未来ある子供たちに野球を長く続けてもらうために 〜侍ジャパンU-12代表選考での野球健康診断〜

2023年6月17日(土)、都内のグラウンドで様々なユニフォームを着た選手たちが一同に集められた。この日集まったのは『侍ジャパンU-12 代表全日本合同トライアウト~デジタルチャレンジ~』を通過した41名である。午前中にコーチングスタッフと選手、保護者との面談、野球健診を行い、午後からはグラウンドへ出て走攻守、ピッチングといった実技面でのプレーを披露した。

 午前中に行われた野球健康診断は2019年に初めて実施され、コロナ禍での代表活動の中止に伴い2年間中止となっていたが今年で3回目となる。

 最初に選手たちはメディカルスタッフによる肘の診察とエコーによる検査を受けた。触診による可動域の確認や、押された時の痛みの有無、外反内反でのストレステストを行った。また、エコーでは、OCD(離断性骨軟骨炎)の状態を確認。当日行われていたエコーはいわゆるスクリーニング検査と呼ばれるもので、選手自身が痛みを感じていなくても検査を通してOCDの予兆を見つける狙いがあるという。

今回、メディカルチームを統括していた可知 芳則ドクターはこう話す。

「U-12世代の選手たちによく見られる怪我の一つに野球肘があります。その中でもOCD(離断性骨軟骨炎)と呼ばれる障害は、肘が痛いと感じた頃には既に症状が進行をしていてそこからの完全復帰を目指すには時間がかかるというケースがよく見られます。気づいた時にはもう手遅れとならないためにもこのような検査は非常に重要な意味を持っています」

 触診とエコーを終えた選手は続いて、PT(Physical Therapist:理学療法士)がいるエリアに移動をして肩・腰を中心に確認を行った。肩の動かし方に違和感がないか、可動域に異常はないかなど複数項目に渡ってチェックを実施した。

一般的な野球健診では肩・肘を検査項目としているケースが多い。今回、腰も検査項目に加えている理由を可知先生が明かしてくれた。

「成長期の選手には腰椎分離症を発症する子供たちも多くいます。症状がひどい選手の中には、プレーをするのもままならない子もいます。集合型かつ時間が限られているということもあり、簡単な検査項目ではありますが、腰椎分離症の初期段階でも見つけることができればと思って腰も一緒にPTの方に見てもらっています」

 最後には、統括をしている可知先生との面談が行われ、これまでの検査項目を踏まえての簡単なヒアリングや、その他の気になる部位があるかを確認。肩肘、腰を中心にドクター・PTのチェックを受けた部位以外には、オスグッドの症状があるといった内容が会話する中で新たに分かることもあるという。

 これらの健診を通じて、ドクターチームからコーチングスタッフには各候補選手のメディカルの状況が共有されるという。健診で得た情報を基に、代表選手としての活動よりも治療を優先したほうが良いのではと提言を行うこともある。野球というスポーツを長く楽しく続けてもらうために今すべきことは何かとメディカルの観点でのアドバイスを送る。

 ここ最近は学童野球のチームや、硬式のクラブチームなどでは医療機関と連携をして野球健診を行っているケースも多く見られる。指導者や保護者の方々がプレーをしていた時代よりもメディカルの重要性が説かれるようになってきた今、重要なことは何か。

「子供たちが話しやすい環境を作ることが大切です。家庭で子供たちと接している保護者や、グラウンドでプレーを見ている指導者の方々がそういった環境を作ることで、子供たちが自分の身体に感じている小さな痛みや違和感を伝えやすくなります。早期発見、早期治療を行うことで子供たち自身が長く楽しく野球を続けることができます。頑張ることと無理することは違うと大人が理解することが大事ですね」と可知先生は話す。

 未来ある子供たちが長く楽しく野球を続けていく上で大人ができることは何か。技術指導だけではなく、メディカルの重要性を改めて考えていくことが大事になってくる。

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