「昭和の野球を完全に否定したくない。野球もマンガも根性が必要」『ドラフトキング』作者に聞く野球の楽しさ

クロマツテツロウさんにインタビューする第3回は、「ドラフトキング」や「ベー革」に表れている現代野球について、どんな思いで描かれているのか聞いた。「ベー革」で描かれる高校野球は昭和のスポ根とは正反対でデータや効率を重視する。だが、クロマツさん自身は「根性論」を完全には否定したくないと言う。

ーーご自身で野球を見られていて、時代の変化はかなり感じられますか

 めちゃくちゃ感じます。理論もそうですし、指導者がどんどん変わっていますね。何もかもが僕らの時とは違います。今なら絶対暴力はダメですし、生徒がYouTubeとかで情報を知ってるから、まずそれを論破しないといけないとか、 それなりの根拠をしっかり持ってないと納得して貰えないとか、そういう話はよく聞きます。指導者と生徒の立ち位置も今は変わっているのかなと感じます。

ーー情報はたくさんありますね

 例えば吉田正尚選手。日本人でもあの身長でメジャーであれだけ飛ばせているということに、多分、指導者も今めちゃくちゃ焦ってると思うんですよね。「小さかったらこういう選手」っていうカテゴライズが昔に比べてやりにくくなっていくじゃないですか。筋肉の質もあるでしょうけど、多分トレーニング方法はどんどん変わっていくでしょうね。

 身体がデカい選手と同じことやってても絶対ダメとは思いますが、小さい選手でも飛ばせるバッターになれることが実証されたわけですから。いい意味では可能性が広がってるので、面白いですよね。僕も170cmなんですけど、長距離砲を目指してみたかったです(笑)

 指導者はその分たくさん勉強しなければならなくなるんでしょうね。中三くらいに、一から飛ばすための体を作り上げて。絶対楽しいと思います。

ーー「ベー革」の指導者・乙坂監督は、ある意味理想的な指導者像ですか

 どうなんですかねぇ…。でも僕は昭和の野球が全部ダメとは思ってないんですよね。根性ってやっぱ生きる上でも必要なので、根性論を完全に否定するのはやりたくないです。野球は、最終的にメンタルスポーツって言わせてもらってるんですけど。ほんまにそうだと思うんで、だから理論と根性の両輪ちゃんと回して、パーソナルを尊重してあげるのが、いい指導者なんじゃないかなっていう思いもあります。

ーー今「ドラフトキング」と「ベー革」のバランスはどういう感じになってるんでしょうか

「ベー革」を掲載しているゲッサン!が月刊誌なので月に1話ですね。「ドラフトキング」はグランドジャンプが月二回刊なんで、月に2話描かせていただいています。合わせて月に三本あげています。

ーー常に締め切りがある感じですか

 そうですね。元々かなりストックがあったんですけど、なんか、ありがたいことに、去年の夏に映像化があった時から、漫画以外のいろんな仕事も増えちゃって、それでいつの間にかストックがなくなって、今はもう締め切りに追われてます。

ーーでもストックを作ってらっしゃるところがすごいですね

 いやぁ…「ストックのクロマツ」やったんですけどね。今年はずっと締切ギリギリでやらせて貰っています。今年も『ドラフトキング』のドラマ化にともない編集さんからは「結構ハードになりますよ」「大丈夫ですか」って一応言われたんですけど、ありがたいことなんでやりますっていう…(笑)

 ©クロマツテツロウ/集英社

ーーやはりそこは、野球部で培われた体力と根性で

 そうです!根性ですよ!これ書いといてくださいね。漫画家はほんま根性がめちゃくちゃ必要だと思います。漫画家がこんなにしんどいって思ってなかったです。漫画家って体力なんだと漫画家になってから気付きました。

ーー続けることが大変ですよね。アイデアに詰まる時ってありますか

 あります。全然。はい。そういう時は飲みに行きます。打ち合わせの時に、こんな感じでってストーリーの流れを編集さんにお話をするんですけど。そこからは色々と打ち合わせから結構変わったりもしますしね。そこからはもう1人の作業なので、 やっぱ、詰まるときは詰まります。

ーー本とか、資料みたいなものはたくさん読まれる方ですか。ネットで調べたりとか

 本はあんまり読まないです。でも、普通のネット記事は読みますよ、スポーツニュースの記事とか。メモとかも取らないですし、基本は頭の中で全部考えてますね。取材などで得た知識や体感した空気感、目で見たモノがインスピレーションの一部になっていることは間違いないですけど。

