(写真:本人提供)
以前にも紹介した、ボールの回転数や回転軸などの“新データ”を研究する学生団体『RAUD(ラウド)』。そこに籍を置くメンバーに変わった経歴の持ち主がいる。島孝明、24歳。3年前までは千葉ロッテマリーンズの投手としてプレーしていた元プロ野球選手だ。ユニフォームを脱いでから、いまの道に進んだ経緯、そしていま携わっている“新データ”の秘めたる可能性について、語ってもらった。
引退後すぐに頭を切り替え、選んだ進学の道
いまから3年前のちょうどいまぐらいの秋のこと。当時ロッテで投手としてプレーしていた島氏は、戦力外宣告を受けて3年間の現役生活を終えた。
「(戦力外になったときは)いつか終わりが来るというのは覚悟して入った世界だったので、言われた時はすぐに、切り替えていこうという気持ちになりました。元々、プロに入る前から大学に行きたいとも思っていたので、はじめは海外に留学するなどのことも考えていたのですが、セカンドキャリアサポートで國學院大学に進める機会があり、選考に合格することができ、進学しました」
野球のプレーに関しての未練はなく、一切野球に関係のない分野の道も考えていたが、ちょうど在学中に学内で『RAUD』が立ち上がることもあり、「プロまでやってきた経験が活きるのであれば」ということで、立ち上げメンバーに。元プロ野球選手として、“新データ”の研究、普及に携わる立場となった。

(写真:本人提供)
感覚的な部分に頼っていたところが、数字で明確になる
トラックマンやラプソードといった計測機器が日本で広まり出したのはここ数年のこと。島氏もそれらを耳にしたことはあったが、現役時代に熱心に触れていたわけではなかった。
「私が現役をしていた3年前ぐらいに、ちょうどボールの回転数が話題になりだしたくらいのころでしたね。いまもまだそうだと思いますが、当時はまだ、チームによって、選手によって、そういったデータをどう活用していくかの温度感はバラバラでした」
まだ、一般化されたとは言い難いが、面白い分野なのは間違い無いだろう。島氏もはじめは懐疑的だったが、いまは新データの魅力を大きく感じている。実際に触れてみてわかったのは、これまでの指導とは違う、“圧倒的なわかりやすさ”だという。

(写真:本人提供 選手とコミュニケーションを取る島氏)
「目だけでみていると、何がどうすごいのかというのをはっきりと説明することが難しいのですが、こういった機械を用いてデータを取得することで、その選手の強みや弱みを特定することができます。この投手のカットボールは、他の投手に比べて少し伸びるような軌道があるなとか、カーブも落差があるとかというのを、選手自身だけの感覚でなく、正しく理解することができます」
元選手の立場でも、このように自分の強みを知ることができるのは大きなメリットがあると島氏は語る。
「私自身の選手経験を重ねて考えると、自分のボールの特徴を感覚的な部分ではなく理解することができることで、配球や、球種を増やそうとする場合などに、どういったボールにトライしようかという引き出しを増やすときの参考にすることができると思います」

(写真:RAUD提供)
選手の技術向上にも間違いなく活かされる。今後どのように指導の現場に活かされていくのかが、日本野球の発展のひとつのポイントになりそうだ。
より若い世代の子達にも新データを
学生として新データに取り組んでいる島氏は、新データを活かした指導のビジョンをこのように語ってくれた。
「選手それぞれの測定をすることによって、選手たちの個性がいま以上に明確化されると思います。例えば、数値が安定しない選手は、フォームのバランスが悪いという話になり、下半身の強化を重視すべきだとか、そもそもまだボール自体に力が足りないという選手は全体の運動能力を高めなくてはいけないというのがわかってきます。選手それぞれによって必要なことが変わってきて、なにに取り組んでいくべきかというのが選手ごとに定まってくることになります。選手個々が、自分に必要な練習というのがわかるので、いままでよりも効率的に練習することはできると思いますね」
個々に足らないものがより明確にわかるようになる。指導の現場がそれに対応できるかという問題は別で存在するが、このような取り組みで練習方法が定まっていけば、学生時代などの限られた時間の中で、間違った方向での努力を続けてしまうリスクを避けていくことができるだろう。より効果的な質の高い練習に時間を費やすことができれば、それは当然、技術力の向上にもつながることだろう。

(写真:本人提供)
「いま測定などの現場で、裏方として現場にいってみて感じているのは、年齢のカテゴリが下がっていくごとにデータが受け入れられ難いということです。当然と言えば当然なのですが、触れれば触れるほど、これが必要なのは若い世代だと思っています。正しい知識を身につけて、自分のことを知ることは、長く楽しく選手生命を送ることができると思います。そのため、年齢層の低いカテゴリを預かる指導者の人たちにも、ぜひこちらのデータを知っていただきたいなと思います」
野球に携わる選手たちを増やすこと、子供達に長く野球に取り組んでもらうことを目標としている指導者の方も多いことだろう。この記事を読んで、少しでも興味を持った人はぜひ、RAUDの門を叩いてみてほしい。そこには、一選手として酸いも甘いも味わった経験の島氏がいる、きっと未来ある選手たちの力になってくれるはずだ。
(了)

