【野球シーズン本格到来!】実は意外と知られていない社会人野球の大会の仕組み

 8月に入り、本格的な真夏日が続いている。夏は野球のシーズンのうち全国大会が開かれることが多い。7月には社会人野球の都市対抗野球が東京ドームで行われ、8月は全国高校野球選手権大会いわゆる「甲子園」が開催されている。野球シーズンはプロ野球で春から秋にかけてのイメージがあるが、例年、7・8月は学生が夏休みということもあり、多くの大会の全国大会や上部大会に当たる大会が全国各地で開催されている。

 Homebase事務局では、これらを整理する中で各大会の位置付けや歴史、実施背景を改めてまとめることとした。 

 今回は、冒頭でも触れた「都市対抗」などで知られる社会人野球に注目する。社会人野球連盟で知られるJABA(公益財団法人日本野球連盟)は、社会人野球のイメージが強いが「”日本野球”連盟」という名前の通り、社会人野球の他に、女子野球や中学硬式野球・小学硬式野球などの全国団体が7つ所属している。その中でも、社会人野球カテゴリでは、全346のチームが所属しておりそのうち86チームがいわゆる企業チームで、それ以外に専門学校のチームが11チーム、クラブチームが249チームとなっており北は北海道から南は沖縄まで日本全国に点在している。(2021年5月1日時点)

 社会人野球の大会は大小さまざまあるが、その中でも規模が大きな大会が3つある。東京ドームで行われる都市対抗野球大会、秋に大阪で行われる社会人野球日本選手権大会。そして全日本クラブ野球選手権大会である。それぞれの大会は大きな括りで見ると社会人野球の大会ではあるが、大会のルーツ、本戦に至るまでの過程や大会独自ルールなど様々な違いがある。

 

全てのチームが黒獅子旗を目指す社会人野球の王座決定戦

まずは特に根強いファンが多いと言われる「都市対抗野球大会」である。毎年7月下旬に開催され、100年弱の歴史を持つ伝統の大会である。

 都市対抗野球大会のルーツは1920年代中盤に遡る。当時は日本にプロ野球は存在しておらず、東京六大学をはじめとする学生野球が日本野球界での主流となっていた。そんな中、東京日日新聞(現在の毎日新聞社)の新聞記者であった島崎新太郎が、メジャーリーグが地元に根ざしたフランチャイズ制を採用していることにヒントを得て、日本国内の都市を基盤とする社会人野球の大会を発案した。そこから、関係者の説得を重ね、ついに1927年に神宮球場で一回大会が開催されることとなった。

 都市対抗野球では、他の大会にはない大きな特徴がある。一つ目は、チーム表記である。大会名にも”都市”の文字が冠していることから参加チームも都市名を冠して表記されることが多い。7月29日に閉幕した第93回の決勝戦は東京都・東京ガス 対 横浜市・ENEOSの対決となった。本戦へ出場する各チームはその所在都市を代表する意味で都市長または町長の推薦状を提出し、ユニフォームの右袖に都市町章を貼付することとなっている。

 また二つ目として挙げられるのが「補強選手制度」である。都市の代表として最強のチームを編成することを目的として、同地区の予選敗退チームから3名まで「補強選手」としてチームのメンバーに加えることができ、一緒に大会を戦うこととなる。これには一つ例外があり、前年度優勝チームは、推薦チームとして優勝した次年度の大会に出場することができる一方、補強選手の制度を利用することができなくなっている。自チームの選手のみで連覇を目指すという独特のシステムである。このシステムのおかげもあってか、連覇は難しい大会でもあり、地区予選の結果は、本戦では前評判があてにならないような試合運びが多く、事前の予想が難しい大会とされている。

 ここで予選について、見ていきたい。都市対抗の本戦に出場するには、予選を勝ち上がらなければならない。北海道、東北、北信越、北関東、南関東、東京都、西関東、東海、近畿、中国、四国、九州の各地区での一次予選、二次予選を勝ち抜いた地区代表のチームと、前回大会の優勝チームが出場することができる。予選のフォーマットは、地区により異なる。クラブチームが多い西関東(神奈川/山梨)では、クラブチームによる一次予選の後、企業チームも参加しての二次予選が行われる一方で、中国(島根/岡山/広島/山口)では企業チームも含めて全チームが一次予選から参加する。5月から6月にかけてJABAに加盟する企業、クラブ全てのチームが入り乱れ、本戦出場を目指して全国各地で死闘を繰り広げる。社会人野球で1番熱いシーズンである。

 企業チームにとっては、1年に一度東京ドームに出ることで自社の宣伝につながり、社員が応援をすることでの野球部の価値に繋がるという思いで臨む大会。都市対抗に出るために1年間野球をやっていると言っても過言ではないのである。クラブチームはそんな企業チームに番狂わせを演じようと本気で立ち向かってくる。そんな構図でよく表現されるが、多くの人の思いを背負い一球にかける姿勢はどのチームも変わらない。そんな姿勢が見る人の心を打つ。

