キーマンに聞く いま現場で何が起きているのか ~中学軟式野球の現状〜

 野球の競技人口減少が叫ばれている今、現場の指導者たちはどのような考えを持っているのか。

今回は、チーム減少を含め、多くの課題が残されているという中学軟式野球の現状を、群馬県高崎市立榛名中学校の野球部監督で、日本中学校体育連盟軟式野球競技部競技部長を務めている土屋好史先生に聞いた。

止まらぬ競技人口の減少。部員数は約10年で約5割減

 プロ野球で活躍する選手には、中学時代にはボーイズやシニアのチームに所属していたというケースが多く見られる。しかし、ここ数年は中学時代に学校の部活で軟式野球をしていたという選手の活躍も目立っている。

昨年の東京五輪で金メダルを獲得した侍ジャパンのメンバー24人の中で中学軟式出身は9人(青柳晃洋投手、岩崎優投手、森下暢仁投手、山﨑康晃投手、栗林良吏投手、大野雄大投手、千賀滉大投手、近藤健介選手、柳田悠岐選手)に及んだ。

また東京五輪出場は辞退したが、2度の沢村賞をはじめ多くのタイトルを獲得している菅野智之投手、昨年、ブレイクを果たした奥川泰伸投手も、中学軟式の出身者だ。

全体の割合でいえば中学硬式出身者がプロで活躍している傾向は強いが、その流れにも少し変化が出ていることは間違いないだろう。

 こうした明るい話題もある中学軟式野球だが、現状は非常に厳しい状況に置かれている。2009年度、全国の中学校軟式野球部の部員数は約30万6000人だった。

しかし2021年度になると、その数は約15万5000人にまで減少。その影響で3学年合わせても人数が揃わないというケースも増えている。

土屋先生はこの件に関して、「少子化で競技人口が減っているのは、野球以外のスポーツでも同じこと。人気があると言われるサッカーでさえここ10年で10数%減少している状況です。その中でも野球は50%近い割合で減少しているので、かなりシビアな状況です。また、学童野球のチーム数の減少傾向が続いていることも大きく影響していると思います」と語る。

 さらに土屋先生は、競技人口減少以外の問題点も教えてくれた。

「少子化にともない、教員の採用人数が減っています。そのため野球経験のない教員が野球部の顧問として、指導にあたらなければいけないケースが増えています。

その影響で、進学した学校に野球指導のできる先生がいないとわかると、軟式野球をやらずに、無理をしてでも硬式を選ぶ生徒が増えている現状があります。

教師の働き方改革もメディアなどで叫ばれていますので、そういう点も教員不足の一員になっているかなという感じもします」

 教員不足は学校における部活動全体の運営にも大きな影響を及ぼすことになるという点にも土屋先生は言及する。

「教員の数が減っている中、部活動の数が変わらない状態が続くと、必然的に顧問、すなわち教員にも負担がかかってきます。そうすると、部活動を廃部にして教員の数と部活動の数のバランスを保つという動きに自然となっていきます。

ここで廃部の対象となりやすいのが野球部という訳なのです。部活動存続の優先順位を考えると、野球が他の部活に比べると低くなってしまうというのが実情です。

例えば、野球は、部員の数は減少の一途をたどり、試合をするにも選手を最低でも9人集めないといけないという制約もあります。他の室内競技では数人あるいは一人でも試合が成立する競技もあります。サッカーは11人のスタメンではありますが、試合自体は7人メンバーが揃えば成立するという違いがあります。」

野球を楽しむという機会を設けることが大事

 競技者だけでなく指導者の減少という大きな課題が浮き彫りになっている中学軟式野球。競技者減少については、キャッチボールをはじめ、野球を経験する子どもたちが極端に減っていることも一つの要因だと土屋先生は話す。

「私自身、体育教師ですので、授業でソフトボールを教えることがあります。その際、男子生徒でキャッチボールができるのは2割にも満たない。ほとんどの生徒がキャッチボールの基本投球の形がつくれないんです。

我々の子ども時代は、柔道部の子もサッカー部の子も、ピッチャーのモノマネはできていました。でも今の子どもたちは、投げ方がわからず、ステップも逆だったりします。親や友達とキャッチボールをやった経験がない子がほとんどなんでしょうね」

 ボール遊びが禁止される公園も多く、野球に触れる環境がなくなっているのも事実だ。そんな状況でも小さいときから野球の楽しみに触れてもらおうと、さまざまなイベントが全国で開催されている。

土屋先生のいる群馬県でも、慶友整形外科病院スポーツ医学センター長を務める古島弘三医師が中心となり『ぐんま野球フェスタ』というイベントを開催しているという。

「1日だけのイベントですが、いろんな角度から野球を楽しんでもらおうと、さまざまな企画が行われています。キャッチボールはもちろんですが、バットでボールを飛ばす体験をしてもらうとか。

野球に触れる機会のない子どもたちに1度でいいから経験をしてもらいたいという気持ちからです。すぐに効果が出るわけではありませんが、野球に興味を持つ子どもたち、両親を増やすためにも、こういった機会を増やしていくことが必要だと思います」

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