【スポーツマンシップを考える】スポーツの力を再確認する秋

スポーツの秋、野球の秋

2025年、スポーツの秋。その秋の深まりとともに、今年の野球界もいよいよ幕を閉じようとしている。

 

日本では、プロ野球の頂点を決める日本シリーズが開幕。パ・セ両リーグを制した福岡ソフトバンクホークスと阪神タイガースがそれぞれクライマックスシリーズ(CS)も勝ち上がり、熱戦の火花を散らしている。

昨年の日本シリーズで横浜DeNAベイスターズに敗れた雪辱を期すホークスと、2023年以来2年ぶりの頂点をめざすタイガース。柳田悠岐選手、近藤健介選手、山川穂高選手らを中心とするホークスの重量打線を、セ・リーグ最優秀防御率の才木浩人投手や最多勝の村上頌樹投手らがいかに抑え込むか。

一方、パ・リーグ最多勝の有原航平投手、最優秀防御率のモイネロ投手、守護神の杉山一樹投手などホークス投手陣から、本塁打・打点のセ・リーグ2冠に輝いた佐藤輝明選手、CSでMVPを獲得した森下翔太選手らを擁する阪神打線が限られたチャンスをものにできるか。注目されたこのシリーズは、連日1点を争う好ゲームが繰り広げられたが、最終的には4勝1敗で福岡ソフトバンクホークスが5年ぶりの日本一に輝いた。

 

海の向こうアメリカ・メジャーリーグでは、長いポストシーズンのフィナーレを飾るワールドシリーズが開催されている。頂点にたどりつくのは、昨年に続き連覇をめざすナショナルリーグ・チャンピオンのロサンゼルスドジャースか、はたまた、かつてワールドシリーズ連覇を成し遂げた1992年、93年以来32年ぶりのシリーズ出場を果たしたアメリカンリーグ・チャンピオンのトロントブルージェイズか。

強打を誇る両チームの戦いは、大谷翔平選手、山本由伸投手、佐々木朗希投手など日本人プレーヤーたちが大活躍するシリーズとなり、なかには延長18回におよぶ歴史的なゲームも誕生するなど、こちらもメジャーリーグファンの大きな注目を集めている。

 

アマチュア野球界に目を移せば、伝統と格式を誇る東京六大学野球リーグは熱狂の渦の中でその幕を閉じた。2025年秋季リーグ戦を制したのは、5季ぶり44回目の優勝となった明治大学だった。同大学としては29年ぶり2度目、六大学野球としても22年ぶり6度目となる全勝優勝を果たしたのである。

 

そうしたなかで日本では、10月23日に「新人選手選択会議」、いわゆるプロ野球ドラフト会議が行われ、12球団は新たなプロ野球選手候補たちとの交渉権を獲得した。

前回連載でご紹介したLIGA Summer Camp 2025に参加していた選手たちのなかからも、浜岡蒼太投手(川和高校)が埼玉西武ライオンズ育成ドラフト4位に指名された。

 

風は徐々に冷たさを増し、空が日に日に高くなる。この季節、野球ファンはその一投一打に、残り僅かとなった今季の時間の名残と、来たるべき春への期待を重ねる。幕切れを間近に控え、別れの寂しさと始まりの希望が同居している季節である。

LIGA Summer Camp 2025に参加していた浜岡蒼太投手と (筆者提供)

王貞治さんも訪れた「球都桐生プロジェクト」

 

群馬県桐生市が、野球を中心に地域活性化を推進する「球都桐生プロジェクト」は、全国でも数少ない新たな地方創生モデルとして注目を集めている。本連載でも何度か取り上げているように、このプロジェクトには、地域活性化とともに青少年の健全育成や交流人口の増加など幅広い狙いが込められている。

 

市費に依存するのではなく民間資金を呼び込み、市と民間団体、企業が連携して事業を進めている点が本プロジェクトの最大の特徴であるといえよう。企業や個人からの寄付が2025年9月までに累計約3億9千万円に達するなど、事業の全額をふるさと納税による寄付で賄うことで事業の自由度を高めている。

 

2023年には、東京六大学野球オールスター戦の招致や、侍JAPANをWBC2023優勝に導いた栗山英樹氏を招いたトークイベントを開催。2024年には、野球選手のみならず子どもから高齢者までさまざまな競技者が利用可能な科学的トレーニング施設「球都桐生野球ラボ」をオープンしたり、文化勲章を受章されたレジェンド・川淵三郎氏やカーリング日本代表として活躍した本橋麻里氏をお招きしてのシンポジウムなども開催したりしてきた。

 

