野球界でデータ活用を用いて、パフォーマンスを上げようという考えが浸透してきた中で、技術だけでなくコンディショニングや身体操作能力向上にも注目が集まり始めている。
プロ野球でもパルクールやヨガを取り入れる選手が増える中、オフシーズンに多くの野球選手が訪れる「DIMENSIONING」という場所がある。
ボディーチューニングという本来のパフォーマンスを最大限出すための基本動作を追求するメソッドを提供するDIMENSIONING代表の北川雄介 氏にHomebase編集部が話を聞いた。
Homebase編集部では、ここ最近多くのアマチュア選手やプロ選手へ施術を行っているDIMENSIONINGの代表・北川雄介さんに話を伺った。
第三弾では、データ活用の注意点を中心に迫ります。最後に北川さんから指導者と選手へのメッセージをいただきました。
データの活用は正しく使わなければリスクの高さも
-ここ数年、野球界でもデータ活用の流れが来ているように思えます。活用する上での注意点や効果的な活用方法についてお聞きします。
現状の把握、分析、改善というPDCAのサイクルを早く回せるようになるという点では非常に有効だと思います。
ある筋肉に刺激を入れた時にどの数値が変わるのか、あるいはハイスピードカメラを見たら球にどのような変化があるのかを確認することは学校生活の模擬テストや小テストを受けることと同じことだと思います。
入試本番に向けて、模擬テストを一度も受けずに挑む人はいないですし、それを野球に置き換えると、定期的にデータを収集し自分の現在地を把握することで、今後のメニューも変わっていきます。
一方、データ活用は長期的に行うことで本来の効果が出てきます。指導者目線では、選手の一時的な数値の低下があった際に、そこに一喜一憂させないようなマネジメントや声かけも大事になってきます。
小学生や中学生などの身体がまだ出来上がってないような年代の選手に対しても注意が必要になってきます。測定の時に良い数値を出そうとして普段よりも強い出力になるケースもよくあります。
それを繰り返すことで関節などに負担がかかってくると怪我のリスクも高まります。また、理想の数値に近づけようと無理矢理フォームに手を加えようとすることも危険性があります。
例えば、まだ身体や手も小さい選手に対して、投球時の回転効率を良くしようということで指導をするとその選手は肘を前に出して綺麗な回転の球を投げようとする可能性があります。そうすると肘に疲労が溜まりやすくなってきます。
指導者も選手としっかりと向き合い、選手の身体の発達内容に応じて適切な指導を行うことがより一層大事になってくると思います。
数値を良くしようという考え方ではなく、自分の感覚と実際の投球、打球とのズレを数値という情報を活用することで理想に導いていくのが良いのではないでしょうか。
-ありがとうございます。これまでとは変わった点からの質問になりますが、今まで多くの選手を指導されてきた中で後悔していることはありますか。
指導において球速を追求していた時期があったことですね。特に10代のまだ身体が完全に出来上がっていない時に球速を追求することはそれだけリスクも増えることになります。
球速を追求することが悪いことではありませんが、身体のケアに関する情報をしっかりと伝えることができず、結果的に故障につながることも考えられます。
その選手にとって、球速を上げることだけが正解とは限りません。指導者それぞれの色もあるので一概には言い切れないですが、中学生くらいまでは野球の戦術や技術的な部分を追求することに加えて、野球というスポーツ、試合というゲームの楽しさを覚えることも大事かなと思います。
ゴールを見据え導いてあげる指導者とそれを超える選手がたくさん出てくる世の中を夢見て
-高校生以上のカテゴリーの指導者へのメッセージがありましたらお願いします。
高校生になってくると選手自身も今後の選手人生について考え始めてきます。上のステージを目指している選手、高校野球を最後にプレーヤーを引退しようとしている選手と様々です。
その中で、チームビルディングと同時並行でそれぞれの選手ごとのゴール設定に基づいた指導やコミュニケーションを行うことができるのが理想だと思います。現場ではなかなか難しいですが、選手一人一人が幸せになることを祈っています。
-最後に選手へのメッセージをお願いします。
指導者の想像を超えるような選手がたくさん出てきて欲しいと思っています。大谷翔平選手もそうですが、二刀流でこのような活躍ができるようにと指導者が思って育ったわけでは無いと思います。
指導者がその選手に対して描いている世界観を超えるように成長していってもらえると指導する側としても非常にワクワクしますし、それと同時に選手にも育ててもらっているように感じます。
私としても、指導に携わった選手が今までの次元を超えた上で、選手からその新たに見えた景色を教えてもらうことを非常に楽しみにしていますし、そういったことがやりがいにも繋がっています。

