2022年度 野球規則改正についての解説<1>

プロアマ合同の日本野球規則委員会は、2022年1月27日に今年度の公認野球規則の改正を発表しました。

今回は、ワインドアップポジションおよびセットポジションからの投球について、アマチュア野球だけに適用されていた【注】を削除して国際基準に合わせることにしたことをはじめ、7項目の改正が行われました。

 第1回では商業的宣伝、ワインドアップポジション、セットポジションについての改正のポイントについて解説します。

(1)3.09商業的宣伝【注3】③の改正

3.09【注3】③の第2段落を次のように改める。(下線部を追加)
 マーク類を布片、刺繍または樹脂製の成型物、あるいはスタンプによって表示する場合(エナメルのように光る素材での表示は認められない)は、親指のつけ根に近い個所に限定し、その大きさは、縦3.5㌢、横3.5㌢以下でなければならない。

ミットやグラブにマーク類をスタンプで表示する場合、色だけではなく、布片や刺繍また樹脂製の成型物と同様、表示個所や大きさの規制を適用することになりました。

この改正は、昨年のシーズン中にNPB で、ある外国人選手が亡くなったペットの名前やシルエット、追悼のメッセージなどをグラブの背面親指付近のスペースに入れたことが発端でした。

NPB ではこれを公認野球規則3.09で規定する“マーク類”に準じるものとみなし、刺繍等で表示する場合と同様、親指の付け根部分に縦3.5㌢、横3.5㌢以内での表示を認めることにして、シーズン途中からドレスコードに追加しました。

今回の改正は、この措置に規則上の裏付けをしたものです。アマチュア野球においても、マーク類のスタンプ表示は基本的にNPBと歩調を合わせますが、NPB の例にあるような個人オーダーは認めず、メーカー既成のデザインで、規定範囲内のものを容認することにしました。

なお、高野連ではミットやグラブに氏名や番号その他の文字などの表示を禁止しています。

(2)5.07(a)(1)ワインドアップポジションの【注1】を削除

5.07(a)(1)【注1】を削除し、同【注2】を同【注】とする。

日本のアマチュア野球だけに適用していた下記の規定を削除し、国際基準に合わせることにしました。削除されるのは以下の規定です。

【注1】アマチュア野球では、投手の軸足および自由な足に関し、次のとおりとする。

① 投手は、打者に面して立ち、その軸足は投手板に触れて置き、他の足の置き場所には制限がない。ただし、他の足を投手板から離して置くときは、足全体を投手板の前縁の延長線より前に置くことはできない。

② 投手が①のように足を置いてボールを両手で身体の前方に保持すれば、ワインドアップポジションをとったものとみなされる。

アマチュア野球においては、2013年の規則改正でワインドアップポジションでの自由な足を置く位置に関して、それまでの『投手板上に置くか、投手板の後縁およびその延長線より後方に置く』を原文通りに改め、自由な足は、投手板の上でも、前、横、後ろであっても構わないこととしました。

また同時に、ワインドアップポジションからの投球に当たって自由な足を横に引くことも許されることになりましたが、ワインドアップポジションとセットポジションとの区別があいまいになるとの懸念から、上記【注1】①のただし以降の「他の足を投手板から離して置くときは、足全体を投手板の前縁の延長線より前に置くことはできない」として対応してきました。

しかし近年は、MLB やNPBにおいて多くの投手が、塁に走者がいないときに軸足を投手板に並行に置き、自由な足全体を投手板の前方に置いた状態から、ワインドアップポジションとして、自由な足を一歩横に引いて投球しています。

また、アマチュア野球においても、大学野球や社会人野球で、そのような投球動作をする投手が散見されるようになってきました。

本来【注1】の適用を受けるアマチュア野球では是正されなければならない投球動作なのですが、前記のとおりMLB やNPBでも多くの投手が用いており、すでに一般的に受け入れられている動作です。

また実際に、走者がいない場合は問題ありませんし、打者に対して影響を与えることもないことから、今回アマチュア野球でも改正に踏み切ることとしました。

ワインドアップポジションとセットポジションの区別については、5.07(a)(2)【原注】の「塁に走者がいるときに、投手が投手板に軸足を並行に触れ、なおかつ自由な足を投手板の前方に置いた場合には、この投手はセットポジションで投球するものとみなされる」ことを、しっかりと理解しておけば混乱はないものと考えられます。

ただ、この改正により、次の点には注意が必要です。

① 軸足を並行でなく投手板に触れる形のワインドアップポジションにおいても自由な足の置き場所に制限がなくなったので、走者が塁にいるときに、自由な足全体が投手板の前方に置かれていたとしても、軸足が投手板と並行に触れていなければ、ワインドアップからの投球とみなされることになります。

② 走者が塁にいない場合、投手板に軸足を並行に触れ、自由な足を投手板の前方に置いた姿勢からワインドアップポジションとして投球することができるので、自由な足を一歩横に引いてから投球することもできます。

③ 走者がいる場合(特に2アウト走者三塁のときに注意)、上記②の投球姿勢は、セットポジションからの投球とみなされるので、自由な足を一歩引いてからの投球はボークとなります。

④ 走者が三塁にいるときにワインドアップポジションからの投球に際して、投球動作の開始がどの時点になるのかについて、NPBと意見交換して次のように合意しました。

MLBでは、ボディスイングを伴えば、それが投球動作の開始となる解釈をとっていますが、我が国では、NPB、アマチュアともに投手が捕手とのサイン交換が終わった後で両手を合わせる動作は、たとえボディスイングや足の動きを伴わなくても、すでに投球動作の開始とみなすことを確認しました。

投球動作を開始したら打者への投球を完了しなければならず、軸足を投手板から外せばボークとなります。(審判員マニュアルに明記します。)

(3)5.07(a)(2)【注1】の削除

5.07(a)(2)【注1】を削除し、同【注2】以降を繰り上げる。

ワインドアップポジションの改正と同時に、セットポジションにおけるアマチュア野球で適用していた下記の【注1】を削除します。

 【注1】アマチュア野球では、本項【原注】の前段は適用しない。ここで【原注】前段とは、「走者が塁にいない場合、セットポジションをとった投手は必ずしも完全静止をする必要はない」という規定です。

この規則は2006年にOBRで改正されたのですが、我が国では止まっても止まらないでもよいとなると、投手が作為的に動作を変えて投球して打者を幻惑することが想定されるので採用しませんでした。

その後、NPB で外国人投手が多く在籍するようになったこともあって、2017年にこの【原注】前段を規則通り採用することにしましたが、アマチュア野球では引き続き、走者がいない場合でも完全静止を義務付けてきました。

しかし、今回ワインドアップポジションのアマチュア【注】が改正されると同時に、セットポジションについても国際基準に合わせることに踏み切りました。

走者が塁にいるときに完全静止を求めているのは、走者が盗塁のスタートを切れるようにというフェアプレイの精神から規制するルールです。

しかし、走者がいないときは、走者がいるときほど「完全静止」しなくても、同じ動作で投球していれば打者が幻惑されることはありません。

もしも投手が意図的に打者のすきをついて投球したと審判員が判断すればクィックピッチとみなされ、ボールが宣告されるのはこれまで通りです。(5.07a2【原注】)

なお、改正項目のうち, 5.07(a)(1)【注1】の削除および,5.07(a)(2)【注1】の削除についてはこの規定を削除することで周知徹底が困難と判断した団体については、それぞれの団体における特別規則(内規)をもって従来通りの規則を適用することになりますのでご留意ください。

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