今大会の発表ファイナリストでは唯一の高校生チーム*となった祇園北高校チーム。大学生、大学院生らにも全く引けを取らない立派な発表で、プレゼン終了後に会場からは大きな拍手が送られた。引率として3名の発表を見守った、祇園北高校野球部・副部長の篠原凡先生と、同校理数コース主任で科学研究部顧問の西先生。お二人にファイナリスト選出から大会までの様子、二日間の大会を通じての生徒の成長、この大会の持つ意義などをお聞きした。
*ファイナリスト7チームのうち1チームが諸般の事情により欠席
祇園北高校チームがファイナリストに選出されたという連絡が入ったのが2月13日(月)の朝。前日の日曜日に「令和四年度 広島県科学セミナー 第三回科学セミナー(発表会)」で、野球データ分析競技会にエントリーをしていた野球部のマネージャー3名が優秀賞を受賞した矢先だった。

2月12日の科学セミナーでは優秀賞を獲得(写真=チーム提供)
西先生自身は大学まで野球経験があり、数年前まで同校野球部の顧問を務めていた。理数コース主任という立場になってからは野球部の顧問を離れ、現在は科学研究部の顧問を務めている。本競技会にエントリーするにあたっては、事務的な窓口を担っていた。
「すぐに、野球部の篠原副部長に連絡をして、3人を集めました。」
東京で行われる大会までの9日間はあっという間に過ぎていったという。短時間でデータを処理、分析をして最終的にプレゼンを行うという方式が事前に案内されていたことから、当日までの準備期間には毎日、西先生が生徒たちにデータを与え、1時間で分析〜発表を行うという実践練習を積んでいった。この短期間で西先生が感じたのが生徒たちの“成長スイッチ”である。
「これまでに、1時間で与えられたデータを分析してそれをプレゼンする、なんてことはもちろんやったことがありませんでした。正直、ファイナリスト選出の日の放課後に行ったプレゼン練習の時は、大会当日大丈夫かなっていう不安がたくさんありました。しかし、そこから生徒たちはものすごい成長曲線を見せてくれました。」
データを分析するときの着眼点、発表の仕方等々、西先生がアドバイスしたこと以上の成長を短期間で見せた。広島を出て東京に向かうときは、この子たちなら堂々とやってくれるだろうと思わせるくらいだった。

プレゼン直後の聴講者からの質問にも動作を交えてしっかりとした回答を行っていた
同校は、2021年夏に創部39年目で初となる広島県大会準優勝を果たし“祇園北旋風”を起こした。同年4月に自身の母校でもある祇園北高校に赴任した篠原先生は、データをこう表現した。
「データそのものは“考える材料”になるのではないかと思います。よく現場では“考えて野球をする”という言葉が飛び交っていますが、何を判断材料にして考えているのかという話です。」

日常的な活動から野球を“考える”材料としてデータを活用しているという
篠原先生はよく選手らと映像を見ながら話をするという。例えば、指導者と選手が打撃を振り返る時に「どうしてあの球に手を出さなかったのか」という話になることがある。篠原先生曰く、それは“指導者と選手の議論の土俵がそもそも合っていない”状態だという。指導者は選手のプレーしている姿を見て選手に指導をする一方で、選手は自身のプレーの姿を直接見ることはできない。その時に、共通の判断材料になるのが映像になってくる。指導者と選手が同じ映像を見ることができて初めて、共通の理解で話し合える。

普段の練習や練習試合から動画を撮影し、チーム内で共有をしている(写真=チーム提供)
データも映像と同じく、客観的な判断材料である。自分がなりたい姿に対して様々な数字やデータから「今、自分はどの位置にいるのか」「どれだけ数値が足りていないのか」を確認する。その上で見えてきたギャップを埋めるためにどんな練習をすればいいかを考える。この状態がいわゆる“考える”野球であるというのが篠原先生の考え方である。
「野球データ分析競技会に出場できることは、春の選抜や夏の選手権に出場をして甲子園で試合をすることと同じだよ」
と出場した3人の部員にはよく話をしていたという。事前の準備期間と2日間の大会期間で普段では考えられないくらいの成長曲線を描くことができた理由は、いわゆる全国大会という舞台に立てたからこそだと篠原先生は考えている。



競技会当日は普段の活動をヒントに発表を行った
「野球部の中には、甲子園という舞台を目指すフィールドプレーヤーもいれば、その裏方として支えるメンバーもいます。サポートをする彼ら彼女らにも、目指すべき全国の舞台がある。それぞれが高みを目指して相乗効果を生んでいく。そんな場を設けていただき感謝しています。指導者目線では、大学生や大学院生らの発表を見ることで高校生を指導する上での『未来の道標』になった良い機会でした。高校生の発表とそれより上の世代の発表を比較していることで現在の立ち位置が分かり、ギャップを埋めるためには今、何が必要なのかがぼんやりとですが見えるようになってきました。」と篠原先生は話す。

祇園北高校チームの提案
第2回を終えた野球データ分析競技会。今後は、高校野球といえば甲子園と同じように、本競技会がデータ分析に携わる学生が目指す最高峰の舞台となる可能性も秘めている。参加する学生の成長のため、未来の道を切り開くため、是非とも多くの学生たちにチャレンジをしてもらいたい。

