自分で選んだ正しい努力 楽しむ姿を見せるのが「カノヤ野球」 (鹿屋体育大学・藤井雅文監督)

 スポーツ推薦のない国立体育大学が、10年計画で神宮への道を切り開いた。鹿屋体育大学の野球部を改革し、神宮への計画を立てて実行してきた藤井雅文監督に話を聞く第3回。

 監督なしで野球をしていた母校のために、「10年神宮プラン」を引っ提げて就任した藤井監督。学校を変え、野球部を変え、選手の意識を変えてきた。ハード面とソフト面を充実させ、正しい努力で「自分を成長させる」新時代の野球部の姿がある。

ハードとソフトの充実 

 ハード面としては、体育大学の持つ科学的分析・検証の出来る研究施設や、野球部のために徐々に進めてきた野球場の改修、トレーニング施設の充実などがある。運動能力や野球技術が際立った選手が入ってくるわけではない現状、まずフィジカル面を強化するとともに、トラックマン、ラプソードを使ったパフォーマンスの評価は2週間に1回程度行い、フォースプレート、モーションキャプチャーなどを使った動作分析は半年に1度ほど行う。現状分析やそれぞれのパフォーマンスアップに役立てている。

 ソフト面としては、野球を授業として取り入れ「研究」していくシステムがある。1,2年で野球に関して幅広く学び、3,4年で興味のある分野を選択肢、卒業研究へと深めていく。「自分で自分を成長させる」ために、それぞれの部員が自らの適性を考え必要なものを選択していく。企業とのコラボレーションなど、野球を通した社会との繋がりも増やしている。

 また、以前から様々な地域での活動を取り入れている。高校との合同練習、地域での野球教室、企業とのコラボ。地元と連携してアスリートフード提供も受けている。鹿屋市で応援を受け、九州で野球をやり、人に野球の魅力を伝えていく。地域との繋がりは、藤井監督が就任当初からずっと大事にしているものだ。

「楽しく野球をやる」「野球の魅力を伝える」

 自分の指導は、自分が受けてきた指導のアンチなのだと藤井監督は言う。自分たちの世代では、叩かれることも普通だった。しかし、叩かれて強いチームがあったとしても、叩かれることなく、それより強くて魅力的なチームは実際にある。藤井監督はかつてそんなチームを目の前で見て、「これだ。これを作りたい」と思った。それが今に繋がっている。

 だから、鹿屋体育大学野球部の野球は、「楽しく野球をやる」「野球の魅力を伝える人材を輩出していく」ということが根底にある。

高校生合同練習会の様子(野球部HPより引用)

「原点はやっぱり小学生のとき、公園でやっていたような野球。野球人口が減っている中で、やっぱり大人はキラキラしてる姿を子供たちに見せるべきだと思います」

 そこで輝くために、自分の適性を知り、自分に必要なものを取り入れ、正しい努力をして成長していく。自分で決めてやり抜く。それはきついだけのことではないはずだ。全日本大学選手権で、神宮で、選手たちはそれを体現していた。同じことをやる際に、イヤイヤやっている人たちは、楽しくやる人たちに勝てない。

「練習も嫌そうにやってる選手は周りに悪影響なのでつまみ出します。」そう藤井監督は笑う。

「その次」に目指すものは

「神宮へ」という目標を達成した鹿屋体育大学だが、それではその次に目指すものは何なのだろうか。2022-2023年で「第3フェーズ」に入ったところになる。2023-2024では何を目指し、何をしていくのか。

 藤井監督によれば、第1フェーズは「監督がいなかった時代を知っている学生が最高学年の時」。やることが限られている時期で、目標は「鹿児島で勝ち、南九州大会へ出ること」。第2フェーズは「入学から監督がいる学生が最高学年になる年」から。その時から「南部九州大会で優勝して神宮を目指す」ことを目標に掲げた。第3フェーズは「(野球の)授業を受けた学生が最高学年になる年」から。ここからは「神宮で勝てるチームを作る」というのが目標だった。そして、そのフェーズに入ったその年に「神宮で勝つ」という目標を達成している。

「僕の中では第3フェーズなので、目標、大きな位置づけは変えず神宮で勝てるチームを作り続けようと思っています。勝負の世界なので、当然負けることもあると思いますけど、予選敗退したとしても、振り返った時に『僕らの野球は神宮で勝てる野球だったよね』っていう風に言えたら、僕は合格点かなと思っています」

全日本大学野球選手権大会の出場を決めた直後の写真(野球部HPより引用)

学びながら成長する野球

 そしてこの先も、国立鹿屋体育大学という存在意義を示していく。スカウティングに頼らず、研究でも最先端を行きながら、常にアマチュア野球を引っ張っていきたいという考えもある。国立体育大学ならでは、学びながら成長することに一番重点を置いた野球をすることは、これからも変わらない。

「そういうチームがこれから増えていってもいいんじゃないかと思っているところです」

 神宮で2勝した。この先、神宮で勝ち抜くため、さらに必要なものがあるとすればそれは何だろうか。

 「決勝までとか日本一に、となったらやはり、戦力面ではもう少しないと厳しいというのは思っています。今回みたいに青学と勝負出来るかといったら、正直まだ勝負にならない。あそこまでのチームになるには、それだけの能力を持った子が、うちで学びたい、成長したい、と思ってくれるようになれることが必要かなと。でも、スポーツ推薦でどんどん引き抜かれる大学野球界で、一般入試だけでそのステージまで行けるかといったら、『日本一』という目標はまだ早いかなと思っています」

 今回の神宮で「鹿屋」の名前は確実に知名度を増した。どんな学びをするのか、どう成長できるのか知って、「鹿屋で学びたい」「野球をしたい」と扉を叩く選手も出てくるだろう。また、藤井監督からさらに新しい発想が出てくるかもしれない。

いずれにせよ、新チームとなった「カノヤ」が、次はどんな野球を見せてくれるか楽しみだ。

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