“社会人野球真の日本一決定戦” 単独チームで争うダイヤモンド旗

 こちらは「社会人野球日本選手権」を表現するときに使われることがある言葉である。本戦に参加できるチームはその年の都市対抗野球大会の優勝チーム、その年の全日本クラブ野球選手権大会(詳細は後述)の優勝チーム、対象となるJABA11大会の優勝チームと各地区最終的予選枠と呼ばれる地区予選を勝ち抜いてきたチームとなっており、各大会の混戦を勝ち抜いてきたチームたちが単独チーム日本一を目指してしのぎを削る非常にハイレベルな試合が繰り広げられる大会である。各大会の優勝チームが出揃ってから出場チームが決定するため、10月末から11月頭にかけて大会が開催されることが多い。社会人野球では日本各地でJABAの名前を冠した大会が開催されている。その中でも直接日本選手権につながる大会が11つある。それが先ほど述べたJABA11大会である。(以下イラスト参照)

 これらのチームの中からトーナメントを勝ち抜いた優勝チームが手にするのがダイアモンド旗である。また、優勝チームのみが付けることができるのがダイアモンドエンブレムである。2007年より制定され、翌年の日本選手権が終了するまでユニフォームの左袖につけてプレーすることができる。

 いわゆる日本選手権と呼ばれるこの大会、ルーツは戦後まで遡ることになる。1950年代以降、社会人野球では夏の都市対抗野球大会と秋の「日本産業対抗野球大会」の二つの大会が大きな大会として位置付けられていた。高度経済成長の日本において、産業別での強さを競うという大会の趣旨は多くの方を惹きつけていたが、高度経済成長の終焉とともに産業別の大会を実施する意義を問う声が出てきて1973年に「日本産業対抗野球大会」は打ち切りとなり翌年の1974年から「社会人野球日本選手権大会」へと移行する形となった。

 前身の大会の際には複数のチームを持つ大企業が合同チームを編成して出場するケースなどもあったが、単独チームとしての日本一を決めるといった声も大きくなっていた結果今のような大会形式に落ち着いていった。だからこそ、チーム力の強さが如実に現れる大会といえ、チーム力が試される大会とも言える。またNPBのドラフト後に試合がある大会のひとつで、指名選手のお披露目の場にもなりプロ野球ファンからも自チームの新戦力チェックの場にもなる秋の注目大会だ。

“クラブチームの日本一決定戦” 

 国内には250チームほどのクラブチームが日本野球連盟に登録されていると言われている。その中のナンバーワンのチームを決める大会が全日本クラブ野球選手権である。

 クラブチームは、社会人野球日本選手権、全日本クラブ選手権の予選のどちらかにエントリーが可能である。都市対抗は全チームでの大会となるが、クラブチームはどちらか一つを選択する形となっている。社会人野球日本選手権には全日本クラブ選手権で優勝したチームが招待チームとして出場することが出来るため、多くのチームは「クラブ日本一」を目指して、クラブ選手権にエントリーする。もともと都市対抗の本戦に出るほどの力があるクラブチームも多くあったが企業チームの台頭により、表舞台でクラブチームが脚光を浴びるシーンがどんどん減っていった。そんな状況が続き、大きな大会での試合経験を積むことができず、企業チームとクラブチームとの実力差が広がっていくことを懸念する声を受けて1976年に全日本クラブ野球選手権大会が開催されることになった。

 本戦に出場するにあたっては、各都道府県(地域によっては複数都道府県)においてリーグ形式やトーナメント形式にて一次予選を実施し、二次予選進出チームを決定。その後、北海道、東北、関東、北信越、東海、東近畿、西近畿、中国・四国、九州にてトーナメント形式での二次予選を実施。そこで勝ち抜いたチームが、各地区の代表チームとして 本大会への出場する権利を獲得することとなる。優勝したチームには平岡杯が2010年より授けられることとなった。この平岡という名前は、日本初の本格的な社会人野球チーム「新橋アスレチック倶楽部」を結成した故・平岡氏から名前を取ったもので、平岡氏は都市対抗野球で名前が登場する橋戸氏と久慈氏と共に第1号で野球殿堂入りを果たしている人物でもある。

 プロ野球や高校野球の人気の影に潜んでいるが、社会人野球はどの大会も非常にハイレベルな戦いが繰り広げられている。また、高卒一年目の18歳からベテラン選手では30代後半まで、世代の違う大人たちが負けられない戦いで必死にプレーする。これも社会人野球の魅力だ。それぞれの大会のバックグラウンドは違えど、そこでプレーをしている選手の熱量は変わらない。8月末から始まる全日本クラブ野球選手権大会、10月末から始まる社会人野球日本選手権大会、ぜひ注目して見ていただきたい。

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