選手から投げかけられた違和感の解決に挑む
第1回野球データ分析競技会に参加した全7チームのプレゼン内容を振り返る短期連載。3回目は、大会当日最初にプレゼンテーションを行った滋賀大学チームの「カーブの特性を踏まえたフォーシーム活用 〜投手の持つ違和感の数値化と言語化〜」の紹介をする。
「一番最初に聞いてもらえるほうがいいかなという気持ちだったので、1番目の発表でしたが緊張はしませんでした」

こう語るのは、滋賀大学チームの山﨑大輔さん。諸事情により1人での発表となったが、落ち着いてプレゼンテーションに参加できたと話す。そんな山﨑さんは、滋賀大学の野球部で学生コーチ兼データ分析班を担当するアナリストとしても活躍している。また、3歳から小学6年生まで、高校3年間はラグビーに打ち込んでおり、野球をプレーしたのは、中学3年間のみ。「もともと野球が好きで、できることなら野球とラグビーを両立してやっていければと思っていましたが、さすがに難しかったので、野球とラグビーを行ったり来たりという状況になってしまいました。大学に入学が決まった時点では野球部に入るという選択肢はなかったのですが、将来野球のアナリストになりたいという夢に近づくためには、学生コーチ兼アナリストとして部に入ったほうがいいと考えました」と話してくれた。
日頃から選手の指導、そしてデータ分析を行っている山﨑さんが、プレゼンで発表したテーマを選んだ理由には、ある選手から告げられた悩みだった。
それは「カーブを投げた後にストレートを投げると、どうしてもたたきつけてしまい、ワンバウンドになるケースが多い」というもの。
「今回、初めてトラックマンデータに触れたのですが、データをいろいろと見ていったときに、事前に投げかけられていた課題の分析につなげられると思い、これまで自分が取ったデータとトラックマンデータを融合させて、競技力向上につながる発表ができるのではないかと思いました」と山﨑さんは振り返る。
投手からの悩みを打ち明けられた直後、山﨑さんは球種や回転数などが計測できるセンサー内蔵のIoTボールを利用してデータを収集。すると、フォーシームを投げた後のフォーシーム、カーブを投げた後のフォーシームの数値を比較すると、球速で−0.6㎞/h、回転数で−15(回/分)、回転軸で3°スライダー回転にという誤差が生じていた。この数値だけをみれば誤差はわずかだが、ピッチャーでリリースポイントが1度ずれてもボールが内角から外角にずれるほどの誤差であることを説明。また、他の投手に同様の違和感がないか疑問が湧いたという。
これをもとに、他の投手8人にもアンケート調査を実施。すると、全員が変化球後のフォーシームを投げるときに違和感があるという回答がった。球種でみると、最初に悩みを告白した投手と同じカーブ後にフォーシームを投げるときに違和感があると答えた投手が最も多く6人、その他、スライダー、チェンジアップが1人ずついた。
変化球の後のフォーシームを投げる際に投手が抱く違和感の具体的な例としては、カーブの場合腕を緩く振るなることがあり、その直後にフォーシームを投げると力が抜けて、ボールが高めに浮いてしまう。変化球とフォーシームでは中指の感覚が違い、ボールが伸びないなどがあった。

回転数の有意差ありは投手のプラス材料に
山﨑さんは、今回の課題解決に向け、因果連鎖分析という手法を用いた。この分析法は、課題解決につながる諸要因を因果の連鎖という視点から整理して可視化するもの。投球に関わってくるさまざまな要素を書き出し、そこからリリースの高さ、回転軸、回転数など数字として表せるものを整理。その後、今回提供されたトラックマンデータから、カーブ後にフォーシームを10回以上投げた投手21人をもとに、分析を行ったという。

最初の分析では、球種がリリースポイントに与える影響に着目。カーブからフォーシーム、フォーシームからフォーシームの該当球でリリースの高さとエクステンションに違いがあるかを探っていった。結果は、有意差なしが20人、有意差ありが1人。リリースの高さとエクステンションの差が違和感の要因のひとつとして挙げられることはわかったが、他の理由もあるに違いないと、今度は着眼点をボールの回転数と回転軸に変更。同じ方式で有意差の有無を調べていくと、今度は、有意差なしが17人、有意差ありが4人という結果が出た。有意差ありの投手がわずかに増えたことで、ストレートを投げる前のカーブが、回転数と回転軸に影響する投手が一定数いることがわかったという。
この分析結果から、リリースの高さとエクステンションの高さの有意義はマイナスに作用ことが考えられるという。理由としては、前球でカーブを投げると、前球がフォーシームだったときに比べて、リリースの高さ約2.5cm低下し、エクステンションは約2.5cmプレート側になっていた。この性質を持つ投手は、リリースポイントがプレート寄りであることから、ボールを抑えきれず高めに浮きやすいと考えられ、打者からは、カーブを投げることでフォーシームの威力が減少して見えるという。
また、回転数の有意差はプラスに働くと考えられる。有意差ありと判断した投手が、カーブ→フォーシーム、フォーシーム→フォーシームと投げた場合の平均回転数差は80回転以上あった。さらに回転軸平均角度も平均2.3°で最大は12.5°バックスピン寄りになっていたのだ。つまり、この性質を持つ投手は、カーブを活用することで、質の高いフォーシームを投げられることになる。一方、回転軸の有意差についてはマイナス作用であることも判明。回転軸で有意差ありの投手の球種ごとで回転軸にばらつきがあり、カーブを投げることでのフォーシームの質の低下にもつながる可能性が高いという。

このように違和感をデータから言語化、数値化したうえで、山﨑さんは次の提言を行った。今回は、トラックマンデータを用いての分析をしたが、山﨑さんは大学の野球部でも使用しているIoTボールなどを活用してのデータ分析でも類似したデータ得られると実感。費用などでの問題も一定数は解決できるのではないかと考えているという。

選手の悩みに正面から向き合った山﨑さん。「自身の課題に取り組めて、成果が出せたことは自信につながった」と語る一方で、「自分よがりな一面も出てしまった。最優秀賞の横浜市立大学大学院チームのように、もっと聴衆を惹きつけられるようなものにしないといけないという反省点もみつかりました」と振り返った。今年で大学4年生となる山崎さん。今後は大学院への進学も考えて、アナリストとしての知識を磨きたいと意気込みも語ってくれた。

