ナガセケンコー・長瀬泰彦 地方と首都圏の“違い”を知るために全国へ 業界人が感じた日本野球の今

 Baseball Japan(ベースボール・ジャパン)というホームページがあるのを知っているだろうか。同ページは少年野球情報から海外の野球情報まで幅広くの情報を紹介している、いわゆるメディアサイトである。圧巻の情報量に驚きを覚える一方、さらに驚きなのが、その運営者だ。こちらを運営しているのは、軟式野球ボール等の製造で知られるナガセケンコー株式会社で、取締役会長を務める長瀬泰彦氏である。業界に深く関わる長瀬氏が、メディアを作ったわけとは。


業界内で感じていたズレを確かめるために

 ナガセケンコー株式会社。軟式野球ボールの製造などで知られる、業界に深く携わり続けている会社だ。同社で現在、取締役会長を務める長瀬氏が、新しいメディアを立ち上げたのが2015年4月のこと。立ち上げ当初は『監督インタビュー』という名前で、関東地方を中心に、少年野球の監督たちへの取材をして回っていた。

「業界に携わる会社の人間として、もっと業界のことを知らないといけないと思っていたのと、知ろうとすればするほどに、少し“違和感”みたいなものを持っていたのです。取材を通じて、そのあたりの理由が分かれば良いなと思いました」

 長瀬氏が感じていた違和感。それは、野球人口の減少が騒がれ続ける中で、現場と業界の感覚がズレていると感じたことだった。誰もが危機感を感じていながらも、現場は現場の、業界は業界の課題をそれぞれ抱え、それが一貫しているようにみえて平行線で、抜本的な解決がなされていないことだった。

「このままで業界は大丈夫なのか?と思いました。ただ、当然これまでにも数多くの方達が議論をしてきたわけで、そこが効率的に改善されないのにはなにか理由があるんだろうと思ったんです」

オフィスにはさまざまな種類のボールが展示されていた

取材を通じてわかった野球愛と地域性

業界をより知るために、少年野球チームに自ら取材打診をして、カメラを片手にインタビューを実施。数を重ねるごとに、業界への理解が明確になっていったという。

「まず、いま野球に携わっている指導者やチームの関係者の皆様は、とても野球に対する愛が深いなというのをあらためて感じさせられました。愛があるから続けてこられたんだと思います。指導者のみなさんが、野球をはじめた子どもたちが中学、高校に進学しても野球を続けてもらいたいと考えていますし、野球の人口減少、普及についても関心を持たれています」

 明確になった“良い点”はこのようなところだった。一方、悪い点は下記の通りだ。

「課題はたくさんあるし、みなさんがその課題を理解しているんですが、その課題は地域ごとにズレがあって、それぞれ解決に必要なことが違うんだということがわかりました。『野球普及のために、みんなでこれをやりましょう』ということを、全国で一律してやるようなことは現実的ではないということです。」

 人口の多い首都圏、競技自体が盛んな関西・九州などと、それ以外の地域における課題は別である。首都圏では場所の問題や、他のスポーツとの“競争”が課題となることが多いだろう。一方の地方では、指導者の問題や、野球を続けるための選択肢の少なさなどが課題になる。それを、ひとつの方向性で整理しようというのは、難しいという結論に辿り着いた。

「冷静になれば当たり前と言えることかもしれませんが、私は現場を回ってあらためて気付かされたことでした。みんな、正しいことを言っているんです。ただ、それは局地的な話で、それをまとめるには各地を回るしかありませんでした。なので、私はいまなお地方を回って情報を集めているんです」

取材を行ったその週末には東海地方へ取材に行くという話も

野球の未来のために必要なこと

 各地を回ることであらためて気付かされた野球の魅力もある。

「表現が難しいですが、野球に真摯に取り組んでいるチームは、指導者の方達はもちろんですが、選手たちもみんなとても礼儀正しいです。野球を通じて、選手たちへの教育を丁寧になされているんだなあと感じさせられます」

 その一方で感じる課題も多分にある。

「一部のチームでは、まだ体罰的な指導が残っていたりします。地方では、そういう指導者が残っていても他に選択肢がないために野球を続けるためには、そのチームにいくしかないという現実もあるんですよね…」

 メディア運用を通じて、業界の課題を、身を持って感じている長瀬氏。今後の野球が発展するために必要だと感じることを最後に聞かせてもらった。

「先ほども申し上げたとおり、野球界の指導の現場はいま、野球への愛で成り立っています。素晴らしいことだとは思いますが、善意だけで続けるのは難しいのも現実です。この辺りは改善が必要な部分になっていくと思います。首都圏と地方という問題はもちろんのこと、少年野球と、中学校野球、高校、大学とすべての分野の方々が、ともに課題を共有してやっていけるような業界になってほしいと思います」

 野球のさらなる発展のために、いまいちどひとつに。未来を見据えた取り組みが実施されることを願っている。

(了)

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