(本記事は前後編の後編。前編を読む)
日本が初参戦した「第2回 WBSCユースBaseball5ワールドカップ」。
9月24日〜27日の間にメキシコ・テピクで行われた4日間は、日本のBaseball5の現在地を知った期間でもあった。
日本選手たちから見えた可能性や競技発展に向けてなどを、前編に引き続き本池太一監督(東京ヴェルディ・バンバータ)・六角彩子コーチ(5STARs)に伺った。
(取材 / 文:白石怜平 、 写真提供:BFJ)
他国の強さを感じた「ハングリー精神」
ワールドカップを通じて海外の選手や文化にも触れた侍ジャパンBaseball5ユース代表。フィールド以外でも本池監督はある印象を抱いていた。
「酷な部分はあるんですけど、他国の選手たちは“ハングリーさ”が違うと感じました。台湾の選手見ていてもたくましさがあると思いましたし、その部分も顕著に出ていました」
六角コーチも「アウト一つを取った時の全力の喜び方を見ると、如何に本気でたくさん練習してきたかが垣間見れました」と、同じ印象を感じていたという。
他国が持ち合わせていたそのハングリー精神。出国前から自身が気にしていたポイントでもあったそう。
「日本代表を束ねられた方たちの話、例えば山中正竹さん(バルセロナ五輪野球日本代表監督・現BFJ会長)からもそういったアドバイスは事前にいただいていて、まさにそうだなと現地で改めて感じましたね」

日本が海外で上位に行く一つのヒントがハングリー精神だった ©World Baseball Softball Confederation
また、侍ジャパンBaseball5ユース代表として参加した選手たちは全員高校生。日本からは13時間以上もかかる異国の地で、かつ海外経験自体も初めての選手も多くいる。そんな中で、パフォーマンスを最大限発揮しなければならないという過酷な環境でもあった。
「もう1つ目に出てくるのが、食事への対応ですね。正直私も食べられない感じのものもありましたから、選手たちも相当苦労したと思います。
それを理由に挙げる意図ではないですが、パフォーマンスを100%発揮するための要因の一つとして少なからず影響はあったと思います。
選手にハングリーさを求めるだけではなく、我々スタッフとしてもそこへの準備やケアもそうですし、あとは他国の競技レベルが上がってきたことに対応しきれなかったというのも今後に向けた反省点です」
世界の中で輝いた日本選手の可能性
日本でも世界に通用すると感じた選手がいる。本池監督はまず、チームの主将を務めた一人である平野将悟選手(横浜隼人Aggressive)を挙げた。
「アジアカップに続いて森本愛華選手(日大二高・中京大中京5)と一緒にチームを引っ張ってくれました。彼の特徴は強い打球で、世界で見ても引けを取りませんでした。
国内でも彼の打球を捕れるプレーヤーは限られると思うくらい強い球を打ちますし、もっと伸びしろがあると感じています。さらに精度も上がってくるとオープンの代表でも勝負できるレベルです」

実力を世界に示した平野将悟選手(横浜隼人Aggressive)©World Baseball Softball Confederation
また、女子選手では今回初めて代表入りを果たした選手を評価した。
「ショートを守った蛭田真白選手(横浜隼人Aggressive)の守備が長けていて、相手の男子選手の打球を捌いてくれました。彼女のプレーを見て、日本もワンランク上がったプレーができたと感じることができましたね」

