指導者がティーチングとコーチングの違いを理解する必要性

野球の指導を行う際には、指導の仕方として「ティーチング」と「コーチング」という二つのアプローチがあることを知っておくことが重要です。

ティーチングとは、正しい知識や方法に基づいて教えることになります。一方コーチングとは、プレーヤーを尊重し、相互の信頼関係の中で、プレーヤーが抱える課題に対する答えや目標に対してとるべき行動を、コミュニケーションを通じてプレーヤー自身から引き出すことになります。

これによって、自ら考え、工夫し、挑戦するプレーヤーを育成していくことを目指すことが目的となります。

なお、「コーチ(Coach)」という言葉は、15世紀にハンガリーのコーチェ(Kocs)という村でつくられた「四輪馬車」が語源だと言われています。馬車は客を目的地に運ぶことが役割ですが、この言葉が後世になって「人」に用いられるようになりました。

したがって「コーチ」は「目的を持った人を導く」人のことであり、コーチは、プレーヤーの意思・目的を尊重し、その目的達成のために手助けすることがその役割となります。

 ティーチングならびにコーチングは、選手が伸びていく過程において、指導者が上手に使い分けていくべきものであり、どちらが良い/悪いというものではありません。

例えば、ボールの投げ方、捕り方、打ち方において、基本が何かを分からなければ、その後の課題を見つけたり、次の目標を設定したりすることが出来ません。

まずはティーチングにより基本を身につけるよう指導し、そのあとはコーチングを主体に、選手自身が自ら課題を見つけ、解決していく力を身につけられるよう育成していくことがコーチの重要な役割となります。

●コーチングの技術(基礎) 〜指示・命令型から質問・提案型へ〜

 なぜ、ティーチングだけでなくコーチングが必要になるかを簡単に説明します。基本中の基本の技術を教えるティーチングは、度を越してしまうと“指示・命令型”の指導になりやすい傾向が強いのです。

その結果、プレーヤーの自発性、自立性、自律性を奪う可能性にも繋がります。そのため、ティーチングで教えるべき「基本」を教えたあとは、“質問・提案型”のコーチングによりプレーヤーの自発的な行動、さらには個々の潜在能力を引き出す必要があるのです。

そのためコーチングにおいては、指導者とプレーヤー間の信頼関係が不可欠となります。信頼関係という基礎を築き、さらに選手の自発的な行動を引き出すために重要となるのが、コミュニケーションスキルです。下記に示すのは、コーチングに必要な基本となるコミュニケーションスキル5点になりますので、覚えておくようにしまよう。

<よく観察する>

良い面を探すことを優先する。

固定観念をもって観察しない。

小さな変化にも気をつける。

<傾聴する>

相手の緊張を解き、話しやすい雰囲気をつくる。

途中で口を挟んだり、結論を先取りしたりせず最後まで聞く。

声のトーン、表情など言葉以外のメッセージに注意する。

ペーシング(あいづち、同じ言葉を繰り返す、うなずき等)

<尋ねる>

相手の答えを引き出しながら、考えを整理させたり、建設的な方向に向けさせたりすることを意識する。

例:視点を変える質問「あなたが相手だったらどう感じるかな?」

例:選択肢を広げる質問「他にはどんな方法が考えられるかな?」

例:前向きな方向に変える質問「どうしたら改善できると思う?」

相手の話を受けて、さらに具体的な質問を返す。(チャンクダウン)

例:選 手「今日は打てませんでした。」
  コーチ「なぜ打てなかったのだろう?」
  選 手「相手投手の球が速くて振り遅れました。」
  コーチ「次の対戦で打てるようにするにはどうしたらよいかな?」

自ら投げかける質問が「クローズドクエスチョン」か「オープンクエスチョン」かを意識し、これらをうまく使い分ける

※クローズドクエスチョン: 「はい」か「いいえ」で答える質問

※オープンクエスチョン: 自由に答えられる質問

相手を責めたり、追い込んだりするような質問は避ける。

<認める/受け入れる>

相手の人格や立場を尊重し、共同・協力して目的を達成しようとする姿勢をもつ。

プレーヤーが適度な誇りをもてるように、激励し勇気を与える。

小さな成長や成果を見逃さず、具体的に褒める。

問題やミスは「課題」であり、「課題」が見つかったことはチャンスと考える。

成果や成長といったポジティブな評価については、時に第三者の言葉を借りて伝わるようにする。

<提案する>

プレーヤーの判断を尊重する。

客観的な資料(データや映像など)を適切に活用する。

与える情報の質と量(一度に多く与えすぎない)、タイミングに配慮する。

言葉に表情を持たせる。(思いを込めて提案する。)

選手の可能性を引き出すキーワード「PATROL」<参考>

Process: 結果ではなく、経過を重視しましょう
Acknowledgment: 承認しましょう
Together: 一緒に楽しみ、一緒に考えましょう
Respect: 尊敬しましょう、尊重しましょう
Observation: よく観察しましょう
Listening: 話をよく聞きましょう

 抜粋/『公認野球指導者 基礎I<U-12>テキスト』

   P15~18 3.ティーチングで基礎を教え、コーチングで伸ばす(※一部を抜粋して掲載)

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