ラプソードで選手の状態を素早くキャッチ 野球指導に動作解析とデータを生かす(コシコン・西山陽一郎)

 計測機器が普及し、「球速」とともに「回転数」や「回転軸」などのデータは身近になってきた。指導の現場でデータはどのように生かせるのか。ラプソードと動作解析で指導を行っているコシコン西山陽一郎さんに話を伺う。

西山さんは、高校まで野球に打ち込んだ後、理学療法士の資格を取って整形外科系の病院に就職。そこで働くうち、野球肘や野球肩の予防をしたいと思うようになった。野球チーム向けに怪我の予防やコンディショニングをしていこうとしたが、有償での需要はあまりなかったという。そこで視点を変え、「どういう体の使い方をしたら打撃が効率的になるか」「球が速くなるか」と、パフォーマンスを上げる指導を始めたところ、導入する学校やチームが増えていった。

ー最初は普通にフォームを見て、フォームを直したり、トレーニングの指導をしていたのでしょうか

 はい。フォームというのは、プロ野球選手を見ても色々あります。まずはその選手が「プロ野球選手の誰に似ているか」を見ます。フォームが似ている、もしくは体格とか身長とか特徴とか、そういう視点で、まずはプロ野球選手で似ている選手を抽出します。その似ている人と、 今の君はフォーム的にどこが違うよという風な形で比較をして、「 ここをもう少しこうしたら球が速くなる」とか「コントロールが良くなる」というのを、選手にアドバイスする感じでした。

ー野球指導をする「コシコン」を立ち上げ、一人で計測や指導をされているのですね。ラプソードとの出会いはいつ頃だったのでしょうか。例えばテクニカルピッチなど、他にも機器はあったと思いますが

 4年前ぐらいですかね。テクニカルピッチも何回か使ったことはあるんですが、ラプソードをサンプルで使ってみたところある程度安定した数値が出てきました。それで、ラプソードを購入しました。

ー指導の頻度はどれくらいでしょうか

 チームによりますが、年間で契約している場合は、平日の部活に行って指導をして、そうでないところは1ヶ月に1回や、土日などを1日使って講習会のようなな形で指導をします。

ーどのような方法で指導をされていますか

 特に年間で契約して指導しているチームは、フォームも毎回全部撮影して、データを取って、「こうしましょう」と改善案を提示する形です。1ヶ月に1回といった講習会形式のチームは、なかなか個別に全員見ることはできないので、こちらが用意したフォーマットで、 「こういう風に振ればよく打てるよ」「こういう風に投げたらいい球が投げられるよ」というのを講習会でやり、それを実践してもらう形です。希望があれば、全員ではないですが、何人かはデータを取って指導します。

ーデータを取って撮影して、その場でアドバイスまで出来るのですか

 はい。映像を撮って、データと見比べて、ここら辺が違うというのもその場でできます。

ーほかに指導者の講習もやっておられる

 そうです。指導者の方はコロナ前は会場を借りて集まってもらって、打ち方とか守備とか投げ方とかで、こういうフォームが適してますよ、というのを、指導者の方に解説する形ですね。

ーパフォーマンスアップということで指導をされていますが、それは怪我をしにくいフォームにも繋がるのでしょうか

 技術指導の中で、こういった投げ方の場合は怪我しやすいですよ、ということはやったりもしますね。

ー実際にそれで怪我が減っている実感はありますか

 はい。何がいいかと言うと、 ラプソードで球の回転などを定期的に見ていると、調子が悪かったり、何か異変があった時、やっぱり同じストレートでも回転が変わってきたりするんですね。そういう兆候を素早くキャッチできます。調子が落ちているときに、前の映像と色々見比べて、 「この辺がちょっと負担がかかるフォームになっている」とアドバイスしていける。だから投げ過ぎなどがあっても、早めに処置できる。今は意外と怪我なく3年間過ごせる子が多い印象ですね。