初代表で存在感を放った蛭田真白選手(横浜隼人Aggressive)©World Baseball Softball Confederation
大会を終えた後、今回日の丸を背負った8選手全員はハングリーさが確かに醸成されていた。それを感じられた選手たちの姿勢があったと言う。
「選手たち全員が、『次はオープンの代表を目指して、もう一回挑戦したい。だからBaseball5を続けます』という言葉が出てきたので、そこは本当に嬉しかったです。
今回世界で戦った経験を学校やチームに戻って経験を伝えたり、次の日本選手権などで活躍することで、未来に向けて浸透していくことを願っています」
Baseball5の普及・発展に必要な「ユース世代の競技人口の拡大」
本池監督が就任時に掲げた自身へのミッションは「オープンの部で培った日本のBaseball5をユース世代に継承する」こと。それは引き続き自らに課して臨んでいた。
フィールド上ではオープンの選手たちが王者・キューバたちとの対戦を通じて磨いてきた緻密さ、そしてフィールド外でも他国をリスペクトといった日本人らしい礼儀・礼節を振る舞いをどんな時でも表現することだった。
「今回はトータルで4勝3敗なので、3回負けたわけです。なので選手たちとはたくさん話を重ねました。一番伝えたのは『負けたときの姿が大事なんだよ』。
実は出国前にBFJに協力いただいて、スポーツマンシップの講義を行ったうえで臨んだのですが、選手たちにとっては有意義だったのではないかと思います」
継承そして今後日本のBaseball5が世界を通じて発展していくために必要なこととして、「ユースの競技人口を増やしていくことがとても重要」と語った本池監督。
毎年1月に行われる日本選手権やアジアカップ、そして今回のワールドカップを通じてユース選手たちや学校との関わりを深めてきた。その立場から、競技普及のための私見を明かしてくれた。
「ユース世代にどうリーチしていくのか。学校の先生や野球部・ソフトボール部、それ以外の部活に関わっている方たちにBaseball5の魅力を感じてもらう活動を続けていくことだと考えています」
六角コーチにも問うたところ、本池監督と同様の見解を挙げた。
「ユース世代にまずBaseball5を認知してもらうこと、そしてユース世代の広報や大会を開いていくことが大事だと思っています。
ユース世代は高校との関係があるので、学校側にBaseball5を知ってもらい、理解してもらうことがまずは必要と考えています」
両名は、昨年オープン部でアジアカップそしてワールドカップに侍ジャパンの一員として出場するなど、日本を代表する選手たちでもある。
所属チームではライバルとして日本選手権でしのぎを削りながら、チームの垣根を超えて合同練習で切磋琢磨する文化がBaseball5にはある。
これを通じて築き上げているカルチャーが、競技レベルの向上や普及につながると考えている。
「我々も国際大会を経験させてもらっていますし、世界の戦術を肌で感じています。なので競技普及やレベルアップのためには、国内の大会でも横の連携をしていくことも大切です。
互いに戦術を共有しながら、選手権でも披露し合っていくようにして高めていく。競技レベルが上がれば挑戦したい選手が増えて、いい選手たちが増えていく循環が生まれていくのではないかと思っています」(本池監督)
26年10月には、初のユース五輪へ出場
来年10月にセネガルで開催される「DAKAR 2026 YOUTH OLYMPIC GAMES」に出場する日本。世界の舞台で輝くチャンスはすぐに訪れる。
今回のメンバーでは谷尾心瑚選手(5STARs)が出場資格を有している。
六角コーチも谷尾選手については、「アジアカップ・ワールドカップともに高い打率をマークしています。今後の日本のユース世代を引っ張ってほしいです」と期待を寄せている。
本池監督は五輪をこれから目指す選手に向けてのメッセージを添えてインタビューを締めた。
「みんなにチャンスがありますし、約1年あれば技術的にも十分成長できます。もし目指したいという選手がいれば、この上ないチャレンジの機会です。
おそらく他の競技をしていてBaseball5と両方をやる・やっていると思いますが、すでに取り組んでいる技術やフィジカルを活かして、Baseball5との相乗効果で上達するようにしてもらえれば、可能性は見えてくると思います」
4日間の激闘を経て日本へと帰ってきた侍ジャパンBaseball5ユース代表のメンバーや首脳陣たち。世界の舞台から得た数々のヒントを元に、日本の競技発展へとつなげていく。
(おわり)

