指導の原動力は「野球への情熱」と「子どもたちへの愛」(浦和ボーイズ・中山典彦監督)

部員が150人を超える埼玉県の浦和ボーイズ。野球人口が減少の一途を辿る中、なぜここまでの大所帯となったのか。父母会や当番は一切なし。

試合には部員全員が出場し、グラウンドでは笑顔が絶えない。自身は東北高校(宮城)で甲子園に3度出場、明治神宮大会でも優勝するなど野球エリートだった中山典彦監督。

野球に必要なのは「人間力」と話す指揮官。第3弾では、中山監督を動かす原動力、チームへの思いを中心にお話を聞いた。

野球は目的ではなく手段 大切なものを野球から学んでもらう

―浦和ボーイズさんでは、全員が試合に出られると聞きました。

 うちはボーイズ加盟チームの中で、関東でも1,2を争う人数の多いチームです。1学年約50名いて、3学年で150名程度の大所帯でやっているんですが、みんな救いを求めてやってきてると思います。

他(のチーム)に行っても出してもらえない、練習をさせてもらえない。でも、ここに来れば大好きな野球をやらせてもらえる。そういう場を提供するんです。

その代わり、うちのチームが考えている自立心とか考える力を理解してちゃんと取り組んでもらえないと、うちのチームでもやっていけないよという約束で編入してきます。

野球は目的ではなくて手段であって、彼らのこれから大人になっていく上で大切なものを野球から学んでもらう。そういうチームであれば、高校に行ってもリーダーシップが取れるし、仲間の気持ちもわかるでしょうし、そういうものを養いたいなと思います。

―150名の大所帯ですが、辞める選手はいないんでしょうか?

 辞める子は少ないですが、人数の多さからここでやっていてもレギュラーになれないなと思って辞める子は年に数名います。

でも、絶対数からいえば1%あるかないか。辞めないで最後まで続けさせるっていうのも私たちの使命だと思います。この3年間の中でいっぱい悩んだり苦しんだりする子はいます。

でも来られなくなった子には電話をしてどうだって話をしながら、それでももう限界ですっていう子はしょうがない。

あと「どうしてうちの息子をもっと使わないんだ」といったうちのチーム方針に合わない家庭に対しては、残念ながら申し訳ないけどうちではできませんねと言うことはありますけど割合としては1%に満たないですね。

 練習に来たり来なかったりで、休みがちでも、3年間やり切ってうちのOBだってことになれば、それだけで成功体験だと思っているので、「お前中途半端だから来るんじゃないぞ」って言ってしまうとその子のその先がなくなってしまう。

1週間に1回でも1か月に2回でもいいし。団費も払わなくていいからやりなさいって。続けることが練習なんだから来れる時でいいから来なさいと伝えて続けさせることもあります。

野球が好き。人口の減少も進む中、「子どもたちの未来」のために

―中山監督が、野球と子どもたちをとても愛してらっしゃるのが伝わってきます。ここまでの熱い想いを持っている理由は何でしょうか?

 私たちの時代って野球しかなかったんですよ。野球のおかげで私はすごくいい人生を送らせてもらったし、高校も特待生だし、甲子園に出場したから大学もスムーズに入れました。

でも、そこであまりにも厳しい野球をやりすぎてしまったから野球はもういいかとなって、大学では遊びほうけました。燃え尽きちゃったんですよね。

そこから、しばらく何十年かは野球には携わりたくなかった。なぜかといったら、野球が好きだから入ったら絶対そこにのめり込むだろうなってわかっていたから。案の定、少し手伝ったらやめられないんですよね。(笑)

 野球ってすばらしいスポーツだし、私みたいに道を外さなければもっと長くできるスポーツのはずなのに、野球がうまいっていうだけで調子にのって大学生活過ごして、社会に出たらどうなるか。

周りからは過去の栄光が素晴らしいと言われますが、自分自身には何も残っていないですよ。

だから、私みたいな失敗をさせないために、(野球が)うまい子どもにはとくに人間性を豊かにするように、下手な子どもには運動能力を高められるように指導しています。

素直な子は多いし人のことは考えられるし。私が重い荷物を持っていれば「変わります!」って、そういう風に指導してはいますけど、そういうことができるようになるだけで、この子たちの人生は変わるはずだと思っています。

―野球という競技への愛情もものすごく感じます

 野球人口が多くて厳しい野球が当たり前だったときは今までのようなやり方でよかったんでしょうが、これだけ野球人口が減ってくるとそうじゃないんだって向き合わないといけませんよね。

オリンピック種目から外れ、どんどん新しいスポーツが出てくると、そっちに人は流れていくし、実際に昔のような野球人気はおとぎ話じゃないですか。

だとしたら正しい方へもう一度戻さないと野球人口は増えないですよ。正しさを模索している段階で子どもたちの為に何が正しくて何がいいのか考えることが必要だと思います。

「子どもたちの未来」ですよね。クラブチームでは、野球が好きなのに野球をさせてもらえない、「下手だから」、「運動神経が悪いから」試合で使ってもらえない。

でも中学校の部活では、先生が野球経験がなかったりするのでちゃんと教えてもらえない。そんな状況だから、ちゃんと好きな野球ができて野球を教える、そういうチームが必要とされていると思います。

―中山監督が目指す育成論を教えてください。

 私の高校時代の監督さん(竹田利秋氏)の教えを継承したいだけです。私は竹田さんから「深い深い愛情」と「高度な野球技術」と「甲子園での経験」というものを与えてもらいました。

でも自分があまりにも未熟でバカだったから、遊びほうけて野球を捨てた。

でもその経験があるからこそ、この子たちにこんなことにさせたくないし、自分のレベル・性格にあった環境で野球を続けさえすれば素晴らしい野球人生を送れるはずだと思います。

みんながプロ野球選手になれなくても、私たちのDNAを持ってくれれば素晴らしい指導者にはなってくれると思うんですよね。

 今、子供たちのおかげで真面目に生きようと思うし、裏切ったらいけないと思うし、一生懸命愛情を注ごうと思うし。できることってそれしかないんです。

弱いから勝てないんじゃなくて100回に1回勝てるかもしれない、それが、今日出たらお前らヒーローだよ!って。

現実ばかりみせられて夢も何もない中でやっていてもむなしいですよね、もっとワクワクすることやドキドキすることがないと。試合は選手とのイジリあいです、いつも楽しくて仕方がありません!

―最後に中山監督が子どもたちに最も伝えたいことを聞かせてください。

 人間力ですよね。人として正しい行動をしているからこそ、正しい野球ができるんだというのが先生の教えなので、人間がちゃんとしていない人は、ちゃんと野球ができないと思います。

10年前は若かったので私も血気盛んだった。怒り方とか言い方とか考えなかったし、それは必要だと当時は思っていました。でも、10年経ってそのやり方はやめたというのはありますね。

でも、チーム設立時に掲げたチームの方針とか理念は変えたことはないですね。一番は「自分を律すること」と「自分で立つこと」の両方の “ じりつ ” ですね。子どもが“じりつ”できるようにこれからも好きな野球を楽しめる場を提供したいと思っています。

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