ーまた、プロ野球選手の指導もされているそうですが、プロ野球選手の場合の指導というのは、アマチュアの選手とは相当違うものでしょうか

 プロ野球選手の場合、一つは調子の良かった時と、悪くなった時を比較して、どの辺の動作やフォームが変わっている、というのを提供するケース。あとは肘肩を手術した後などに、フォームを変えないとならないケースがあります。元々ハイパフォーマンスを出しているので、 負担のかかるフォームになっているケースもあります。じゃあこの箇所に負担がかからないようにするには、こういうフォームがいいですよとか、こういう選手のフォームをモデルにして、フォームを作っていった方が合ってますよ、というのを映像で提供する形ですね。

ーその選手にとって正しいフォームというのは、なかなか難しいとは思いますが、どのように発見していくんでしょうか

 ピッチャーの場合、例えば変化球を投げる時、ストレートと同じような形で投げると言いますが、実際プロの選手を全部撮影していったら、ストレートと同じような感覚で投げていても、実は腕の出所とか体の使い方は、ほんの少しずつ違っています。で、選手が「こういう変化球を投げたい」という時に、 「それなら体の使い方がこう動かせるようになっていないといけない」っていうのが、体の使い方的にはあるので、その投げたいものに合わせて、体の使い方を逆算していく感じになりますね。

ーそれで、やはりその人に投げ方が合わないから、その変化球は向いてないよということもあるんですか

 もちろんあります。

ーフォームの指導をする時に、データをどのように生かしているのでしょうか

 結構チームの監督さんとかも、例えば150キロとか回転数がすごく高いというのだけで、結構満足する方が多いんですが、それでは意味がない。プロ野球選手では、数字が高校生と同じでも、実際見ると全然いい球だったりするんです。データは、パフォーマンスの一部であって、そのデータがいいから必ずいいピッチャーというわけじゃない。データがある程度あって、実際に肉眼で見て、 例えば腕のしなりとか、体の使い方とかで見え方が変わってきます。

ー数字は一つの目安という形

 そうです。一つの目安ですね。

ー例えば、回転数が多くなれば、必ずしも球が良くなるとは言えない

 はい。でも今の中学生・高校生はデータとか映像とか客観的なものが好きなので、特に数値が上がると、モチベーションがアップするんです。そういう意味では、ジュニア層には、ラプソードはすごく適しているのかな。大学生とかプロになっていくと、やはりデータは本当に一部分になってくるので、その他の要素をしっかり見極めて、アプローチしていかないといけない。

ーラプソードを利用した具体的な例で、どのように役立てているか教えて頂けますか

 ピッチャーでは大体ラプソードと映像を同時に撮ります。例えば、練習前と練習後の指のかかりを比べることができる。練習前後に撮影した写真と比較して、この場合人差し指と中指が同時に離れているのではなくて、最後人差し指にかかっていますよというようなイメージです。これは高校生に多いんですが、これだとボールに力をしっかりと加えられなくて、抜けるような形になる。シームの形に合わせて投げ方を少し変えると、二本指がぐっとしっかりかかっていることを実感する選手もいます。映像を見て、その指の掛かりがおかしいとなった時に、 ラプソードの回転をチェックします。大体抜けているとジャイロ回転になっている。綺麗なバックスピンじゃない回転をするんですね。指がしっかり掛かっていると、 バックスピンがかかって、伸びるような形になる。

映像とラプソードのデータで、「今こういう回転をしていて、指をこういう使い方をしてるから、 今のストレートはこんな回転をしてるんだよ」と解説して、「じゃあ、こうやってみて」。映像とラプソードをもう1回撮って、「あ、変わったね」とやると、選手も納得して練習できます。

今のはピッチングの例ですが、例えば守備でも、 プロや元プロの選手の動画を色々な角度から撮り、高校生とか中学生の映像も撮って、比較してどこが違うかというのをしっかり認識してもらう。守備だとなかなかラプソードみたいな数値はないので、野球の動作で比較してあげると、結構今の子は興味を持ってやりますね。

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