東京帝大ユニフォーム
- 東武雄投手 ノーヒットノーラン達成試合スコアブック
- 大越健介投手 日米大学野球選手権大会出場記念盾
立教大学
- 西本幸雄氏「以和為貴」、長嶋茂雄氏「洗心」 色紙
- 長嶋茂雄選手 通算8号本塁打 新記録達成バット
- 1957-58年 4連覇メンバーサインボール


実は展示品の中にも関口さんが直接収集に関わったものも含まれていた。
「上重(聡:当時立大)さんの完全試合達成や、和田(毅:当時早大)さんの奪三振記録達成の際は、連盟に収集の協力を依頼し、展示されている記念ボールを、神宮球場で連盟から受け取ったことは今でも鮮明に覚えています」

メインエリアを出た向かいにはサブエリアを設置。
ここでは03年に長嶋茂雄監督がアテネ五輪アジア予選時に着用したサイン入りユニフォームを中心に配置し、六大学出身選手の歴代日本代表のユニフォームを展示している。

1931年に大リーグ選抜チームが来日した際に着用した全日本のユニフォームや、戦後初の海外遠征として1950年に六大学選抜がハワイ遠征を実施した時のものなど、歴史的に貴重なユニフォームの実物を見ることができる。

82年ぶりに公開された『東宮賜盃』
この特別展では、期間中でないと直接目にできない品がある。それが東宮賜盃である。
東宮賜盃は1926年秋から43年まで優勝杯として下賜されていたもので、現在宮内庁が所蔵している。本企画のために貸し出しが許可され、82年ぶりに公の場に姿を見せた。
東宮賜盃が最初に登場したのは1926年。明治神宮野球場の開場奉納式に当時の皇太子殿下(のちの昭和天皇)が臨席し、六大学の紅白戦などをご観戦した際、優勝杯(東宮賜盃)下賜の御沙汰があり、その目録が連盟に贈られたのが始まり。この秋季リーグは早大が制し、東宮賜盃を最初に獲得したチームとなっている。
1943年、文部省から六大学リーグの解散通達を受けて東宮賜盃は宮内省(現:宮内庁)に返還。
戦後は1946年春にリーグ戦が再開し、同年11月1日には宮内省より現在の天皇杯の御下賜が伝えられた。東宮賜盃の流れを受け継ぐ形として、戦後、他のスポーツ団体に先駆けて天皇杯が下賜された。
同年秋に優勝を果たしたのが早大。東宮賜盃に続いて最初の獲得チームとなった。以降、各シーズンの閉会式で優勝チームに授与されている。
東宮賜盃の展示は「この特別展の軸にしたいと考えていました」と語る関口さん。実現に至るまでにも、一つエピソードがあった。
「資料の中で返還されたと記されている以上、宮内庁で保管されているのではないかというのは以前から考えていました。
2022年に福沢諭吉記念慶應義塾史展示館が企画展を開催する際に、担当の先生に宮内庁に確認するようご提案したところ、所蔵はしているとの御回答があったそうです。
これを受け、連盟100周年という大きな節目にぜひとも展示させて頂きたいと考え、連盟の内藤雅之事務局長に依頼し、宮内庁に申請をしたところ、条件が整ってご快諾を頂き、展示が実現しました。」
本特別展ではこの東宮賜盃と天皇杯が並んで展示されており、この2つが同時に並ぶのは史上初の機会でもあった。

「100年という長い歴史を体感できる構成にできた」
特別展がスタートしてから、六大学のOBのみならず、プロ野球ファンなど多くの人が来場しその歴史を肌で感じている。
特に9月13日から11月2日まで行われていた秋季リーグ戦の時期はひときわ大きな賑わいを見せ、試合前後に立ち寄るファンの方たちが世代問わず多く見られたという。
今季選手たちが着用した百周年のロゴが入った限定ユニフォームも提供いただく予定で、特別展を終えた後も東京六大学の歴史を伝える活動は決して終わりではない。
関口さんは博物館として考えている今後の展望を最後に語った。
「100年という長い歴史を体感していただける構成にできたと感じるとともに、幅広い層の方々に興味深くご覧いただけている手応えを感じています。
今後も六大学含めたアマチュア野球全体をカバーして、日本野球の歴史をしっかりと伝えていきたいです」
東京六大学100周年を彩った野球殿堂博物館。その歴史を継承する活動はこれからも続いていく。
野球殿堂博物館 特別展「東京六大学野球連盟100周年記念展」は、11/24(月)まで
(おわり)