そして今年は、東武鉄道・新桐生駅を球場風デザインに改修。さらには、講談社創業者の野間清治氏が同市出身であることにちなみ、JR桐生駅に同社が連載誌を出版する野球漫画『ダイヤのA』の主人公・沢村栄純の銅像を設置した。

 

8月から9月にかけて、3年連続の開催となった「球都桐生ウィーク2025」。今年のこのイベントのなかでも、YouTubeチャンネル「上原浩治の雑談魂」の公開収録、慶應義塾大学野球部による「東京六大学野球教室」、また、学童野球の聖地を期して改修が行われる広沢球場サブグラウンド視察会など、盛りだくさんの企画が実施された。

また、8月23日には、旧桐生南高校の校舎をリノベーションして誕生した「KIRINAN BASE」内に、球都桐生のシンボルとなる「球都桐生歴史館」もオープン。8月26日には球心会代表の王貞治氏が視察に訪れるなど、大きな賑わいを見せることになった。

益子直美と考えるスポーツの未来

そんな桐生市の取り組みだが、市民からは「なぜ野球ばかり優遇するのか」という声が上がることもあるという。最終的には教育、経済、文化、暮らしを豊かにさせることが目的であるが、まずは市にとって歴史と伝統あるリソースである野球に資金と人材などリソースを集中しつつ、段階的に全てのスポーツの発展につなげることをめざしている。

 

9月14日には、日本スポーツ協会副会長・日本スポーツ少年団本部長で日本スポーツマンシップ協会理事の益子直美氏、SV.LEAGUE・群馬銀行グリーンウイングスGMの斎藤真由美氏をお招きして、「益子直美と考えるスポーツの未来」と題して、バレーボールをメインにしたイベントが開催された。

バレーボール女子元日本代表のおふたりは、日本スポーツマンシップ公認のスポーツマンシップコーチの資格取得者でもある(JSA Sportsmanship Coach Academy

第1部は、「学校では教えてくれないスポーツマンのめざし方」をテーマにしたトークショー。筆者がモデレーター役を務めさせていただきながら、「子どもたちが主体的にスポーツを愉しむための心構え」について語り合った。

 

日本代表まで登りつめたおふたりの過去の経験談や、現役時代に高圧的な指導に苦しんだ益子氏が10年前にスタートした「監督が怒ってはいけない大会」に触れ、スポーツにおける指導者の在り方に警鐘を鳴らした。

対戦相手についてスポーツを愉しむ仲間として認める考え方、ミスを「チャレンジ」ととらえる思考、勝ち負け以外にも価値を感じながら感謝と敬意を伝えられる「誰からも愛されるかっこいい人」、すなわちスポーツマンのあり方について語るなど、子どもたちが意識すべきスポーツに対する姿勢や、大人たちの受け止め方や声がけの仕方などについて具体的にお話しいただいた。

親子連れや高校生など約180人が参加してくださったなか、おしゃべり上手なおふたりによる雰囲気づくりと、積極的に挑戦する気持ちを持って発言してくれる子どもたちのおかげで、会場は大きな盛り上がりを見せた。

 

また、第2部では、群馬グリーンウイングスのプレーヤーなどによるバレーボール体験教室や、同ジュニアU15監督の丸山佳穂氏によるバレーボール指導も行われ、小学生ら約100人がバレーボールを大いに愉しんだ。

 

桐生市では、このように野球を核としながら、さまざまなスポーツを通して、スポーツマンシップの学びを活用したまちづくり、人づくりに挑んでいる。

プロスポーツチームがない桐生市ではあるが、だからこそ、官民連携の枠組みで挑むこうした取り組みは、大きな競技団体のない自治体でも応用できるモデルへと成長していくことを、今後ますます期待したい。

「益子直美と考えるスポーツの未来」に登壇した筆者、益子直美氏、斎藤真由美氏、群馬銀行グリーンウイングス白岩蘭奈氏(左から) (筆者提供)

中村聡宏(なかむら・あきひろ)

一般社団法人日本スポーツマンシップ協会 代表理事 会長

立教大学スポーツウエルネス学部 准教授

1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。広告、出版、印刷、WEB、イベントなどを通してスポーツを中心に多分野の企画・制作・編集・運営に当たる。スポーツビジネス界の人材開発育成を目的とした「スポーツマネジメントスクール(SMS)」を企画・運営を担当、東京大学を皮切りに全国展開。2015年より千葉商科大学サービス創造学部に着任。2018年一般社団法人日本スポーツマンシップ協会を設立、代表理事・会長としてスポーツマンシップの普及・推進を行う。2023年より立教大学に新設されたスポーツウエルネス学部に着任。2024年桐生市スポーツマンシップ大使に就任。

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