ーーベー革に使われている言葉や題材とか、色々ありますが、どこかモデルになってる学校などがありますか。

広島県の武田高校に一度だけ、取材に行かせていただきました。指導者の方のお話はすごく参考になりました。あとは知り合いの野球教室をやられているトレーナーさんが、東京に来られた時にご飯誘ってもらったりして、そこで新しい情報をいただいたりしています。 いや、本当にすごい速さで理論や知識が更新されているので、毎回、驚くことだらけです。

ーー最新情報もどんどん変わっていきますしね。

 正しいものはどれかっていう知識の取捨選択も難しいですし、知識や情報に振り回されるのも、面白い漫画を創る上では、違うかなと思っています。だから、一応ドラマ重視というか、 野球好きの人の信頼を裏切らない程度には、ちゃんと勉強はしていますが、それよりも野球を知らない人にも読んでほしいし、野球好きになってほしいっていうのがあります。 それが漫画の役割かなとは思っています。

ーーでは読者へのメッセージとしては、読む方には気楽に読んでいただいて、野球の楽しさを知ってもらいたい、こういう見方からも野球見られるよ、と

 そうですね。とにかく、野球はあんまり知らないけど、読んでみたら面白かったとか、野球の見方が変わったとか、そう言われるのがやっぱり一番嬉しいですね。野球好きはいいんですよ。

 自分もそうですが、野球好きは野球漫画の楽しみ方が上手なんで、野球漫画ってだけで手に取ってもらいやすいですし(笑)信頼を裏切らないようなリアルさを担保するのは間違いなく、責任としてあると思いますが、それ以外はね。漫画ってやっぱり娯楽なので、普通の人たちに、万人に読んでもらえるような漫画を描いていきたいです。

ドラフトキング1巻の表紙 ©クロマツテツロウ/集英社

ーーやはりドラマを観ている方は、漫画を読んでいる方とはファン層が違いましたか

 そうですね。普段、読まないような方がドラマを見てくれて、それは嬉しかったです。例えばムロツヨシさんや宮沢氷魚さんのファンであったりとか、やっぱり違うところから入ってきてくれるのは、すごくありがたいですね。 野球はわかんないけど、観てみたら面白かったって言われるのがやっぱり一番嬉しいです。

ーーそこからまた漫画を読んでみたり、他の作品を読んでみたり

 ドラマの『ドラフトキング』は、原作と変えてくれてるところがあるので、二重に楽しめるんじゃないかなとは思います。「ベー革」も映像化待ってます!(笑)

ーー大谷翔平選手は、漫画よりも漫画っぽいって言われていますが、漫画家さんから見るとどうですか?

 マンガ家殺しですよね(笑)WBCなんかね、もうあんなん漫画じゃないですか。アベンジャーズみたいな。 凄いっすよね。むちゃくちゃ感動して泣きましたけど、あれには絶対に勝てないですよね。

ーー漫画であのキャラクターを出してきたら、ちょっとやりすぎって止められるぐらいですね

 素晴らしいっすね。どんどん漫画の方が地味になっていくっていう。

ーーメジャーの大谷選手とかダルビッシュ投手はご覧になりますか?

 もちろんです。WBCも東京ラウンドは東京ドームで観戦させていただきました。

ーーいずれ「ドラフトキング」の読者でメジャーリーガーになる選手が出るかもしれません

 いい影響があったらそれは嬉しいですね。どんどん世界に行っていただいて、僕もアメリカに招待してほしいです(笑)冗談はさておき、大谷選手が二刀流の間にアメリカには、行きたいですね。

ーー二刀流を描かれる予定はないのでしょうか

 作品の中で言ってるのは、プロ野球選手になる人は、みんな元々二刀流っていう話は描かせていただいているので、そこはあまり、いいかなとは思ってますね。もしかしたら、描くかもしれないですけど。それより、右と左で140キロ出る選手が実際にアメリカにいますよね?アマチュアの選手だったと思うんですが、そっちの二刀流の方がちょっと面白くないですか。

ーー独立リーグやアマチュア野球にも時々現れますね。両投げとか、オーバースローとアンダースロー両方とか

 独立リーグも描く予定でいるので楽しみにしていてください。

「野球は楽しい」「野球を好きになって欲しい」、そんな思いが伝わってくるインタビューだった。気さくで人間的な魅力にあふれるクロマツテツロウさんだからこそ、描かれる作品も、野球そのものだけではない人間味が加わって、人を惹きつける作品になっているのだろう。

 インタビューでもあった通り、野球を知らない人に漫画を通して、野球を知ってもらう。知らない人を野球界に取り込むことが、未来の野球界に繋がっていく。クロマツトシロウ氏は、漫画を通して野球界に貢献してくれている。

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